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第7話 蜂と蝦蛄

 クオセルがセルド島に来てから一週間が経つ。しかし、彼はその間、ほとんどルーシャの家で引きこもっている。


 今日もルーシャがクオセルの部屋を訪ねると、昼過ぎだというのに相変わらずベッドで横になっていた。


「ねえ、クオ。普段は駆動巨人の操縦訓練とかしないの?」


 ルーシャは二日前から、彼のことを『クオ』というあだ名で呼ぶことにした。クオセル自身も特にこの呼び方を嫌がってなかった。……というかどうでも良さそうだった。

 

「……訓練なら共和国で散々したからいいよ。島でぐらい自由にさせて欲しい」

「じゃあ、私に魔術を教えるとかはどう?」

「前にも言ったけど、俺は感覚派だしなぁ。第一、面倒くさい」


 そう言って、クオセルはルーシャから顔を背ける。


「もう! 面倒くさいは禁止。なら、私とこの島を歩きましょう」

「この島、観光するところあんの?」

「失礼ね…… まあ、実際無いけど……」


 共和国出身のクオセルに見せられるような立派な建物などこの島にあるだろうか?                  

 富裕層の建物でも、本や絵画で見た共和国本土の大建築には見劣りする。


「それでも、人々との触れ合いは大事だと思うのよね……」

「わかったわかった。ただ、今度にしてくれる? 今は眠いんだ」

「はぁ、じゃあ今度ね……」


 そう言って、ルーシャは部屋を出る。


(まったく、呆れた面倒くさがりね…… あれでよく魔術師になれたものだわ。生まれつき魔力が高かったのね、きっと)


 彼女が内心で呆れていると、ベッドで横になっていたはずのクオセルが急いで部屋から飛び出してきた。


「ちょっと、どうしたの?」

「鎧殻巨類が出た…… 面倒だけど行ってくる」


 彼は階段を駆け下りると、庭に向かって走っていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「……アレか」


 玖狼とシンクロシステムで一体化したクオセルは、セルド島の貧民街を数体の鎧殻巨類が襲っているのを見つける。


 今回現れた鎧殻巨類は、緑の鎧殻を纏い、背中には二対の羽があった。脚は六本で、尾には巨大な針が付いており、鎧殻を纏った蜂を思わせる。

 

 しかし、口は裂け、中には小さな牙が無数に並んでいるところはやはり異形の怪物であり、低く飛んでは地上の人間を食らっていた。


「飛翔型の鎧殻巨類…… 名前はたしかメルスだな」


(撃ち落として、街に被害が及ぶと厄介だ……)


 だが、メルスたちは玖狼の姿を捉えると、食事を止め、一斉に機体に向かってきた。


 クオセルはそのまま人通りの少ない沿岸部の砂浜までメルスを誘導することにした。幸いなことに、逃げる玖狼をどこまでも奴らは追ってきてくれるので助かった。


 だが、メルスもかなりの速度で迫ってきており、スラスターの推力を上げ、急ぎ砂丘を目指す。


 こうして、砂丘が見えてくると、玖狼は反転し、片手用銃剣の引き金を引いた。青い閃光が、一体のメルスの身体を撃ち抜く。メルスは空を飛ぶために身体を軽くする必要があり、外殻はあまり強固ではない。ゆえに、銃剣の光弾の一撃で、容易に退治できた。


 仲間が撃ち落とされたのを見て、他のメルスは散り散りになって攻撃を避けようとする。


 玖狼と一体化したクオセルはそれでも冷静に引き金を引く。一匹、また一匹と砂丘に落下していく。


 メルスの一体は横から勢いをつけて玖狼に向かってくると、毒針で機体を刺さんとする。しかし、それも焦らずに銃撃する。


(速度は厄介だが、雑魚の群れだな……)

 

 そう思い、銃撃を始めてから一分とたたず、すべてのメルスを殲滅した。

 

 だが、これで終わりではなかった。砂塵を巻き上げ、青い蝦蛄シャコのような巨大な鎧殻巨類が姿を現す。全長は六バーザ(約十八メートル)とかなりの巨体だった。


(……こいつはたしか、シェルドム。海から来たのか?)


 普段は水中に生息するとされる鎧殻巨類で、堅い鎧殻と丸いハンマーのような前脚から繰り出す攻撃が特徴だ。

 

 玖狼は銃剣の引き金を引いたが、赤ゾームのときと同じく、やはり銃剣の光弾は効かなかった。


 すると、シェルドムも反撃とばかりに、目にエネルギーを集め、それを赤い閃光として発射した。


「ちっ!」


 玖狼はそれを回避すると、砂丘に降り立ち、近接戦闘を選択する。左手に銃剣、右手にメッサーを持ち、スラスターを吹かして接近する。


(前脚の攻撃を食らったら危うい…… 出来るだけ側面から攻撃する)


 そう思って側面に回ろうとするが、シェルドムは図体のわりにかなり機敏であった。

 クオセルの考えを読んでいるかの如く、けして側面を見せようとせず、隙を見て、前脚のハンマーを食らわせようとする。


(……なるほど、面倒だな)


 そう思い、いったん距離をとる。すると、シェルドムは玖狼に向かって恐ろしい速度で前進してきて、距離が詰まったとみるや、ハンマー型の前脚を勢いよく跳ね上げた――しかし、玖狼はそれを避けるようにスラスターを全力で吹かせて真上に上昇する。


 そして、目の前から急に獲物が消えたことに困惑し、動きを止めたシェルドムの背後に降り立つと、奴が振り向く前に、後ろ足の何本かをメッサーで薙ぐ。


「キシャァァァァァ!」


 シェルドムは怒りの叫びをあげるが、後ろ足を切断され、バランスを崩す。その隙を見逃さず、玖狼はメッサーを振りかぶり、シェルドムの胴を切断する。

 青い血が盛大に噴き出すが、それでもなおシェルドムが足掻こうとするので、左手に持った銃剣で、傷口めがけて光弾を放つ。


 さすがに中からの攻撃には耐えられず、シェルドムは奇声をあげつつ絶命する。死骸からはいつものように炎が上がった。


「……やれやれ。セルド島の仕事も楽じゃない」


 鎧殻巨類に勝利したクオセルだったが、大きなため息をつくのだった。


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