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第3話 土埃色の駆動巨人

 ヴァーズ大陸に住む人間は皆魔力を持っている。そして、魔力が高く、悪魔と契約できる少数の人間は魔術師と呼ばれた。


 ごく稀にウォーズ大陸内でも、魔力を持たない人間が生まれてくるが、そのような人間はウーシェオ帝国では赤子の内に殺され、レオリア共和国では共和国領のセルド島に追放する。


 ゆえに、セルド島の人間は、レオリア共和国から追放されたか、その子孫たちである。彼らは魔力を持たない人間・『ノイド』と呼ばれて、レオリア共和国から差別的な扱いを受けていた。


 魔力のない彼らは島から出ることも許されず、一生をこの小さく貧しい島で過ごすのである。


 しかし、魔力を持った両親からノイドが生まれてくるケースがあるように、極稀ではあるが、ノイドの両親からも魔力を持った人間が生まれてくることもあった。


 島のノイド出身者でも、魔術師にまでなれれば、この島からレオリア共和国に行き、様々な特権を手にすることが出来る。


 緑の駆動巨人のパイロット、ルード・フェインもまさに、ノイドの両親から生まれた魔術師であった。


 彼は悪魔との契約に成功し、独自の駆動巨人まで手にすることが出来た優秀な人材だ。本来であれば、レオリア共和国本土で豊かな生活が出来たものを、鎧殻巨類が出没するこのセルド島のために、彼は駆動巨人に乗って戦い、そして死んでいった……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 セルド島で唯一、駆動巨人を操縦できたルード・フェインの死から一週間。


 セルド島側からの強い要請を受けて、大陸のレオリア共和国から代わりの魔術師と駆動巨人が送られてきた。


 島の人々は、悪魔が作ったという駆動巨人の姿を一目見ようとして、人だかりが出来ていた。


 その群衆の中に、ルーシャ・エルネスという十七歳の少女もいた。


 彼女はオレンジの髪をサイドテールにし、金色の瞳を持っていた。自他ともに認める美少女であり、彼女の存在は普段なら人目を引いたはずだが、今日の人々の視線は共和国から来た駆動巨人に向いていた。


(あれが、共和国の駆動巨人…… 思っていたより地味ね)


 彼女が遠目から見るその駆動巨人は全身が土埃カーキ色の目立たないカラーリングであった。しかし、機体の大きさは三バーザ(約九メートル)しかなかったルードの緑の駆動巨人よりも大きく、四バーザ(約十二メートル)はあった。


 また、色合いは地味だが、フォルム自体は洗練されており、全身に付いたスラスターの数も多かった。


 頭部は逆三角形のような斜めのバイザーで覆われており、その下からは、敵を睨みつけるような鋭いツイン・アイ(厳密にはコックピットのモニターに映像を映すカメラという部位だろう)が存在している。


 その他にも首筋、腕回り、脚回り、腰回りに動力チューブが通っていた。


(たしかに…… 強そうではあるわね)


 その駆動巨人の足元には、この機体のパイロットであると思われる魔術師が立っていて、島の有力者たちが我先にと挨拶をしていた。


 よく見ると、その魔術師は二十代前後の若者で、髪はボサボサの茶髪で、目は鳶色だった。魔術師と言ってもフード付きローブなどは着ていない普通の格好である。


 父から聞いた話だと、名前はクオセル・フォーリスといい、島の有力者を前にしても欠伸をしていた。


(共和国本土から来た人間なんてあんなものね…… 私達ノイドを完全に下に見て舐めているわ……)


 ルーシャの彼に対する第一印象は決して良いものではなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その後、ルーシャはどこかムカついた気分で家に帰った。彼女はこの貧しい島の中ではかなり裕福な家の生まれで、家も島の中央部分にあった。ルーシャの家は七代前に大陸から追放された古株である。追放された先祖が古ければ古いほど、基本的に島の中央部で豊かな生活を享受している。


 この国にはいくつもの貧民街がある中で、ルーシャは自分が恵まれていると強く自覚していた。しかし、やはり島での生活は息苦しい。


 それに、共和国本土での生活に憧れをもっており、魔術師になってこの島を出たいと強く思っていた。


 彼女自身もルードと同じく、ノイドの生まれでありながら魔力を持ち、将来は魔術師になることを目ざしていたのである。


 ただ、ルーシャもルードのように正義感がない訳でもなく、島を出ていくのはこの島を襲う鎧殻巨類の被害が無くなってからと考えていた。だから、もし自分が魔術師になれたら、駆動巨人に乗って鎧殻巨類と戦う意志もあった。


(まあ、あくまで夢だけどね……)


 本当に魔術師になれるかどうかは分からない。ただ、それ以外に島から出ていく手だてが無いのは事実である。


 そう思ってルーシャは溜息をついた。

 



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