それでも・・・。
研修旅行最終日。
「楽しかった研修旅行も今日が最終日だ!今日は、フェリーに乗って、あの島にいく!資料館で島の歴史とかしっかり学ぶ様に!じゃあ、フェリーにのるぞー!」
先生は先頭に立ち、フェリーに乗り込む。
生徒達は、大はしゃぎだ。
ブー!
フェリーが出発した。
真桜と愛理のグループは、相変わらず一緒に行動している。
フェリーは大きく、真桜たちは、甲板にでていた。
「風が気持ちいい〜!」
真桜は、風に吹かれた愛理を見てドキッとした。
いつもは目にかかるくらいの前髮を下ろしている愛理だが、風で前髪が流れ、顔が良く見えた。
(えっ!白石さんこんな可愛かったのか!そのメガネも取ってほしい・・・)
真桜は、メガネを外したい願望に襲われた。
「ちょっとごめん。」
真桜は願望に耐えきれず、愛理のメガネを取った。
「えっ?ちょっとー!」
真桜は、愛理をじーっと見つめる。
「見すぎ!」
愛理は顔を隠した。
我に帰った真桜は、恥ずかしくなり、メガネを愛理に渡し、後ろを向いた。
「ねぇ!黒川くん!今のは?」
愛理は不思議そうに問いかける。
「メガネ取りたい願望に負けた・・・」
愛理は真桜の前に回り込む。
「何それ?取ってみてどうだった?」
真桜は、また後ろを向いた。
「良かった。」
「あははははっ!何それー!可愛かったとかなら嬉しいけど、良かったって!」
愛理は楽しそうだ。
「可愛かった!」
真桜は照れながら言った。
「ありがとう!」
愛理はうれしそうに言った。
「おっ!お二人さんお熱いね〜!」
快人と明里が冷やかしにきた。
愛理は、明里の方を向き、うれしそうだ。
「明里!私、かわいいって言われた〜!」
明里はニヤニヤして、
「良かったね〜。黒川くんってそんな事言ってくれるんだね〜!いいなー!私も言われたいなぁ。」
明里は快人を見た。
「えっ?俺?」
「何でもないよ〜。」
明里は少しスネた。
「明里!明里はかわいい!」
快人は柄にもなく照れながら言った。
明里は顔が赤くなる。
「ありがと・・・あっ!」
明里が恥ずかしくてうつむくと、風で明里の被っていた帽子が舞い上がった。
「あっ!大変!」
愛理は明里の帽子を追いかける。
バシャーン!
愛理は、帽子しか見ていなかった。
手摺に寄りかかる様に体勢を崩し、
海に落ちてしまった。
明里と快人は顔が青ざめ、固まる。
明里が助けを呼ぼうと叫ぼうした瞬間、
真桜は、甲板の手摺に足をかけていた。
「だめ!黒川くん!危ないよ!助けを呼ぼ!」
真桜は明里の静止を聞かず、海に飛び込んだ。
バシャーン!
「きゃー!」
明里が叫ぶ。
異変を感じ取った先生が駆け寄る。
「どうした?!」
「先生・・・愛理が海に落ちて、黒川くんが助けに海へ。助けてー!」
先生は顔が青ざめ、一瞬固まったが、
急いでレスキューの要請をした。
ブクブクブク。
真桜は愛理を探して海を泳ぐ。
(いた!)
真桜は愛理を見つけ、近づき、抱き寄せた。
愛理は真桜の顔を見て安心した表情になった。
「ブハー!ハァハァハァ。」
真桜は愛理を抱き抱え、海面に出た。
フェリーは近くにもういない。
「仕方ない。あの島が一番近いな。」
真桜は、愛理を抱きかかえ、必死に泳いだ。
「ダメだ!全然岸が近付いてる気がしたない!」
愛理は真桜にしがみつき、少し笑っている。
「おい!白石!なんで笑ってんだよ!」
「だって、黒川くんなら絶対助けてくれるって信じてるから。」
真桜は、黙って泳ぐペースを上げた。
「ハァハァハァ。もうダメだー!」
真桜は、なんとか岸にたどり着き、
仰向けに倒れた。
「わぁ。腕枕だ。」
「ハァハァハァ。白石さんバカなの?
死にかけたんだよ?」
愛理は、真桜の腕に頭を置いたまま、
真桜の方を向いた。
「ありがとう。怖かったけど、黒川くんの顔見てからは怖くなかったよ。」
愛理は、意識がもうろうとしている様だ。
「大丈夫?ケガしてない?」
「うん。優しいね・・・。
」
愛理は、突然、真桜に抱きついた。
「え〜ん!」
愛理は意識がハッキリしてきた様だ。
「怖かった〜!」
真桜はしばらくの間、
黙って愛理を抱きしめた。
「あっ!黒川くん!ごめん!」
愛理は突然真桜から離れた。
「落ち着いた?情緒不安定だったから心配したよ。」
「うん。意識がもうろうとしてた。」
「いつもの白石だ。」
二人は見つめ合い笑った。
真桜は立ち上がり、辺りを見回した。
「さっどうしようか。ここはどこだ?」
「どこだろね。なんだか私達、
ハプニング続きだね。」
「ほんとにな。ちょっと歩いてみる?
