第2話 赤い鎧殻巨類
魔力の持たない人間が追放される場所、共和国領セルド島内。その沿岸近くの砂漠地帯で、今にも戦闘が起こらんとしていた。
緑色の駆動巨人(乗り込み式人型巨大兵器)は銃剣を構え、砂塵を巻き上げながら進む、紫色のサソリ型鎧殻巨類・ゾームを狙う。
そして、充分に距離が詰まったところで、パイロットは操縦レバーに着いたボタンを押した。すると、それに連動して、駆動巨人も銃剣の引き金を引く。銃口から、緑色の閃光が放出され、ゾームの頭部を正確に撃ち抜いた。
ゾームは断末魔も上げることが出来ず、その巨体の動きを止める。
「やったぞ!」
パイロットのルード・フェインはコックピットの中で歓声を上げる。
しかし、その時だった。足元の砂が崩れ、砂の中からもう一体のサソリ型ゾームが姿を現す。
「何っ!?」
駆動巨人は足元から体勢を崩し、盛大に地面に倒れる。巨大な音とともに砂埃が巻き上がった。
ゾームは横たわる駆動巨人の上に這い上がると、そのコックピットがある胸部分を尾の毒針で狙う。外見のわりに高い知能を有しているようだった。
「くっ、させるか!」
ルードは操縦レバーとボタンを操作し、銃剣を駆動巨人の手から離すと、代わりにその尾を掴ませる。そして、馬力で尾を引きちぎった。
「キシャァァァァァァァァァ」
ゾームは鋭い叫び声をあげる。駆動巨人は構わずにゾームを殴りつけて、機体から跳ねのけると、再び銃剣を掴む。さらに、背後に備え付けられたスラスターを吹かして体勢を立て直す。
尾を失ったゾームであったが、なおも駆動巨人に飛び掛からんとする。しかし、ルードは冷静に銃剣の銃口から光弾を発射させる。
光弾はゾームの身体を貫き、あっという間に絶命させた。
「ふぅ……」
予想外の敵の来襲に驚きながらも、焦らずに対処できたとルードは思った。
これで今日の任務は終わり、帰還しようとしたその時、前方でまたしても巨大なサソリ型鎧殻巨類が姿を現す。全長は今の二匹より一回りほど大きく、その体躯は赤かった。
「畜生……まだ居やがるのか……」
ルードはそれでも操縦レバーのボタンを操作し、銃口からまたもや光弾を放つ――が、その赤い鎧殻は銃撃を受けても傷ひとつ付いていなかった。
「なっ、馬鹿な……」
今まで色々なタイプの鎧殻巨類を倒してきたが、こんなことは初めてだった。
ルードは光弾を連射するが、赤いゾームはそれをものともせず、八本の足を器用に動かし、恐ろしい速度で近づいてくる。
ルードは銃撃を諦め、高波動を纏った銃剣の刃で近接戦を仕掛けることにした。
駆動巨人の体勢を低くし、銃剣での突撃を行う。しかし、赤いゾームは駆動巨人の頭部目掛けて、青い毒液を吐いてきた。
「こ、この!」
駆動巨人の強固な装甲は毒液でも溶解しなかったが、毒液が視界を担う頭部を覆い、コックピットのモニターの画面は一瞬何も映らなくなる。
慌てて、身体中に備え付けられた別の視界部位に切り替えるボタンを押す。しかし、モニターに映ったのは赤いゾームの尾であった。そして、次の瞬間には駆動巨人の胸の装甲を易々と貫ぬく。
「ガッ……」
ルードは尾の毒針に身体を貫かれ、一瞬だけ鋭い痛みを感じた後、事切れたのだった。
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