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5通目の手紙

あのときのあなたの情熱的な探究心と真摯な優しい気持ちをなんて言い表したらいいのでしょう。

あなたは聡いから私が悩んでいることに気づいてしまった。

そして、私がなにに悩んでるのかなんとしても吐かせようとしたのです。


「どうしたの?最近おかしいよ?」

「私のこと避けてる?嫌いになった?」

「違う?どういうこと?言いな」

「なんで?言えないわけないだろ」


私も粘りました。どうしても言えませんでした。あなたに嫌われてしまうかもしれないと心底怖れていましたし、自分でもまだ気持ちを肯定できなかったからです。混乱の渦の中にいました。ほんとうにまだ何も知らないときで、ただそこにあなたへの気持ちだけがあって、シスジェンダーの異性愛者しかいなかった私の小さな世界の色が塗り変わりつつありました。



まだ春の庭でした。

木陰で菜の花やハルジオンが揺れていました。

私は地べたに座り込み、三角座りをして膝のあいだに顔を伏せ両腕で表情を見られないようにガードしながら、あなたがあの手この手で根掘り葉掘り聞こうとするのに耐えました。

長い攻防でした。

私が黙り込んでしまって、顔を隠しているときも、あなたは私の隣に座って私の髪を撫で続けました。心臓の裏側を爪で引っ掻かれたような心地でした。くすぐったいよりも痛い方が勝ちました。

あなたの優しい手の感触に私を心配しているということが伝わってきました。同時に友情にヒビが入ってしまったのではないかと怖れていることも。私たちはまだ幼く、二人の間に秘密があることは裏切りを意味しました。子どもだったのでなにもかも打ち明けることが真の信頼だと考えていました。

耐えきれずぽつりぽつりとこぼしたものを総合して、どうやら私に好きな人がいるらしいと知ったときのあなたはこう言いました。


「お前にそんなやついたっけ?」


どうにも腑に落ちない。そんな不可解な表情でした。

当たり前です。自由に使える時間のほとんどを私はウィズと過ごしていたのですから。そんな相手がウィズ以外に居るはずがありません。

次にあなたは相手の名前を聞き出そうと躍起になりました。


言えるはずがありません!

だってウィズ、それはあなたです!

あなたが好きなんです!

あなたです!


言えるはずがなかった。でも、私はあなたに質問攻めにされて、優しくされて、悲しそうにされてわけがわからなくなった。

あなたを裏切りたくなかった。


私はあなたに逆らえませんでした。出会ったときからずっとそうであったように。


叫ぶように言いました。


「ウィズ、好き!」


走って逃げ帰りました。いつも名残惜しくふり返る踏み切りもふり返りませんでした。


はじめての告白で、はじめてのカミングアウトでした。

絶対に嫌われたと思いました。

あなたに気持ち悪いと思われたと思いました。


でもあなたは不思議なことになにも変わりませんでしたね。

ただ私に何が望みか尋ね、「友達でいてほしい」と答えると変わらずにただ友だちでいました。

毎日の放課後、木陰の白いテーブルでのおしゃべり。寒くなればあなたの家にこっそり上げてもらってこたつで過ごしました。


変わったのは私です。

私はあなたに「友だちでいてほしい」と望みながら、ずっとずっとあなたに夢中で、愛しあえたらいいなと考えていました。

同時に長年をかけて内面化されたホモフォビアもいかんともし難く、ジタバタと苦しんでいました。


あなたは不思議な人でした。高校生になっても魔女の修行を続けていました。タロットカードでお互いを占ったりしました。自分で自分を占うことは厳禁だからです。

あなたに占ってもらったはずなのに思い出せません。もったいないことをしたものです。

カードからはいつもいいお香の匂いがほのかに薫ってきました。


毎日メールのやり取りをしました。何十通も短文のメールを送り合いました。どんどんRe:が長くなっていき、ある時点であなたがRe:を全部消してまっさらにしてしまうと少しさびしく思ったものです。

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