真面目な俺。真面目な私。
ここはそこそこ栄えた田舎町。
ヤンキーの集団に囲まれている金髪の男。
彼は 黒川 真桜。
最強のヤンキー?になってしまった男。
この辺り一帯では、「まお」だけに、魔王と呼ばれ恐れられている。
「お前らさぁ、俺に勝って名前売りたいなら、一人でこいよ。こんな大人数で勝って意味あんの?」
「うるせー!魔王を潰せー!」
男たちは、真桜に襲いかかる。
真桜は次々と男達をなぎ倒していく。
真桜は強い。誰よりも。
地面に倒れ、うずくまる男達に真桜は言う。
「あ〜疲れた。もう来んなよ。」
真桜は静かに立ち去ろうとした。
「待て。」
見た感じ、男達のリーダーに見える男は、真桜の足首を握って離さない。
「俺は、俺は!大門 銀次だ!俺は、お前に絶対に勝つ!」
「はぁ。そんなボロボロで何言ってんだよ。出直せば?できれば疲れるから、一人で来てよ。相手はするからさ。」
「バカにしやがって・・・覚えてろよ・・・」
銀次は真桜の足を離した。
真桜は静かに立ち去って行った。
一年前・・・
真桜は、普通の中学2年生だった。
この時までは、真桜は普通の中学2年生だった。この時までは。
町を歩く真桜は、同じ学校の後輩が囲まれて、カツアゲされている所に遭遇してしまった。
「よぉ!何囲まれてんの?人気者かよ!ははははっ!」
「黒川くん、違うよ。逃げて!」
「はぁ。」
真桜はため息をつく。
「一人で逃げるなら、わざわざ声かけね〜よ。さっ行くぞ。」
真桜は同級生の腕をとり、立ち去ろうとする。
「おぃおぃ。ちょっと待とうか?」
カツアゲしていた男達が真桜を睨見つける。
真桜は、男達を睨見つけ、笑う。
「ははっ。」
「なんだお前?お前も俺たちにお小遣いくれんの?」
真桜また、たまらず笑う。
「ははははっ!なんで?俺がお前らに?」
男達は今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
同級生は、真桜に小声で言う。
「黒川くん、怒らせてどうすんの?もう僕お金出すから。」
「それでいいのかよ?ムカつかない?
俺、めっちゃムカつくんだけど。」
真桜は、男達を睨見つける。
「お前らさ、金欲しいなら、働くか、家に帰って母ちゃんにお願いしたら?」
男達は、キレた。
「お前、なめてんのか!」
真桜の胸ぐらをつかみ、殴りかかる。
と、一瞬の間。殴りかかった男は、
時が止まった感覚を覚えた。
気づくと、地面に仰向けに倒れていた。
「いって〜!」
男はたまらず叫んだ。
真桜は男達に向かって言う。
「まだやる?」
男達は怒り狂い、真桜に襲いかかった。
「ぶっ潰してやるよー!」
真桜は男達をなぎ倒した。
決着はすぐについた。
真桜は男達に向かって言う。
「あのさ。二度とカツアゲとかムカつく事すんなよ。」
真桜は同級生の腕をつかみ、去って行った。
カツアゲ男たちは、この辺りでは有名なヤツらだった。
不幸な事に、この出来事をきっかけに、
真桜は、有名になり、真桜を倒して名を売ろうとする奴らが次々と真桜の前に現れ出す。
真桜は、そのことごとくをねじ伏せ、
気づけば魔王と呼ばれる最強ヤンキーとなってしまっていた。
そして、真桜は開き直り、髪を金髪に染めた。
「おい!黒川 真桜!お前をぶっ潰しに来た!」
今日も真桜は渋々相手をする。
「おい!姉ちゃん、ケガしたくなけりゃ、どけや!このムカつく店ぶっ壊さねえと気がすまないんだよ!」
同じ町の商店街。
ここにも数人の男に取り囲まれた、金髪の女がいる。
彼女は、白石 愛理。
「バカなの?壊されると困るのよ!」
「いい加減にしないと女でも容赦しないぞ!」
男は、愛理の胸ぐらをつかんだ。
次の瞬間。
男は仰向けに地面に倒れていた。
「いってぇーな!」
男は立ち上がり、愛理に襲いかかる。
愛理は男を投げ飛ばし、みぞおちに一発入れた。
男は背中の激痛と、みぞおちの激痛でのたうち回る。
愛理は男達を睨見つける。
「まだやるの?」
投げ飛ばされた男は、愛理を見つめ、
思った。
(俺はこいつを嫁にする!)
