全力で楽しめ!
「みんな座れ〜!」
先生は言う事をなかなか聞かない生徒たちに少しイラついている。
「おーい!みんな座ろ!」
見た目が地味な真桜がいった。
クラスの生徒達は、大人しそうに見える真桜が突然叫んだものだから、少し驚いて静かになり、席に座った。
「おっ、黒川!お前は見る目があるな!」
先生は嬉しそうにしている。
「今日は、学級委員を決めるぞ!男女一人づつだ!」
「えー!めんどくさい!」
「誰かやってー!」
生徒達は、やりたくない雰囲気を全面に出していた。
「静かにしろー!先生悲しいわ!
ダメ元で聞く!立候補する奴はいるか〜?」
先生は誰も手を上げないだろ?と言わんばかりに、期待ゼロで生徒達に問いかける。
「はい!」
「えっ?」
一人の生徒が手を上げ、先生は驚いている。
「白石、本当にやりたいのか?」
「はい!私、やります!」
「おー!先生は嬉しいぞ!女子は、白石で決まりだ!さぁ!男子は誰がなる?」
「は〜い!黒川くんを推薦しま〜す!」
見た目ちゃらそうな生徒が、真桜を推薦した。
「お前、人に押し付けたらダメだそ!」
先生は少し不機嫌そうだ。
真桜は思った。
めんどくさいけど、父さんとの約束あるしな・・・学級委員って、全力で楽しむならなるべき?あ〜もういいや。
やるか!
真桜は立ち上がった。
「先生、俺やりたい!」
「おー!黒川〜!先生は嬉しいぞ!
よしっ!学級委員は、黒川と白石で決まりだ!じゃあ次は、それぞれの委員会だ!」
「えー!結局あるのかよー!」
「静かにしろ!まずは図書委員だ」
・・・・
こうして、真桜と愛理は学級委員となった。
その日の放課後、委員となった生徒達は、各教室に分かれ、それぞれ集まっていた。
真桜と愛理は、教室で、机を四つくっつけて、先生と向い合せに座っている。
「いや〜!お前たち二人が学級委員になってくれて助かったよ!これから1年間、二人で仲良く頼むぞ!」
「はい!」
愛理はやる気満々で答える。
真桜は小さい声で答える。
「よし!お前たち!握手だ!」
「えっ?」
「いいから!」
先生は立ち上がり、二人の腕を持ち、強引に握手させた。
二人は握手しながら、思っていた。
(白石さん、手小さいな。この手、なんか覚えがあるような?)
(黒川くん、手大きい!この手、すごい守られてる感があるな。なんかこの感覚・・・?)
「おい!お〜い!」
中々手を離さない二人に先生は問いかける。
「恋でも始まったか?」
二人は我に帰り、手をはなす。
「いっいや、手を離すタイミングが分からなくて。」
真桜は焦って答える。
「わっ、私も・・・ははっ。」
愛理も恥ずかしそうに答えた。
「まぁいい!二人共、1年間頼むぞ!」
この後、学級委員の仕事の説明を聞いたり、今後のイベントスケジュールを二人は叩き込まれた。
「あ〜疲れたね〜。」
愛理は真桜に問いかける。
二人共寮暮らしで帰り道が一緒だったので、一緒に帰っていた。
「そうだね。学級委員って結構やる事あるんだな。」
真桜は気が重そうに答える。
「でも、ワクワクしない?
