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第8話 不満

 鎧殻巨類を倒したクオセルは、そのままメルスに襲われた貧民街に赴く。そして、玖狼で崩れた瓦礫の撤去や人々の救出を手伝った。今回の襲撃で、貧民街には多数の死者が出たようだ。


「すみません…… 魔術師様……」


 救助が終わった後、貧民街の顔役がクオセルに頭を下げる。


「まあ、これも仕事だから……」

「いや、同じ共和国本土から来た人でも、あなた様はセルド総督府の奴らとはえらい違いだ……」

「ふーん、総督府、そんなに酷いの?」

「奴ら、俺達を見下す癖に税だけはきっちり取ろうとする…… ほんと悪い奴らですよ。何とかなりませんかね?」


 セルド島ではレオリア共和国から派遣された少数の人間が政治と税の徴収を担っていた。島民のノイドは選挙権もなく、ただ総督達から搾取される存在だった。


「そう言われてもなぁ。俺に出来ることは鎧殻巨類を倒すことだし、総督に口出す力はないよ」

「うーむ、それは残念だ。いや、それでも鎧殻巨類と戦ってくださるだけでありがたいです。本当に感謝してもしきれない」

「別に、俺は俺のためにやっているだけだから」


 そう言って、クオセルはルーシャの家に戻っていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「クオ、お疲れ様」

「おかえりなさいませ」


 家に戻ってきたクオセルをルーシャとメリサが出迎える。


「うん、疲れたよ」


 クオセルは一階の応接間の椅子に腰かける。


「しかし、あなた一人で鎧殻巨類と戦うというのは大変ね。共和国は島からあれだけ税をとってるんだから、もっと駆動巨人とパイロットを派遣してくれてもいいんじゃない?」


 共和国本土には多くの駆動巨人がいる。セルド島は小さいとはいえ、もう一機くらい派遣してくれてもいいだろうとルーシャは思っていた。


「ほんとにね。ま、共和国はケチだし、鎧殻巨類の脅威を甘く見てるんだろう」

「そもそも、なんであなたが選ばれたの? 自分から志願したとか?」

「いや、強制的に派遣された。俺は共和国の命令を断れる立場にないしね……」

「どうして?」

「悪魔との契約で駆動巨人を手に入れるには対価がいるのは知ってる?」

「ええ、聞いたことあるわ。あなたも魂とか寿命を対価にしたの?」


 悪魔は狡猾で人間は何かしらの対価を支払わなければ、知恵や力を貸してくれないとは聞く。対価は寿命とか魂が一般的だとルーシャは本で読んだ気がする。


「それを望む悪魔もいるようだけど、こっちとしてもそんな条件は呑みたくないから、金銀とか宝石とかを対価にする場合が多いよ」

「あら、悪魔も案外俗っぽいのね」


 ルーシャはなんだか呆れてしまった。悪魔はもう少し神秘的な存在だと思っていたのに……


「それで、貴族出身者や富裕層は契約時に自分の家で対価を払えるけど、俺は裕福ではなかったから、駆動巨人をを手に入れる際、共和国に対価となる大量のきんを肩代わりしてもらった。だから、基本的に共和国の命令を断れない訳」

「ある意味借金しているという感じね…… まあ、島での仕事なんて行きたがる人少なそうだし。あなたも嫌々だったという訳?」

「別に。俺は玖狼に乗って仕事出来れば場所は問わないよ」


 クオセルにとっては場所より仕事内容の方が重要だった。


「紅茶でございます。お嬢様はの無糖ですが、味覚がお子様のクオセル様の紅茶には、砂糖を沢山入れておきました」


 メリサはクオセルとルーシャの分の紅茶を用意する。


「……ありがとう。しかし、一言余計だよメリサさん……」


 メリサは有能なメイドだが、時折言葉に棘というか毒がある。


「ああ、私としたことが。クオセル様には甘いお菓子も必要でしたね。とってまいります」

「……」


 そんな二人のやり取りをルーシャは面白そうに眺めていた。


「ところで、こっちでは総督府の評判は悪いみたいだね」


 クオセルは今日貧民街で言われたことを思い出していた。


「そう、そうなのよ…… あいつら、ノイドを見下すし、態度最悪よ」

「ふーん、俺もここに来た初日に会っただけだからよくわからないけど」

「総督府に行ったのね…… あそこはかなり豪華な造りだったでしょう…… 普段は何もしないくせに、私達から税を搾り取るだけ搾り取るんだから……」

「そりゃ嫌われるね……」

「あなたもこんど総督府に行くことがあったらガツンと言ってくれない?」


 魔術師の言う事なら総督府も無碍には出来ないのではないかとルーシャは考えていた。


「さっきも言ったけど、俺は共和国に借りがある身だから魔術師だけど立場弱いんだ。残念ながら、力になれないよ」


 そう言いつつ、クオセルは甘い紅茶を一口飲んだ。


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