「うるせぇー!」
残りの3人が愛理に襲いかかろうとした。
「ぐはっ。」
3人の男は、背後から、3人の女に殴られた。
3人の男は、激痛に耐えながら、愛理に倒された男を抱えて逃げ出した。
「覚えてやがれー!」
「まて!」
投げ飛ばされた男は、仲間達に静止を求めた。
「おい!女!俺は、大門銀次だ!
お前を嫁にする!」
仲間達は目が点になる。
「銀次さん、何言ってるんですか!行きますよ!」
「はははっ!悪党の決めゼリフ吐いていきやがった!笑える〜!てか、愛理さんをお前に嫁になんか絶対やらね〜よ!」
後から現れた女達ははしゃいでいる。
「あなた達、はしたないわよ。」
「愛理さ〜ん。男なぎ倒してる時点で、私ら、はしたないですよ。」
「ふふっ。確かに。」
「てか、愛理さんやっぱり可愛いいですよねー!投げ飛ばした男にプロポーズざれるとかありえます?」
「こんなひどい事する人とは絶対結婚しないけど、人の気持ちを笑っちゃダメよ。」
「はぁ〜い。」
銀次は、普段は仲間からしたわれる男だったが、真桜に返り討ちにされ、イライラしていた様だ。
出会い方最悪のこの恋は、
大門銀次の初恋だった。
愛理は、この商店街の店に生まれた。
小さい頃に、誘拐されそうになった事があり、愛理はとても怖い思いをした。
それがきっかけで、護身術を習い始めた。
愛理には才能があったのか、メキメキと力をつけ、今では男相手にも勝ってしまうほどだ。
愛理の住む商店街は、治安が悪い。
さっきみたいなでき事は、日常茶飯事だ。
愛理は、商店街を守るため、チームを作り、
商店街の治安を守るため、日々活動していた。
日を追うごとに、グループの存在は知れ渡り、
いつからか愛理は、レディースグループの総長とかその美しさから、商店街の女神と呼ばれ、恐れられる様になった。
「でも、さすが総長!あんなでかい男を倒しちゃうんだもん!」
「はぁ。やめて、総長は。せめて女神の方でお願い・・・。」
「はははははっ!そうですね。
でも本当にこの辺は治安悪いですよね〜。うちも、人数増えたし、大分商店街を守れてると思うんですけど、やっぱり全部の揉め事は防げないですね。」
「そうだね。治安良くならないかな〜。」
「そう簡単には無理ですよ〜。」
そんな話をしていると、また叫び事が聞こえてきた。
愛理達は走って向かう。
「商店街で暴れるのは辞めなさい!」
愛理は、商店街の平和のため、
今日も奮闘するのだった。
そんなある日。
「その顔、どうしたの?!」
愛理は、一人のチームメンバーに問いかける。
「愛理さん・・・魔王にやられました・・・」
「魔王?」
愛理は、真桜と少し前に会っていた。
(魔王って、黒川真桜よね?
あいつがこんな事する?)
そう思いながら、真桜との出会いを思い出していた。
愛理はいつもの様に、商店街の揉め事の仲裁をしていた。
「おい!のけや姉ちゃん!ケガしたくないだろ?」
愛理は怯まない。
「やめなさい!買い物終わったなら早く帰って!」
愛理が言い合いをしていると、店主の老婆が愛理をかばうように出てきた。
「愛理ちゃん。危ないよ〜。」
「おばあちゃん!危ないから下がってて!」
愛理が男から目を離した一瞬の間に、
男は愛理に殴りかかってきた。
「どけや!」
(しまった。おばあちゃんに気を取られた!よけられない!)
