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第24話 悪魔ローグ

 クオセルとルーシャは拘束したアッシュを連れて、セルド総督府に赴いた。そして、セルド総統にすべてを話す。


「……つまり、すべては悪魔が仕組んだというわけか…… それに我が祖国まで絡んでいたとは……」


 総督は頭を抱える。


「総督、あなたも何も知らなかったんですか?」


 ルーシャの問いに彼は頷く。


「私も初耳だ…… おそらく共和国のごく一部の人間しかこの事は知らんだろう」

「ああ、そうだろうな。知っているのは共和国の首脳部だけさ。あんたみたいな地方の小役人に情報が行くわけない」


 小ばかしたようにアッシュは言う。


「……アッシュ・ドレイク、君も共和国の魔術師だったのだろう? なら祖国が悪魔と交わしたバカげた契約に怒るべきじゃないかね? それを己も悪魔と契約してこの島を襲いおって」


 総督はアッシュを睨みつけるが、当のアッシュはそれをせせら笑う。


「俺は悪魔になるためなら何だってやるぜ……」

「貴様という奴は……」


「それで、総督。これからどうします?」


 クオセルの問いに総督は考えこむ。


「……共和国の首脳陣が悪魔にとりこまれている以上、我々が何を言っても無駄だろうな。告発しても、握り潰されるのがオチだ……」


『その通り。君たちは黙っているのが賢明だ』


 その声とともに、総督室に灰色のローブを纏い、灰色の仮面をつけた人物が姿を現す。顔の側面からはローブのフードを突き破り、二本の長い角が伸びている。


「あ、悪魔!」


 総督は怯えたように椅子から立ち上がる。

 

「……ローグ。俺を消しにでもきたのか?」


 アッシュも苦々しそうに言う。ローグというのはアッシュの話に出てきた悪魔で、鎧殻巨類を操つり、このゲームを始めた諜報人だ。また、鎧殻巨人を開発したのもこの悪魔だとか。


「いや、私自ら手を下す気はないよ。まあ、君の口がこれほど軽い事には驚いたが、彼らにバレたのならバレたでそれも一興」


 そして、ローグはクオセルとルーシャの方を向く。


「君たちの活躍には恐れ入ったよ。私が送り込んだ鎧殻巨類、鎧殻巨人を悉く倒してしまったのだから…… 特にクオセル君、君の活躍は素晴らしい。冥府の悪魔たちもこのゲームを楽しんでいるよ」

「俺はあんたらを楽しませるために戦った覚えはないけどね…… で、これからもこの島でそのゲームとやらを続けるの?」


 不愉快そうにクオセルは言うが、一方のローグは楽し気に笑う。


「もちろん。これは共和国のお偉方も了承してくれたことなんだ……」

「島に住む私たちは何も聞いてないわよ!」


 ルーシャは抗議するが、ローグはどこ吹く風だった。


「残念ながら、君たちノイドに人権はないというのが共和国の考えらしい」

「ふざけないで!」


 ルーシャは怒りのあまり拳を握りしめる。


「まあまあ、ルーシャ抑えて」


 クオセルはそんな彼女を落ち着かせながら、悪魔に問う。


「それで、このゲームに終わりはあるのかい?」

「終わりか…… 我々悪魔が飽きたら終わるだろうね…… それが十年先か、百年先かはわからんが……」

「……なるほどね。しかし、ゲームというならこちらにもクリア条件を設けて欲しい。そちらの方が俺たちも戦うモチベーションがわく」  


 クオセルの言葉にローグは少し考えこむ。


「……たしかに、終わりが見えないゲームというのは人間には辛かろう…… よし、何かしらの条件を考えておこう」

「……意外とすんなり了承してくれたね。こっちとしては助かるけど……」

「別にこの島でなくとも、悪魔の世界で似たようなゲームを行ったらどうかという声もあるからね……」

「じゃあ、一刻も早くこの島でのゲームを中止してほしいものだわ」

「はは、私自身はセルド島と人間を使ったゲームを気に入っていてね。もう少し楽しみたいんだ」


 ローグは仮面の下で笑う。


「ただ、クリア条件を達成できたら、もうこの島を襲わないことは約束しよう。それで君たちのやる気が出るというならね…… だがね、鎧殻巨人の研究はまさに日進月歩。私が開発した強力な鎧殻巨人が次から次へとこの島に襲いくる…… 君たちはそれに勝てるかね?」

「どうせ戦うしか道はないんだろう。なら、やってやるよ」

「ふふ、さすがだクオセル君…… 私が見込んだだけはあるよ」

「見込んだ?」


 クオセルは怪訝そうに聞き返す。


「ああ、君をこの島に送るよう共和国に働きかけたのは私なんだ。君の実力なら、面白いゲームをしてくれると思ってね…… 実際そうなって満足しているよ」 

「なるほど…… あんたが俺をこの厄介ごとに巻き込んだ張本人ってわけだ。ほんと、腹立つよ」

「まあそう怒るな。クリア条件、考えておくよ……それでだ、アッシュ君」


 ローグはアッシュの方に視線を向ける。


「君はゲームに失敗したが、優秀なパイロットなのは事実だ…… この島を守る駆動巨人のパイロットになってみないか?」

「なっ!?」


 突然のローグの申し出に、みなが驚く。


「ついさっきまでこいつらを殺そうとした俺に、島を守れだと?」

「ああ、そうさ。私も強力な鎧殻巨人を量産出来る目途がたってね。もう一体くらい島に駆動巨人を追加しても良いかと考えているんだ。君の駆動巨人R(レッド)L(ランス)をこの島に持ってこよう……」

「それをやるメリットはなんかあんのか?」

「ゲームクリアまで本気でこの島を守るなら、君を悪魔にしてあげようじゃないか……」


 その言葉に、アッシュは満面の笑みを浮かべる。


「そりゃあいい ……しかし、ほんとうか?」

「悪魔は嘘はつかないよ。ただし、手を抜いてはダメだ。本気でやらねばならない」

「ああ、やってやる」

「ちょっと、勝手に何決めてんのよ!」


 ルーシャは抗議する。


「悪い話ではないだろう。そちらも戦力が増えるんだ……」

「まあ、確かにね…… 俺は別にいいよ」

「クオ! いいの? あいつはさっきまで敵だったのよ」

「ゲームクリアまで、駆動巨人は一体でも多く欲しいからね」


 そう言って、クオセルはアッシュの前に立つ。


「一緒に戦ってくれる?」

「ああ、俺は悪魔になりたいしな…… そのためなら、お前らに協力するよ」

「なら、私たちにちゃんと謝ってくれます?」


 そう言われて、アッシュは素直に、そして深々と頭を下げる。


「悪かった。どうしても悪魔になりたかったんだ…… 許してくれ」

「クオ、ほんとに大丈夫かしらコイツ」

「まあ、単純そうな奴だし、いいんじゃないの」


 クオセルはそう言って、アッシュのロープの縄をほどく。


「すまねぇな。よろしく頼む」

「……」

「ふふ、では私は冥界に帰るとしよう」

「クリア条件、ちゃんと考えてよね」

「ああ、約束する」


 次の瞬間、ローグの姿は跡形もなく消えていた。


 


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