立てるか?」
真桜は愛理に手を伸ばす。
愛理は真桜の手を取り立ち上がった。
真桜は、愛理を見つめる。
「メガネなくなっちゃったね。」
「うん。」
「見える?」
「あっ・・・あのメガネ、
ダテメガネなの。」
「えっ?」
「黒川くんこそ見える?」
「俺も・・・ダテメガネなんだ。」
「な〜んだ。私が目になるって言うつもりだったのに。」
「はははっ!あのさ・・・メガネ無しで前髪今の方がいいよ。」
「黒川くんも。以外と男前だったんだ〜。今日から前髪とメガネ禁止にしない?」
「えっ?俺、あんまり目立ちたく無かったんだよな。」
真桜はうつむく。
「私も。でも、別に普通にしてても、目立たなくしてても同じって思ったんだ。」
「確かに。じゃあ、そうしよ!」
「うん!」
「おーい!海に落ちたのは君たちかー?」
遠くからレスキュー隊らしき人が叫んでいる。
「助かったみたいだな!」
「だね!」
二人は、念のため、病院へ運ばれた。
体に異常は無かったが、安静のため、
しばらくベッドに寝かされた。
二人が隣り同士のベッドで休んでいると、連絡を聞きつけた先生が駆け込んできた。
「ハァハァハァ。二人とも大丈夫か?」
真桜と愛理はかおを見合わせ笑う。
「先生、大丈夫。体に異常もないって!」
「良かった。本当に良かった!」
先生は二人を交互に見て、頭を下げた。
「すまん!先生がちゃんと見てなかったせいでこんな事に・・・」
真桜は落ち込んだ先生に声をかける。
「先生、二人とも無事だったんだから、気にしないでよ。」
「ありがとうな、黒川。ただ、大人の世界は甘くない。先生は首になるかもしれない・・・二人共、クラスを頼んだぞ!」
愛理は悲しそうにしている。
「先生ごめんなさい。私のせいで・・・」
落ち込む二人を見て、真桜はいった。
「先生。俺、先生の事好きだし、いい先生だと思ってる。担任が先生で良かった!だから、クビになりそうになったら教えてよ。絶対クビにならない様に俺たちが抗議するから!なっ!白石!」
愛理は、呼び捨てにされて少しキュンとした。
「う、うん!先生、ちゃんと1年間、私達の先生でいてね。」
「うわ〜ん!教師をしてきて良かった〜!」
先生は感動のあまり、泣き出した。
「二人共、本当にすまなかったー。」
真桜と愛理は、見つめ合い、笑い合った。
二人は、安静のため今晩は、病院に泊まる事に。
二人きりの病室。
静かな時間が流れる。
「ねぇ。黒川くん。起きてる?」
「うん。どうした?」
「黒川くんのベッドに行ってもいい?」
「うん・・・はぁー?」
真桜は驚いて起きがった。
「いや・・・ならいい。」
「なんで?」
真桜は理由をたずねた。
「暗いとね、海の中を思い出して不安なの。」
「・・・いいよ。きなよ。」
愛理はうれしそうに真桜の布団に入った。
「ぎゅってして。」
真桜は戸惑いながら、愛理を抱きしめた。
「ありがとう。これなら寝られそうです。
愛理は、安心した顔で目を閉じた。」
真桜はため息をついた。
「はぁ。まったく。こういうのは好きな男にしてもらうもんだぞ。」
愛理は目を開けて、真桜を見つめた。
「好き?かは分からないけど、黒川くんのぎゅは安心する。落ち着くなぁ〜。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
真桜は落ち着かなかった。
心の中で思った。
(俺、これ、今日寝れないやつだ・・・)
トントントン。
「おはようございます!」
病室に入ってきた看護師さんが、二人を見て驚く。
「まぁ!中がいいのね!」
愛理はまだ寝ている。
その横で、目の血ばしった真桜が答える。
「こいつ、暗くて海に落ちた時のこと思い出して、怖いって言って俺の布団に。おかげで一睡もてまきなかったです。」
看護師さんは微笑んだ。
「優しいのね。もうすぐ先生来ると思うから、そろそろ彼女起こしてあげて。じゃあお大事にね。」
「はい。」
そりゃこれじゃ彼女に見えるよな。
真桜は愛理を見て、もう少しだけこうしていたいと思った。
真桜が愛理を見つめていると、ゆっくり目が開いた。
「白石さん、おはよ。」
「おはよ。さん付けに戻っちゃった。」
「えっ?」
「快人くんの「明里」みたいに、「愛理」ってよんでみて?」
真桜は照れている。
「早く〜!」
真桜は仕方なく愛理を見つめ、
「愛理、おはよ。」
名前で呼んだ。
「真桜くん。おはよ。」
愛理は満足げだ。
「そろそろ先生くるみたいだし、
準備しようか?」
「えっ?なんて?名前呼んでくれないと聞こえない。」
真桜はため息をついて起き上がる。
「愛理、早く準備するぞ!」
「うん!」
愛理はうれしそうだった。
真桜は前髪を下ろす。
「あれっ?髪型は?そのまま?」
愛理は不満そうた。
「今日は嫌でも注目されるし、明日からにしよ・・・」
「ぶ〜。分かった。」
二人は出発の準備を整えた。
トントントン。
「おはよう!準備できてるか〜?」
先生が病室に入ってきた。
「準備万端だよ先生!」
愛理は笑顔で答えた。
「みんなも心配してる、元気な顔みせてやれ!」
「はい!」
3人は、病院の前に止まる観光バスにに向かう。
バスから明里と快人が下りて
まっていた。
「愛理!」「真桜!」
明里と快人は、駆け寄り、抱きついた。
「良かった!」「良かった!」
二人は泣きそうになっている。
「ごめん。愛理。私が帽子飛ばさなかったらこんな事には。」
愛理は明里を抱きしめて、小声で言った。
「私、海に落ちて良かったかも。」
愛理は、怖かったのと同じくらい色々と幸せだった。
明里は不思議そうだ。
「どういう事?」
「また話すね。」
愛理は少し顔を赤らめた。
「良し!これで、全員揃ったな!
もう先生は油断しないぞ!
みんな家に帰るまで集中だぞ!」
「はぁーい!」
ブーン。バスが走り出した。
真桜は、ようやく心安らかに眠った