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第19話 考察

「……パイロットですか」


 ユーネルの提案はルーシャにとっては心惹かれるものだった。


「ああ、そうだ。君にその気があるなら、共和国はその支援を惜しまないと言っている。悪魔との契約の対価もすべて共和国が持つとな」

「すべて……」


 ルーシャには破格の条件に思えたが、クオセルはそれに口を挟む。


「俺の時も共和国は全額出してくれたよ。けど、共和国に借りを作ると色々面倒ごとを押し付けられるんだ。俺みたいにね」

「それについては心配するな。共和国もルード・フェインを死なせてしまったことを反省しているとのことで、この話はその詫びもあるそうだ」

「詫び? 共和国に詫びる心なんてあるの?」


 クオセルは怪訝そうな顔をする。


「はは、たしかに私も疑わしく思っている。ただ、実際にルーシャはクオセルの時と違って、駆動巨人を手に入れても、共和国のための仕事をする必要はないそうだ。この島を襲う鎧殻巨類と戦っても良いし、戦いが嫌なら、いつでもパイロットを降りても構わないと共和国は言っている」

「共和国の誰がそんなことを?」

執政官しっせいかん直々の言葉だ」


 執政官、それは共和国の最高権力者だ。定員は二名で、彼らは内政と軍事の両方を担い、共和国の頂点として権勢をふるっていた。


「執政官が……そういうや師匠は顔見知りだったね。しかし、何か裏がありそうじゃない?」

「かもな…… だが、今日持ってきた書類にも先ほどの条件は明言されている」


 ユーネルは二人に書類の文面を見せる。


「共和国側に裏があるにせよ、文面上はこうなっている。だから、どうするかはルーシャ、君次第だ」  

「じゃあ、私が駆動巨人を手に入れた場合、この島でクオのサポートをしても問題ないのですね?」

「危険ではあるぞ。だが、君が望むなら自由だ」


 ユーネルは微笑む。


「……ルーシャ」

「でも、私はこの島のために戦いたい。クオもこの島が戦力不足だと思っているんでしょ? なら、私がその力になりたいの」

「……」


「実際、ルーシャの魔力量は大したものだと思う。パイロットとしてもかなりの実力が期待できるだろう」


 ユーネルは紅茶を一口飲んでから、そう言う。


「それは確証がないでしょ……」

「まあ、私は共和国に言われたことを伝えに来ただけだ。あとはルーシャが考える事さ。これは、個人の選択だ」

「そうだけどさ……」

「クオセル。私もお前がパイロットになることを反対しなかったろ。魔術師はどこまで己の選択で道を切り開くべきだ」

「……」


 ユーネルはルーシャに笑いかける。


「別に焦る必要はない。ゆっくり考えるがいいさ」

「ええ、よく考えて決めたいと思います」


 しかし、もうルーシャの気持ちはほとんど決まっていた。


「さて、私が共和国から言われたのはそれだけだ」

「共和国も、ルーシャにこんだけ配慮できるなら、普段から駆動巨人をもっとこの島に派遣してほしいものだけどね」

「ふふ、執政官は鎧殻巨類など、お前一人で十分相手できると言っていた。現にお前はこうして無傷で生きているではないか」


 クオセルはユーネルの返答に不満そうだった。


「それが執政官が援軍を寄越さない理由だと、本気で思ってる?」

「……まあ、共和国の言葉には裏が付き物だ。何かしら思惑があるだろうな」


 思惑……以前セルド総督もそんなことを言っていた。


「その思惑ってのは何?」

「そうだな…… クオセル、お前は鎧殻巨人をなんと見る?」

「鎧殻巨人?」

「私もあれについて気になっていてな。単に鎧殻巨類が駆動巨人に対抗するために進化した姿なのかなんなのかもしれんが……」 


 ユーネルは少し考えこんでから、言葉をつづける。


「ただ、共和国が秘密裏に開発した新兵器なんて噂もある」

「共和国が?」

「まあ、これは陰謀論のようなものだから真に受けんでくれ。共和国が帝国に対抗するために作ったのが鎧殻巨人であり、その実験をこの島でやっているとかな……」

「……それはさすがに信じられないな」

「荒唐無稽な話ではある。しかし、共和国が増援を頑なに寄越さんのは、何か裏があると思わないか?」

「それは……」


 たしかに、クオセルにとってもあまりに不自然で引っかかることだった。


「鎧殻巨類にしてもそうだ…… この島に鎧殻巨類が頻出するようになったのも十年程前からだ。これにも共和国が関わっているんじゃないかと私は睨んでいる」

「ユーネルさんは共和国から派遣されていらしたのに、随分と共和国を悪くいうのですね……」

 

 ルーシャの言葉にユーネルは笑う。


「まあ、実際に碌でもないからな共和国は…… ノイドの君ならよりそう思うだろう」

「……」 

「だからまあ、君がどの選択をしようと構わんが、島に残って戦うというなら、その危険性は認識した方がいい。奴らは基本的にノイドの命など何とも思って無いのだからな」

「それは……承知しています」


 ルーシャもその事は身に沁みてわかっていた。


「いや、変な話をした。すまないが、今言った話に確証はない。見当違いの説だったら、後で笑ってくれ……」

「そうするよ、師匠」

「ただ、共和国は何か知っている。クオセル、お前がこの島で戦い続ければ、それがわかるかもしれん」

「そうだね。まあ、もう少しこの島で頑張ってみるよ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「もうお帰りになるんですか?」

「ああ、これでも私は忙しい身でな。次の仕事が待っているんだ」

「転移の魔術でお帰りに?」

「ふふ、共和国に帰るぐらいの魔力はあるさ」


 魔力を大量に消費する転移の魔術をこんな短期間に二度も使うことが出来るとは驚きだった。ユーネルの魔力量が膨大な証だ。


「じゃあね、師匠」

「ああまた会おう、愛しの弟子よ」

「……その言い方、なんか気味悪い」

「そう邪険にするな。私はお前の無事を願っている。ではな」

「うん」


 そう言って、ユーネルは転移の魔術を使い、共和国に帰っていった。

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