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もののけ夜ばなし

俺の後ろから

作者: 赤わいん
掲載日:2025/09/25

 俺の学校に変なうわさがある。


 日中でも、北門に通じる小道をひとりで通ると、何かに追いかけられるらしい。


 追いかけられた生徒は、大けがをして入院し、登校しなくなる。


 だから、真相は誰も知らない。


 そのうわさは公然のうわさで、みんな知っている。


 だが、それを試してみようという生徒はおらず、北門はほとんど使われていない。


 俺は、寝坊をした。


 いつもは南門から登校するが、定期試験の今日、遅刻をするわけにはいかない。


 家から近いのは、北門。


 この時間に、誰も通っていないのは、ほぼ確実だ。


 しかし!


 遅刻は絶対にできない。


 大丈夫だ、あんなのは。ただのうわさ。


 追いかけられたら、逃げ切ればいい。体力には自信がある。


 俺は、自転車で北門に通じる小道を全速力でかけぬけた。


 予想どおり、誰もいない。


変わったことは、何もない。


 よし、行ける。


 北門が見えてきた。


 なんだ、何もないじゃないか。


 そう思ったとき、自転車のタイヤが、ぐんにゃりしたものを踏んだのを感じた。


 ん?


 思わず、振り返る。


 背後には、真っ赤な口が開いていた。巨大なトラックくらいの大きさだ。


 鋭い牙がいくつも見える。


 ぬらぬら光る舌が動いている。


 獣臭い嫌な空気が襲ってくる。


 うそだろ!!


 俺は引きつりそうな足に力をこめ、自転車のペダルを思い切り踏む。


 北門は、目の前だ。


 体全身が緊張でこわばる。


 行け、行け、走れ、走れ!!


 俺は力を振り絞って、ペダルを踏んだ。


 北門はもうすぐだ。門の奥に、校庭も見える。


 余裕だ、余裕、北門をくぐれ!


 学校に着けば、誰か助けてくれるはず。


 北門の向こうに広がる校庭や校舎にたくさんの生徒が見える。


 もうすぐだ、行け、俺!


 信じられないことが起こった。


 北門が、ぐぐっと遠ざかったのだ。


 まるで、目の前の小道が増幅されたみたいだ。


 うそだろ?


 俺の足が、一瞬、止まる。


 カツン!カツン!


 背後で鋭く大きな音がした。


 振り向くと、巨大な口が、俺を捕えようと牙を噛みしめては、開けている。


 俺は無我夢中で自転車のペダルを踏む。


 カツン!カツン!


 背後の音が、近くに迫ってきている。


 やばい、やばい、やばい!


 突然、ズボンのポケットに入れていたスマホから着信音が流れ出した。


 ゆったりしたチャイム。


 いつもは着信すると出なきゃ、と焦るが、今は俺を落ち着かせてくれた。


 自転車の前かごに入れている小さなバッグをつかみ、弁当を取りだした。


 後ろに向かって、弁当を投げつける。


 弁当箱は、大口に当たらず、あらぬ方向に飛んでいく。


 しまった。


 弁当に気をひかせている間に、逃げる作戦だったのに。


 俺は、自転車のペダルを必死に踏み込む。


 地面と何か巨大な物が、摩擦するような音が聞こえた。


 振り向くと、大口は、方向転換をして弁当が飛んで行った方へ進んでいる。


 よし!


 弁当の匂いに惹きつけられたのか。とにかく、逃げろ!


 遠ざかる北門に向かって、ペダルを踏む。


 振り向くと、大口は巨大な蛇だった。校舎と同じ高さの太い胴を持っている。


 北門が遠ざかるなら、それより速いスピードでペダルを踏めばいいだけ!


 俺は無我夢中でペダルを踏む。


 北門が近づいてくる。


 よし!もう少しだ!


 カツン!


 鋭い音と獣の臭いがした。


 もう、弁当を食い終わったのか。


 背負っているリュックに、パンを入れているのを思い出した。


 背中に手をまわし、横についているチャックを開けてパンの袋を取りだす。


 乱暴に袋を破ると、パンが転がり落ちていく。


 もう一度、地面と大蛇の腹が擦れる音がした。


 よし!パンに食いついたぞ!


 ペダルを踏む足に力をこめる。


 太ももがガチガチだ。でも、止めるわけにはいかない。


 カツン!カツン!


 牙を噛む音がする。


 だめだ、戻りが早すぎる。


 こいつに、俺は食べられるのか?


 また、スマホのチャイムが鳴った。


 同時に、別のうわさを思い出した。


 近所に蛇を祭っている神社がある。


 そこへ向かえば、この無限ループから脱出できるか?


 ベルトコンベヤーのように伸びる小道の向こうに見える北門が、だんだん小さくなっていく。


 神社へ行んだ!


 ふ、と北門が消えた。


 代わりに、神社の鳥居がはっきり現れた。


 俺は、無我夢中でペダルを神社に向かって踏んだ。


 スマホのチャイムが鳴った。


 俺は指先で、スマホの音を最大にした。


 大音響で鳴りながら画面を光らせているスマホを、神社の鳥居に向かって投げた。


 大蛇は、輝きながら飛んでいくスマホ目がけて大きな口を開け、俺の横を通り過ぎ、神社へ入っていった。


 


 気が付くと、俺は学校の自転車置き場にいた。


 「どうしたの?なんで、そんなに汗だくなの?」


 「気合入ってるの?一番乗りじゃん」


 笑いながら友人たちは教室に向かう。


 俺は自転車を置くと、教室に向かって歩いた。体じゅう、ガチガチだ。




 試験は夕方に終わった。


 今朝の出来事は、夢のようだ。でも、スマホはポケットにもカバンにもない。


学校帰り、蛇を祭っている神社に行ってみた。


神社の鳥居の下に、ネコほどの大きさの蛇の死骸があった。腹の真ん中に、車のタイヤ痕が残っていた。


俺の自転車のタイヤか?


体中から、どっと冷や汗が噴き出る。


いや、いや、それよりもだいぶ幅が広いタイヤ痕だ。

 

鳥居の脇にある低木の下に、きらりと光る物を見た。


スマホだ……。


拾うために伸ばした手を、一瞬、止めた。


スマホの横に、カプセル薬状の白い卵の殻がいくつも破れて転がっている。


それに触らないよう、注意深くスマホを拾い上げた。


画面は割れて蜘蛛の巣状になっている。


そっと指でさわると、動画が流れ始めた。


地面の砂が映っている。その向こうには鳥居の根本が映っている。


画面脇から、蛇が現れた。腹の真ん中が異様にぺしゃんこになっている。


蛇は、ズルズルと地面を這っていく。腹のタイヤ痕がはっきり見えた。


別の画面脇から、無数の小さな蛇が現れ、タイヤ痕のある蛇を取り囲んだ。


小さな蛇たちは、うねうねと取り囲むようにぺしゃんこの蛇にまとわりつく。


腹のへこんだ蛇は、口から俺の弁当やパンを吐き出した。


小さな蛇が、それに群がっている。


そこで、映像は消えた。


俺はスマホをタップしたが、もうスマホの画面が光ることは、なかった。


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