まずは、明日の研修旅行の班決めとクラスの目標決めだね!がんばろうね!研修旅行楽しみー!」
「そうだな。がんばろ!」
愛理は、真桜の顔に、顔を近づけて見つめる。
「ねぇ。黒川くんって双子の兄弟とかいる?」
「えっ?いないけど。なんで?」
真桜は不思議そうに聞いた。
「ううん。聞いてみただけ。」
「そう。あっ、俺こっちだから。」
「あっ、うん。じゃあまた明日!」
「うん。また明日。」
真桜は、見た目が違いすぎて、愛理を愛理だと思ってもいなかった。
次の日、研修旅行の班決めと、クラスの1年間の目標を決めるべく、クラスはわいわいしていた。
「じゃあクラスの目標を決めます!誰か意見ありますか〜?」
愛理はクラスに問いかける。
「はい!は〜い!恋をしようとかは?」
チャラ男が答える。
「脚下です!ちゃんと考えてよ!」
愛理は少し不機嫌だ。
「他にはありませんか?」
「・・・」
愛理はしばらくの間、誰の意見が出るのを待っていたが、意見は出そうにない。
「意見なさそうなんで、私の目標なんですが、「全力で楽しむ!」ってのはどうですか?」
真桜は父親に言われた条件を思い出し、
愛理を見つめた。
「えっ?黒川くんどうしたの?気に入らない?」
真桜は前に向き直った。
「いいと思う。」
「俺も賛成!めっちゃいいじゃん!」
チャラ男が言う。
「賛成!」
「私も〜!」
教卓に立つ二人が「全力で楽しむ!」
を推しているので、他の生徒達も、口々に言った。
「では、クラス目標は、「全力で楽しむ!」でいいと思う人は手を上げてくださ〜い!」
愛理は叫んだ。
クラス全員一致で、クラス目標が決まった。
真桜は、思った。
(白石さんと学級委員になって良かったな。この人といたら、きっと、父さんとの約束も守れる気がする。)
それから数週間がたち、
研修旅行当日。
「わー!海だー!ねえ、愛理ちゃん見て!キレイだよ!」
この子は、三条 明里。
自然と仲良くなり、愛理はいつも二人で仲良くしていた。
「本当だ〜!キレイだね!」
「おーい!お前たち!海は自由時間にしろ!まず荷物置いて、レクレーションだ!」
先生は生徒達に呼びかける。
「はぁ〜い。」
生徒達は、不満そうに、宿泊施設に入って行った。
「はい!じゃあとりあえず班ごとに自由時間だ!夕食の17時にはここに集合するように!」
一通りレクレーションが終わった。
「真桜!じゃあいこうぜ!」
こいつは、真桜を学級委員に推薦した、チャラ男だ。
名前は、本田 快人。
真桜は、同じ班になってから、以外と気が合うと感じて、仲良くしていた。
明里と快人は、海に行きたくて仕方がない。
明里は愛理を、快人は真桜を引っ張る様に海に走る。
最初は男同士、女同士で海に入り、水をかけあったりしていたが、快人の上げた水しぶきが明里にかかった事をきっかけに、男女の水かけ対決が始まった。
「きゃ〜冷たい!」
「わぁ!やりやがったなー!」
真桜は、大盛りあがりの水かけ対決を少し離れて見ていた。
バシャーン。
「つめてぇー!」
真桜は後ろから水をかけられた。
振り向くと、愛理がニコニコして立っている。
「ふふっ。何遠目に見学してるの?
全力で楽しむ!だよ。」
「やったなー!」
真桜は全力で愛理に水をかけた。
「きゃー!」
真桜の力いっぱいの水しぶきは、想像を超える水の量だった。
愛理は大雨にうたれた様に、ずぶ濡れになった。
「ちょっと〜!黒川くん!加減と言うのを知らないの?」
ずぶ濡れになった愛理は、なぜかすごく楽しそうだ。
真桜は、愛理の濡れた姿にドキッとした。
目を見ていられず、視線を下にずらすと、愛理の下着が透けている。
「ごっごめん!」
真桜は、上着を脱ぎながら、愛理に駆け寄り、自分の上着を羽織らせた。
「えっ?何?」
愛理は不思議そうにしている。
「いやっ。それ。」
真桜が愛理の胸元を指さした。
「きゃっ!・・・見たの?」
愛理は恥ずかしそうに、真桜の上着に袖を通した。
「ちょっとだけ。」
「正直者か!そこは見てても見てないでしょ〜!」
「いや、見えてたから、急いで上着着せたから。」
「ふふっ。真面目か。」
愛理は、真桜の豪快さと、真面目な所に少し胸の辺りが熱くなった。
(この感じ、前にもあった様な。なんだっけ?・・・まぁいっか!)
バシャーン!
「仕返しだよ!」
真桜はずぶ濡れになった。
「おぃ!白石!加減しろよー!」
「はははっ!黒川くんずぶ濡れだね!」
「やっぱり上着返して!」
「だーめー!」
真桜は愛理に着せた上着をとりかえそうと追いかける。
愛理は、真桜に水をかけながら逃げ回った。
明里や快人、同じ班の生徒達は、二人があまりに楽しそうにじゃれているので、呆然と見ていた。
「なー!お前ら付き合ってんの?」
快人は問いかけた。
真桜と愛理は、快人の方を見て固まり、動かなくなった。
「嫌だなー。まだ出会ったばかりだし、そんな訳ないじゃん!」
愛理は、少し照れながら言った。
「そーだ、そーだ!」
真桜は愛理を肯定し、ふざけてみせた。
「へ〜そうなの?まっいいけど!」
快人は、明里と顔を見合わせ、笑った。