第21話 初陣
ルーシャが新型の駆動巨人を手に入れてから、三日が経っていた。この間、ルーシャは機体にΣという名前を付け、カラーリングもアグスに頼み、全体を白、バイザーや肩や胸、太腿部などはオレンジに変更してもらっていた。
そして、今日も人気のない沿岸部の砂丘で、クオセルの指導のもと機体の操縦の練習をしていた。
最初は機体をコントロールするので精いっぱいだった彼女も、今やシンクロシステムを使い、機体を己が手足のように操縦することが可能となっていた。
「どう、クオ?」
機体のハッチを開け、ルーシャはクオセルに尋ねる。
「ま、だいぶいいんじゃない。機体の高い性能を上手く引き出していると思うよ」
実際、ルーシャにパイロットとしての才能があることを、クオセルは認めざるを得なかった。魔力が高いだけじゃない。感が鋭く、多彩な火器をしっかりと扱えてもいる。
「ほんと!? クオの指導がいいおかげね」
「はは、どうだか……」
しかし、彼女が実戦で戦うのはなおクオセルは不安だった。訓練で出来たことが、実際の戦闘という緊張下で出来るとは限らないし、一歩間違えば命を落としかねないからだ。
(このまま、玖狼の修理が終わるまで、鎧殻巨類が来なければ良いけど……)
クオセルはそう思った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その夜のことだった。ルーシャは探知魔術で鎧殻巨類の反応を感じた。ルーシャもクオセルの指導の下、常時探知魔術を発動できるようになっていたのだった。
ルーシャは急ぎ自分の部屋から飛び出すと、クオセルも廊下に出ていた。
「海辺に現れたみたいね…… 行ってくる」
「……くれぐれも無理はしないようにね」
「ええ。クオの教え通り、やってくるわ」
ルーシャはそう言うと階段を駆け下り、玄関の扉を開けて庭のΣに乗り込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ルーシャはシンクロシステムを発動し、Σと一体になる。まるで、自分自身が空を飛んでいるような不思議な感覚を抱きながら、海辺を目指す。
足元にはいくつもの民家が見える。
(私が皆を守るんだ!)
そう思いながら、目的地に急ぐと、海辺の砂丘地帯に、大量の蝦蛄型鎧殻巨類・シェルドムの姿が見えてくる。その数は二十匹はいる。
(なんて数…… でも、負けやしないわ!)
Σはシェルドムの目からの光線が当たらない上空から、手にした対装甲小銃で一匹一匹狙い撃つ。オレンジ色の閃光がシェルドムの鎧殻を貫いた。
「「キシャァァァァァ」」
耳をつんざく断末魔をあげて、次から次へとシェルドムは息絶える。
「次はこれよ!」
機体の背中のエネルギーパネルから、いくつもの追尾光弾が放出される。それは真下にいる敵を正確に攻撃し、一度に残りのシェルドムをすべてを葬り去った。
(よし、これで大丈夫!)
ルーシャが地上の敵をすべて片付けたと思ったその時だった。海から巨大な鎧殻巨人が姿を現す。
鎧殻巨人はシェルドムを人型にしたような見た目で、右手に斧、左手には鎧殻と同じような盾を構えていた。
『貴様が新型の駆動巨人だな…… 私と手合わせ願おう……』
そう言うと、頭部の眼柄から赤い閃光を放ってきた。
Σはそれを躱しつつ、対装甲小銃で鎧殻巨人を狙い撃つ。しかし、鎧殻巨人は俊敏で、銃撃を避けていく。
お互い、旋回しながら、相手を遠距離攻撃するが、両者の攻撃は当たらない。
Σは追尾光弾も放出した。光弾は鎧殻巨人をどこまでも追っていき、その身体に激突した。だが、鎧殻巨人の鎧殻はシェルドムより強固なようで、光弾を受けても傷ひとつかなかった。
『そんな攻撃、こけおどしにしかならんわ!』
そう叫ぶと、鎧殻巨人は距離を詰めてくる。この鎧殻巨人は近接戦を得意としていた。一方、ルーシャはクオセルのように近接武器を巧みに扱うことは出来なかった。
(近接戦では不利…… けど!)
Σには奥の手があった。敵が近寄ってきた瞬間、腹部の砲口にエネルギーを集める。そして、そこからオレンジ色の膨大なエネルギーの奔流を放出させたのだ。
『何っ!?』
鎧殻巨人は慌てて盾を構えたが、エネルギーの奔流は盾を焼き焦がし、鎧殻巨人の装甲をも貫いた。
『おのれ……』
鎧殻巨人はそう呟くと、身体を炎上させ、灰となっていった。
(やはり、腹部キャノン砲はとんでもない威力ね……)
敵を殺すのは良い気分はしなかった。それでも、故郷を攻撃する敵は野放しに出来ない。そう思いながら、ルーシャは戦場を後にするのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ルーシャが戦闘を追えて我が家に帰ってくると、外でクオセルとルーシャの父、フルドが彼女を出迎えた。
「おお、ルーシャ。良かった無事で……」
フルドは娘が怪我ひとつなく帰ってきて、安堵した様子だった。
「ただいま。鎧殻巨人も倒したわよ」
ルーシャは誇らしげに言う。
「初陣にしては上出来だね」
クオセルも笑う。
「でしょ? もっと褒めて!」
「はは、調子に乗らないの」
ルーシャの初陣は、このように勝利で終えることが出来た。