愛理は、男の拳を顔に受ける覚悟をして、目をつむった。
「・・・あれっ?」
愛理は恐る恐る目を開いた。
男は、拳を振り上げた状態で止まっている。
良く見ると、後ろにいる男が、殴りかかってきた男の腕をつかんでいた。
「なんだお前?!離せよ!」
男は捕まれた腕を振り払おうとするが、ビクともしない。
腕を掴んでいる男が静かにいった。
「女殴るとか趣味悪すぎ。寝覚め悪いからやめてもらえる?」
「おっ!お前!魔王?!
わっ、分かったから、離してくれ!」
真桜は男の腕を持ったまま、片腕で男を掘り投げた。
「いっ、いて〜!勘弁してくれー!」
男は一目散に逃げていった。
「あっ、あの。」
愛理は真桜に話しかけた。
「ああ、偶然通りかかっただけだし。」
真桜は、愛理の顔に近づき、じーっと見つめる。
「なっ、何?」
「あんた、白石愛理だよな?
商店街守るのもいいけど、気をつけろよ。綺麗な顔に傷でも付いたら嫁にいけないぞ。」
愛理は顔が見る見る赤くなる。
「きっ、綺麗って・・・余計なお世話よ!このナンパ野郎!」
「ははっ!まぁ、怪我しない程度にがんばりなよ。じゃ。」
真桜は振り返り、立ち去ろうとする。
「まっ、待って!あなた、黒川真桜?」
「そうだけど?」
「そっか。魔王はナンパ野郎だったのね。でも、ありがとう!助かりました。」
「いいよ〜通りかかっただけだし〜。」
真桜は背中を向けたまま手を振った。
「黒川真桜・・・いい奴じゃん。」
「愛理さん!愛理さん!聞いてます?」
愛理は我に帰った。
「あっ、ごめん。」
「魔王のヤツ、私が町を歩いてたら、いきなり殴りかかってきたんです。私・・・悔しい。」
「魔王許せない!行くよ!」
(黒川真桜がそんな事するとは思えないけど・・・でも、私の仲間がそう言ってる。信じてあげないと。もし本当なら許さない!)
愛理は、メンバーの女の腕を掴み、真桜の元に向かう。
真桜は川の横の芝生で寝転がっていた。
「あ〜今日も疲れた・・・ほんともうウンザリだわ。絡まれる事のない、遠くに行きたいな〜。」
真桜が独り言を言っていると、
「黒川真桜!見つけた!」
真桜は起きあがり、振り返った。
「あ〜白石愛理か。なんか用?」
「なんか用?じゃない!この子にひどい事して、なに呑気に黄昏れてんのよ!」
真桜は何の事?と言いたげにキョトンとしている。
「女には手出さないっていってたくせに!」
愛理は、真桜に殴りかかる。
愛理の猛攻をかわしながら真桜は言う。
「ちょ、ちょっと待て!何の事だよ!」
「とぼけるな!卑怯者!」
愛理は手を休めない。
真桜は、愛理が怪我をしない様にかばいながら押し倒し、地面にねじ伏せた。
「聞けよ!俺は何もしてないって!」
愛理は真桜を掘り投げた。
真桜は、地面を転がり、立ち上がった。
「はぁ。もういいわ。好きにしたら?」
真桜は両手を広げた。
「認めたわね!」
愛理は真桜に殴りかかり、投げ飛ばし、真桜の上にのり、何発も真桜の顔を殴った。
「愛理さん!もういいです!愛理さん!」
愛理は我に帰り、立ち上がった。
「黒川真桜!二度と私の仲間に手を出さないで!」
「はぁ〜い。」
顔が腫れた真桜は、空を見上げて不服そうに言った。
愛理はメンバーの女の腕を取り、立ち去った。
「愛理さん。ありがとうございます。」
女は泣き出した。
「ありがとうございます。ありがとうございます・・・ごめんなさ〜い!」
「えっ?なんで謝るの?」
「私、私、嘘つきました〜。」
「はぁ。泣かなくていいよ。何があったの?」
「ごめんなさ〜い。」
「ちゃんと言ってくれないと分からないよ。」
女は、彼氏がいた。
女の彼氏は、情けない男で、借金まみれで首が回らなくなっていた。
利息の支払い期限を待ってもらう変わりに、目ざわりな黒川真桜と白石愛理を戦わせる様に仕向けろと言われ、女は彼氏の前で、チンピラに殴られた。
「愛理さん。ごめんなさい。私、情けないヤツだけど、あいつの力になりたくて〜。わ〜!」
「分かったから。もう泣かない!
