2通目の手紙
今回は、私とあなたがどういう子どもだったかということをもう少し詳しく話してみたいと思います。
私とあなたの話をはじめるとき、もう一人の女の子の話もしないといけませんね。
中学生三年生のとき、私たちは三人組でした。その他のクラスメートとは一線を画していました。もちろんよい意味ではありません。私たちはクラスメートから侮蔑と怖れのこもった一風変わったあだ名を賜っていました。
私はベルリンの壁。あなたは魔女。そしてもう一人の女の子はチェルノブイリ。みんなクラスメートから気味悪がられて、「あやしいひとたち」とひとまとめに呼ばれていました。
私たちは私たちで勝手にやっていて、気に入らない授業があればサボってトイレに行き、一人につき一つの個室に入って本を読み、授業の終わりのチャイムが鳴れば教室に戻ったりしました。サボっているときに私たちが会話をしたという記憶はありません。
名前がないと不便なので、便宜上ここでは私をベル、あなたをウィズ、もう一人をチェルノと呼ぶことにします。
私たちの力関係は不平等でした。あなた……つまりウィズとチェルノの力関係が同じくらいで、私は二人より下の立場でした。少しバカにされているのを気づいていましたが、私は構ってもらえるのがうれしくていつもニコニコしてました。
チェルノはいつも尾崎豊を聴いていました。輪郭も目線も鋭く、歯にも絹を着せない。かっこいいけどこわい。そんな印象です。どこか大人びて達観したところがありました。
ウィズは、ふんわりとやわらかい和風の顔立ちでした。でも、あなたはそんな自分の容姿を気に入っていないようでしたね。よく「平安時代なら私は美人だった」と嘆いていました。やや乱暴な言葉づかいをしていましたが、心根は優しく思いやりにあふれた少女でした。
そして私、ベルはガリガリのチビでした。手足はまるで棒のようで、生理もまだなく、学年で一番背が低いままでした。場面緘黙がひどく、限られた人としかしゃべることができませんでした。だから、おどおどキョドキョドとあなたたち二人のあとをついてまわる金魚の糞でした。
ウィズ、あなたが知らない話をします。
あの日の朝、あなたは風邪かなにかで欠席していました。
教室には、私とチェルノの二人しかいませんでした。いえ、正確に言えばその他大勢のクラスメートは欠席せずにいたので二人だけということはありませんでした。むしろさまざまなおしゃべりで賑やかですらありました。けれど私たちとその他のクラスメートとは世界が断絶していたので、私たちにとってウィズがいなければ教室にはチェルノと私の二人ぼっちと同じ意味だったのです。
チェルノは登校してきて、教室をひと睨みし、そこに私しかいないと知るやおおいに嘆きました。
激情のままに机を両手でバン!と力強く叩き「なんでウィズはいないんだ!」と叫びました。続けて「ウィズがいないんじゃ学校に来た意味がない!」と強い口調で言い切りました。
はずみで言ってしまった、というようなことではありません。それは本音で、彼女にとって単なる事実でした。その証拠に彼女はその日一日中嘆き続けました。
彼女にとって、私はなんの意味もなさないオマケに過ぎなかったのです。目の前で自分の意味を否定されてしまった私にはチェルノにかける言葉もありませんでした。立つ瀬がなくとても悲しい気持ちでしたが、同時に仕方ないとも思いました。だって、チェルノとベルの立場は平等ではないのですから。
そして、ほんのりと疑問が芽生えました。
(それにしてもチェルノは嘆き過ぎではないか?これはどうしたことだろう?)
まだ私が恋を知らず、したがって女が女を好きになるという発想のなかったころです。
今ならわかります。
チェルノはウィズ、あなたに恋をしていました。




