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第25話 ため息

 クオセルたちが総督府を出て、駆動巨人を置いていた場所に行ってみると、そこには玖狼くろうΣ(シグマ)の他に、見たことのない駆動巨人の姿があった。


「おお、こいつが俺の相棒、R(レッド)L(ランス)だ」


 アッシュはそう言って、機体に近づく。

 悪魔ローグがこの島に転送させたのだろう。その駆動巨人、R・Lは全身が真紅の機体で、頭頂部から後方にかけて二本の角(正確にはアンテナだろう)が伸びていた。


「それで、これからどうすんだ? 俺はどこに住めばいい?」


 アッシュは呑気に尋ねる。


「ルーシャ、彼もあんたの屋敷においてあげる?」

「えー、嫌よ。なんで私たちを殺しに来た奴を住まわせなければならないのよ……」


 ルーシャから露骨に嫌そうな返事が返ってくる。


「三人まとまった場所にいた方が色々都合がいいと思うんだよね。これからは協力していくわけだし」

「私はクオみたいにすぐには割りきれないわ」


 ルーシャはまだこのアッシュという青年が信用ならなかった。


「頼むよ。大人しくしてるから、お前の家に置いてくれ。この通りだ」


 アッシュはまたしても頭を深々と下げる。


「あなた、頭下げりゃいいってもんじゃないのよ」

「といっても、他に出来ることないしな俺」

「はぁ。まあいいわ。空いている部屋はまだあるから泊めてあげる」


 ルーシャは仕方なく自分の屋敷にアッシュを置くことを許可する。それを聞いて、アッシュは嬉しそうに微笑む。


「やった。恩に着るぜ」

「父には共和国からこの島に派遣された駆動巨人のパイロットとしてあなたを紹介しておくから、そう演じてちょうだい。あと、なんかあったらすぐ追い出すから」

「はは、わかったよ。よし、じゃあ行こうぜ」


 アッシュは浮遊の魔術を使い胸のコックピットに至ると、R・Lに乗り込む。


「ほんとにわかってるのかしら……」

「まあ、大丈夫でしょ……」


 クオセルとルーシャも駆動巨人に乗り込み、屋敷へと向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「なるほど、あなたが新しいパイロットなのですね……」


 屋敷に着いて事情を話すと、ルーシャの父フルドはアッシュを歓迎してくれた。


「しかし、クオセル様の時と違って私に情報は来ていないのはどういう訳なのか……」

「……総督府の話だと、彼の派遣は急きょ決まったことなんですって」

「なるほど。なんにせよ、よろしくお願いいたしますアッシュ様」

「おう、俺が来たからにはこの島は安泰だ。大船に乗ったつもりでいてくれ」


 調子にのるアッシュをルーシャは冷めた目で見ていた。


「はは、それは頼もしい。メリサ、アッシュ様を空いているお部屋に案内しておあげなさい」

「かしこまりました」


 アッシュはメリサに連れられて、二階に上がっていく。


「はあ、ほんと調子のいい男」

「しかし、アッシュ様が来たのならルーシャ、お前はもう駆動巨人で戦う必要はないんじゃないか?」

「何言っているのよ。戦力は多い方がいいわ。ねえ、クオ」

「あ、ああ……」


 クオセルは何か考え事をしているようで、上の空の返事をした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その夜、ルーシャはクオセルの部屋を訪ねた。


「どうしたの?」


 部屋のドアを開け、クオセルが問う。


「ちょっと話があるの」

「……わかった」


 そう言ってルーシャを部屋に招き入れる。


「……鎧殻巨人。まさか中に人が入っていたとは思わなかったわよね……」

「……ああ、そうだね」


 ルーシャはため息をつく。


「私、気がつかない内に人間を一人殺しちゃってたんだなって思ってね……」


 ルーシャとしては、鎧殻巨人という異形の怪物と戦っているつもりでいた。しかし、アッシュから真実を聞かされ、初めての戦いで人を殺めていたことを知ったのだった。


「ルーシャに非はないよ。島を襲ってきた奴らが悪いんだ。あと、それを言うなら、俺の方が大勢殺したけど、俺は自分が間違ってたなんて思っていないよ」

「クオはほんとに平気?」

「ま、気分はよくないね。ただ、俺はパイロットになった時点で人を殺す可能性は考えていたから。だから大丈夫だ」


 クオセルは真っ直ぐとルーシャの金色の瞳を見る。


「ただ、あんたは島を鎧殻巨類の脅威から守るためにパイロットになったはずだ。だから、今からでも遅くない。辛いなら、パイロットを降りるべきだと思う」

「辛い、か…… 私もクオと同じよ。確かに気分は良くないけど、殺したのは仕方なかったと思っているわ。そして、これからも島に鎧殻巨人が来るなら戦いたい」

「……ルーシャ」


 ルーシャの瞳には強い意志が宿っているのをクオセルは感じていた。


「こんなバカげたゲームを良しとする連中、私は許せないもの……」

「……無理、してはいない?」

「大丈夫よ。無理していない。より強く決意が固まったと思っているわ」


 ルーシャはそう言って、クオセルに笑いかける。その笑みどこか儚げだった。


「……今からでもパイロットを辞めて共和国本土に行ったっていいと思うよ。ルーシャにはその資格がある」

「私はねクオ。あなたとこのゲームとやらを終わらせたいの。そして、心残り無く、共和国本土にいく。それが夢。途中で投げ出したくないの」

「……そうか。それがルーシャの思いなのか」

「ええ。辛い事はたくさんあるだろうけど、クオ、私はあなたの傍にいる。だからあなたも私を頼ってちょうだい」

「ああ、そうするよ」


 クオセルもそう言って、ルーシャに笑い返す。

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