はぁ。もう帰りなさい。
私、黒川真桜のとこに戻るから。」
「私も行きます。」
「いいよ。帰って休みなさい。」
「愛理さん。ごめんなさい。」
「分かったから。じゃあまた明日ね。」
愛理は真桜のいた所へ走り出す。
真桜はまだ芝生に寝転がっていた。
「黒川真桜!ハァハァハァ。」
「何?まだ殴り足りないの?
見て!服血まみれ。
母さんに怒られるわ〜。」
芝生に寝転がっている真桜に、愛理は歩み寄り頭を下げた。
「・・・ごめんなさい!」
「えっ?」
「あの子、嘘ついたって泣いてあやまってきた。私、あなたにひどい事を・・・」
愛理は、女が嘘をついた理由を話す。
真桜は聞いているのか、いないのか、変な表情をしている。
「白石愛理、あのさ、殴られてる時から言おう言おうと思ってたんだけどさ・・・パンツ見えてるよ。」
「きゃっ!」
愛理はスカートを押さえる。
「茶化さないでよ。」
「はははははっ!大体そんな事だと思ってたよ!」
「えっ?怒らないの?」
「いや〜、殴られながら、こいつも大変だな〜と思ってたし。別にいいよ。」
「それじゃあ、私の気が済まない!」
「いいよ。パンツ見れたし。」
「じゃっ、じゃあ・・・もっと見る?」
愛理は恥ずかしそうに、スカートを抑えていた手を離した。
真桜は、立ち上がった。
「もう、いいって。気にすんな!
仲間思いなのはいい事だよ。
じゃあな〜!」
真桜はまた背中を向けて、立ち去りながら言った。
愛理は、胸の辺りが熱くなる様な変な感覚を感じた。
愛理は家に帰り、ベッドで横になっていた。
ブーブーブー。
愛理のスマホがなった。
「もしもし。」
(愛理さん!私も魔王に謝りたいです!)
「えっ?なんで?」
(借金取り、魔王に襲われたみたいで、許して欲しかったら、私の彼氏の利息の取り立てを待つ様にいってくれたみたいなんです!)
「・・・良かったね。」
(はい!私、明日魔王に御礼いいに行きます!)
「私も会ったら御礼言っとくね。」
(はい!愛理さん!本当にすいませんでした。)
「もう謝らないの。教えてくれてありがとう。」
(はい!おやすみなさい。)
「おやすみ。」
プープープー。
愛理は頭を抱えた。
「黒川真桜、どんなけいい奴なの!
私・・・なんてひどい事したんだろ。」
その頃、真桜は、家にようやく帰ってきた。
「ただいま〜。」
「おかえって!真桜!大丈夫?顔腫れてるし、血まみれじゃない!」
「あ〜大丈夫。ちょっと野良猫にやられた。」
「猫って・・・お父さん!なんとか言ってよ!」
「はははははっ!男はこれくらいがいいんじゃないか?」
「ちょっとお父さん!」
「分かった分かった。
真桜、そこに座りなさい。」
真桜は説教か〜と思いながら、
父親の前に座った。
「真桜、お前が最強ヤンキーとか、魔王とか言われてるのはしってる。」
「あぁ。知ってんだ。
好きでなったんじゃないけど。
しかもヤンキーじゃないし。」
「理由も知ってるよ。」
「えっ?どこから情報入ってくんの?」
「まぁそれはどうでもいい。
真桜。お前、東京に行く気はないか?」
「えっ?どういう事?確かに、毎日の様にからまれるこの町は出たいと思ってたけど。」
「お前、この高校に行きなさい。」
真桜の父親は、高校のパンフレットを手渡す。
「いいよ。高校行かないで、働くつもりだったし。」
「ダメだ!大学は絶対とは言わないが、高校は絶対に行きなさい。」
「何で?」
「高校は楽しいぞ!父さんは、楽しかった〜!母さんとも高校で出会ったんだ。」
「いや、父さんが楽しかったからって俺も楽しいとは・・・」
「いいからいくんだ。だた、条件を守りなさい。」
「条件って・・・俺が行きたいっていった場合じゃない?」
「気にするな。」
「はぁ。わかりました。」
「そうか!良かった!」
それから数日後、
