4通目の手紙
なにかがおかしい、と思いはじめたのは私たちが中学校を卒業してすぐのことです。あなたとチェルノは中学校から一番近い高校である商業高校へ、私は数キロ離れた普通科高校へ進学しました。
高校が違っても、私は放課後すぐに帰宅しまっすぐあなたに会いに行きました。毎日です。二人で何時間も話しました。そこにチェルノはいませんでした。そういえば中学校を卒業してからチェルノに会った覚えがありません。私も彼女もその必要を感じていなかったのでしょう。
あなたの家の庭はすてきで、古い樹木がたくさん植わっていました。木陰に白い丸テーブルがひとつと椅子が二脚あり、そこでおしゃべりを楽しみました。それらは庭の隅で土埃をかぶっていたもので、二人で運んできて雑巾ですっかりきれいに拭き上げて使えるようにしたものです。
私たちがテーブルを拭くのをあなたのおばあさまがジロリと横目で睨んで、「そんなの拭いたってすぐ汚れるよ」と冷たく言ったのを覚えています。あなたのおばあさまがあなたの友だちを歓迎していないことは知っていました。だから、私があなたの家の床を踏むことなど滅多にないことで、あたたかい季節はあなたのおばあさまの目を避けて庭にいました。あなたやあなたとの共通の友だちと「あの意地悪ばばあ」と呼んでいましたっけ。
初夏にあなたの家の庭のテーブルに腰掛けると、風で葉の緑が透けてゆれて、とてもきれいでした。
私の家からあなたの家まで歩いてたった5分の道のりです。けれど、その5分を3分に縮めたくて、私はいつも走ってあなたの家へ向かいました。踏切の遮断機が降りてると、はやくはやくと焦りのような気持ちで足踏みをしました。
帰るときは名残惜しくて仕方ありませんでした。踏切のところでふり返って、あなたの家の方向を眺めました。
お風呂のときも食事のときも寝るときもあなたと違う高校にいるときも、いつもいつもあなたのことを考えていて、夢にまで見ました。その夢は、私とあなたとの間に透明な壁があって、必死にあなたの側へ行こうとするんだけどどうしても行けない。そんな内容です。印象的でした。もっと直接的であからさまな性的な夢も見てしまったことがあります。あなたは微笑んでいました。朝起きたのときのあの気持ち、絶望感。罪悪感。暗く打ち沈みました。
もしかして……と思いました。それからまさかと強い否定の気持ちが沸き起こりました。しかしいくら否定しても、それまでの感情とはまったく違う質感を持ったそれは、私のなかでどんどん膨らむばかりでした。
あなたがいなくて嘆いていたあの日のチェルノのことが頭をよぎりました。チェルノの嘆きは、こういうことだったのか、とやっと腑に落ちました。
予兆はいつからあったのでしょうか。私はたいへん鈍いので、中学生の終わりにはもう恋が兆していたのかもしれません。あのときいくら考えてもわからなかったことです。とにかく気づいたらもう「それ」でした。
そうと気づいてしまってからは大変でした。私は少女特有の気安く自然で近いスキンシップを避けるようになりました。それから悩んで口数も少なくなりました。当時の私は無知だったので、同性を愛することはおかしなことだと思いつめていたのです。
ハタから見ると私はそんなにわかりやすかったのでしょうか。
うかつでした。
よりにもよってあなたに「ベル、お前最近どうしたの?」と問い詰められてしまったのですから。




