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ep.6 引くぞ

 席へと案内されて、初対面とはいえ知り合いではあるうさぎと興一郎が隣同士で座る。

 ちなみに、本人はトビに殺されると最後まで隣に座ることをしぶっていた。本人曰く、対面も駄目らしい。



「えっと、どれにしようかなー」



 メニューを開いてその多さに驚く。

 ゲームや人気プレイヤーをイメージした料理の写真は全てキラキラして見える。

 もうすでに決めていた朝瀬はうさぎに色々勧めてくる。



(あずま)のマジックオムレツにしよう」


「見る目がありますね。しかし、やはりここはトビのチキンカレーにするべきでは」


「興一郎さんはさっきから何を恐れているの……」



 トビの目を気にしすぎである。

 そして、トビはそんなに恐ろしいのだろうか。知らない間に色々やっているらしい。後で聞く必要がありそうだ。



「お互いのメニューは、二人で来た時に食べるの」


「くそっ、なんで配信枠じゃねーんだ」



 朝瀬がテーブルに拳を打ちつける。

 もともと、トビビツは配信者ではない。ゲームが上手いために配信者と一緒にプレイをしたら有名になっただけだ。



「だから、今日は東さん食べるー」



 「すみませーん!」と手を挙げて店員を呼んだ。やって来たの若い女性。うさぎや興一郎の声を聞いて首を傾げていく。



「あの、もしかして東さんとビッツさんですか?」



 注文が終わって店員が口を開く。しかし、発された言葉は「以上でお決まりでしょうか」ではなかった。

 興一郎はチラリとうさぎを見た。はぐらかしても意味ない気がする。店員の目は力強い。



「トビには内緒でお願いします」


「………えっ」



 何やら勘違いしたらしく、うさぎと興一郎を見比べる女性店員。うさぎはへへへと軽く笑うと、興一郎を見た。



「たまたま、そちらの素敵な女性方とご一緒することになっただけですよ」


「男だ………」



 店員はちゃっかり握手を求めて、厨房へと入って行った。それから、チラチラ視線を感じたのは気のせいではないと思う。





「お待たせしましたー!」



 さっきの店員が注文したメニューを持ってきた。

 そして、銀色の袋を人数分置いた。



「き、きた! 出ろ東!」


「トビビツぅうう!」


「ビッツ、ビッツ」


「なんか楽しそうだなー」



 一人冷静な芹沢が真っ先に袋を開けた。



「誰だ、これ?」


「あっ、リーちゃんだ!」



 正確なプレイヤーネームはクロウリー。ビッツの数少ないフレンドの一人である女性プレイヤーで、リアルではモデルもしている。

 バラエティやドラマにもひっぱりだこだらしい。



「ほら、黒田燈(くろだあかり)のキャラ」



 朝瀬が芹沢に説明した。一般人に一言で説明するなら、やはりその一言だろう。



「あかりんのかー、一般人的にはあたりだけど、やっぱうさぎ引きたかったなー」


「恥ずかしいよ、私のアクスタなんて」



 芹沢は笑顔でうさぎの隣に座る興一郎の方を指差した。銀色の袋に向かって手を合わせて「ビッツビッツビッツビッツビッツビッツビッツビッツビッツ」と呟いていた。正直、怖い。

 よく、本人の前でそれができるなぁと感心してしまう。



「よし、引くぞ!」



 ペリッと開いてしばらく「ちくしょーーー!」という悲鳴が聞こえた。さすがのうさぎ達も笑ってしまう。それくらい清々しいほど綺麗な悲鳴だった。


 興一郎のアクスタを朝瀬が取ってみんなに見せた。



「あ、疾風(しっぷう)くんだ」



 疾風は素早さ(AGI)全振りのプレイヤーで、職業(クラス)暗殺者(アサシン)である。

 女性人気も高いが、上手いプレイヤーが好きな男子からの人気も異様に高い。ただし、興一郎はその限りではない。



「じゃ、次は私ね」



 朝瀬が袋を開けて、はぁあああと長いため息をついた。置かれたのは、コラボカフェはずれ枠と呼ばれている最悪にして最凶の嫌われ役プレイヤー、ユクゾウである。

 ちなみに、ネタ枠としてのイメージが強い彼だが、攻略の際にはかなり真面目に働き、MVP級の活躍を見せるため、なぜか色々許されている。

 トビビツデートの際もどこかの配信枠で映れば必ず邪魔をしに来て、あわよくばNTRしようとしていると自分で豪語している。



「ま、まあ、悪い人じゃないし」


「NTRされそうになってる人が言うセリフじゃない」



 朝瀬の冷静なツッコミにうさぎはもう笑うしかなかった。最後は自分の番だと、銀色の袋を丁寧に開ける。



「あ」



 そこにはよく見知った顔があった。



「誰だった?」



 朝瀬の声におずおずとそれを見せる。



「二人の時に、出したかったのに………」



 思わず拗ねた声が漏れた。

 朝瀬が両手で顔を覆い隠して悶絶していた。興一郎は興一郎で何故か昇天しかけていた。


 営業スマイルで微笑むウェイトレス姿の青年。

 トビのアクスタを引いてしまった。

 オリジナルイラストで、自分が持っているトビビツのレアアクスタとはまた違う絵だ。



「一番のあたり引いちゃった」



 えへへと笑うと、芹沢が真っ先に「よかったね」と言ってくれた。他の二人は相変わらず死にかけており、その一言で更に悶絶していた。




     ◇◇◇




 トビの中の人である時雨海斗(しぐれかいと)は、ぼんやりとSNSを眺めていた。

 そこに流れてきたのは、今日、ディストピアオンラインのコラボカフェに行ったと思われる人の投稿だった。



『隣の席にプライベートのビッツと東の中の人いたんだけど、ビッツがトビのアクスタ出して「二人の時に出したかった」って呟いてて、その場のみんな悶絶してた』



 海斗は思わず微笑み、そしてその場にいた東に嫉妬してしまう。

 他の投稿も流れて来た。



『ビッツがコラボカフェにいて、トビのアクスタ引いたっぽいんだけど、「一番のあたり引いた」って喜んでて俺歓喜』


『リアルでもトビのこと大好きなビッツでよかった』


『ビッツ可愛すぎた。コラボカフェ予約したの今日でよかったマジで』


『東と一緒なの個人的に笑う』




 などの投稿もあり、全てバズっていた。

 トレンドにはビッツがランクインしており、コラボカフェの公式も『ビッツ様、東様、またのご来店をお待ちします』と投稿している。

 ピコンと音が鳴る。うさぎからだった。



『コラボカフェの日、予定大丈夫だった?』



 その日は部活があるかもしれない的なことを話していた気がする。

 しかし、顧問にちゃんと休むと伝えられたのでよしだ。なぜ休むのか聞かれて「彼女とデート」と言った時、独身顧問の空気が変わったがなんとか頭グリグリだけで許してもらえた。



『大丈夫。朝一で行こう、俺並ぶの嫌だし』



 OKです、という可愛らしいウサギのスタンプが返ってくる。海斗はクスリと笑ってカレンダーを見た。

 デートするのは2回目だ。

 うさぎがトビのアクスタを出したなら、海斗もビッツのアクスタを出さなくては。

 運営からもらったアクスタは激レアのトビビツペア画アクスタなのだから。

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