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6通目の手紙

夏の夜、23時。

家族が寝静まったころ、気づかれないようにそっと風呂場の小さな窓をくぐり抜けて家を抜け出します。風呂場の窓の下には小さな物置があり、足場にちょうどいいのです。誰にも気づかれずに家を抜け出すためには、ガチャリと大きな音がしてしまううえに内鍵がある玄関の扉は使えません。

風呂場の窓の外はミョウガの藪の隣で、蚊がたくさんいるから注意しなければいけませんでした。


首尾よく抜け出せたら、暗い住宅街を半そでとハーフパンツにサンダルで足音を立てないように歩きます。

するとそこにあなたが待っている。

不敵な笑みで私を迎え入れてくれる。

私の手を引いて夜のなかを泳ぐのです。




あのころ、何度か二人で夜の散歩をしました。

見つかれば補導されてしまいます。私たちの住んでいた自治体では、夜間の保護者を伴わない未成年の外出は補導の対象でした。

夜の住宅街に人通りはほとんどなく、子ども二人は目立ちます。ちょっとでも人が持つライトが近づいてくると私はビクビクして、よくあなたに笑われていました。


ウィズは私の好意を知っていたはずなのに、私とそうやって散歩してくれていました。


夜の神社の遊具で遊んだり、川の土手で並んで寝転がって星を眺めたり。夏の大三角形が出ていました。

あなたとこうしてよく一緒にいたことは思い出せるのに、何を話したのかはほとんど思い出せません。どうしてでしょう?



思い返すと、私とウィズはあらゆる物事にたいして、ほとんど意見が合いませんでした。

どうしようもなく齟齬があり、どちらが正しいかを決定しなければならないようなとき、ウィズが力技で私の意見をねじ伏せました。

だって、あなたの方がえらくて私の方が愚かだと決まっていたから。


あなたが導く方で、私が導かれる方。そういう役回りでした。

私はそれに心地よく身を任せるようなこともありましたが、あなたの強引さに苛ついていることも多くありました。一応納得したふりをしたけど納得していませんでした。たぶんあなたも気づいていたことでしょう。

私も段々隠さなくなりましたから。


高校生になった私たちは少しずつ変化をしていて、次第に喧嘩をするようになりました。しかも罵り合いお互いの痛いところをつくような激しい喧嘩でした。

あなたは私の欠点を正確に見抜くことに長けていました。言うことに遠慮が一切ありません。しかも、ずるくて意地悪でもありました。私を呼び出し「それやってくれないと今日は遊ばない」と自分の宿題を私にやらせたこともあります。惚れた弱みに……というのでしょうか、私の気持ちを知って利用するようなところがありました。

けれど、あなたの欠点がどれほど目に入りどれほど腹が立っても、私の恋心は冷めませんでした。自分でもおかしいと思うほどです。


私は私であなたを苛立たせることがあったでしょう。私はあなたの読まない本を読み、あなたの解けない宿題を解いてしまう。しかも社会や経済や差別などの事柄について、なんだか偉そうに語ってしまうような悪癖がありました。面白いはずがありません。それでいて、あなたへ「付き合って」と言いこそしないものの、好意を隠そうともしていません。あなたの幸福に最も関与するのが自分であればいいと考えていました。私には卑屈で傲慢でずるいところがありました。



それでもあなたは私に毎日メールをくれたし、夜にこっそり家から連れ出してくれました。

あのころはあなたのことを短気でわがままで偉そうだし憎たらしいなどと考えていましたが、大人になってみるとあなたの寛大さの方を思わずにはいられません。

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