愛理はグループのメンバー全員を集めた。
「みんな聞いて。」
メンバー達は、愛理の言葉を待っている。
「私は、商店街を守りたくてグループを作りました。グループは大きくなったし、私達を警戒して揉め事を起こさない人たちも増えて、私は嬉しかった。みんなでがんばった結果が出たって。
でも、力を持ちすぎて、それを利用しようとする悪い人たちが現れました。
私の思いに賛同してくれたみんなには申し訳ないけど、このグループは解散します。みんな、ごめんなさい。」
「そんな!愛理さん!私達いなくなったら、商店街どうなるんですか?」
「大丈夫。お母さんと話し会って、商店街のみんなとも話し合ったの。
明日から、警備員さんに毎日来てもらう事になったから。」
「そうですか。なら大丈夫ですね!寂しいですけど。」
「そうだね。みんな今日までありがとう!」
その日の夕方。
「黒川真桜!」
芝生で黄昏る真桜の元に愛理はやってきた。
「何?真桜は、寝転がったまま愛理を見る。」
「今日は制服着替えたから、パンツみえないよ!」
「あ〜それは残念。」
「もっと残念がりなさいよ!」
「残念がったら見せてくれんの?」
「えっ?いやっ、その・・・」
「はははははっ!」
真桜は笑った。
愛理は、ほっぺたを膨らませてスネてみせた。
「私、グループ解散したから。
もう、悪いやつに利用されたくないから!」
「そう・・・商店街は大丈夫なの?」
「警備員さん雇う事になった。」
「なら大丈夫だな。お疲れさん。」
「うん・・・今日はそれをいいに来た。
商店街のためと思って頑張ったけど、悪い奴に利用されて、あなたに迷惑かけた。本当にごめんなさい。」
真桜は立ち上がり、愛理に近づく。
「えっ?何?」
真桜は、愛理が気づかないで流していた涙を親指でぬぐった。
「これでもう怪我しなくて済むな。」
「えっ!えっ?私、泣いてたの?」
「お疲れ様。じゃあな!」
真桜は、少し嬉しそうに帰ろうとする。
「待って」
愛理は真桜を呼び止め、手を差し出す。
「えっ?」
「握手!しよ!」
「はいはい。」
真桜は気だるそうに、愛理の手を取った。
この日以来、二人が会う事はなかった。
しばらくの間は。
それから数ヶ月後、
愛理はこの町からいなくなった。
そして、真桜も。
キンコンカンコーン。
ガラッ。
「はい、みんな座れー!」
教卓に先生が立ち叫ぶ。
「私が、今日から君たちの担任だ!楽しい学園生活を送れるように、がんばるんだぞー!」
教室の中には、真桜と愛理が座っていた。
二人はお互い気づかない。
俺の名前は黒川真桜。
陰キャで大人しい高校1年生。
前髪は目にかかり、黒縁メガネの目立たない男。
目立つな。怒るな。ケンカはするな。
そして全力で楽しめ!
それが父さんの出した条件だった。
あ〜体が重い。
私の名前は、白石愛理。
陰キャで大人しい高校1年生。
前髪は目にかかり、黒縁メガネの目立たない女。
目立たない。怒らない。ケンカしない。おしとやかに。
そして、全力で楽しむ!
それが私が私に決めた条件。
あ〜前髪ウザい。
真桜は父親に無理やり入学させられたが、愛理は自分でこの高校を探して、入学する事を決めた。
この高校は、実家から程よく遠い、唯一寮のある高校だ。
名前の知り渡りすぎた二人には丁度良い高校だった。
「でわ、出席を取ります!」
先生は、順番に出席を取っていく。
「黒川真桜」
「はい。」
聞き覚えのある名前に、愛理は振り向く。
「同姓同名かよ!
黒川真桜、どうしてるかな〜。」
一人でブツブツつぶやく。
「白石愛理」
「はい。」
聞き覚えのある名前に、真桜は愛理を見る。
「まさかな。金髪じゃないし。あいつどうしてるかな〜。」
一人でブツブツつぶやいた。
逆に今日から僕は、
逆に今日から私は、
『真面目になります!』