第18話 師匠
翌日、ルーシャは総督府を訪れていた。
「……まさか、ルード・フェインに続いて君まで魔術師になるとはね」
セルド総督はルーシャの話を聞いて驚いた様子だった。
「良かったじゃないか。これでこのしみったれた島ともおさらば出来るわけだ」
厭味ったらしく総督は言う。ルーシャはやはりこの男が好きになれなかった。根本的にこの島やノイドを見下しているのだ。
「ただ、しばらくはこの島に残りたいと思います。島に出てくる鎧殻巨類のことも気がかりですし」
「はあ、私が君の立場ならこんな危険な島一刻もはやく出ていきたいが…… 君もルード・フェインと同じく、駆動巨人のパイロットになりたいのかね……」
「それについてはまだ考えているところでして……」
「まあ、なんにせよ、君が魔術師になったことは共和国本土に報告しておくよ」
セルド総督はそう言い、いくつかの書類をルーシャに手渡す。彼女はそれにサインをし、総督府を後にした。
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翌日、ルーシャの屋敷に来訪者があった。
ルーシャが玄関の戸を開けると、ローブを纏い、鍔の広い三角帽子を被ったいかにも魔術師然とした女性が立っていた。
「君がルーシャ・エルネスだね?」
彼女はルーシャの姿を見て微笑む。その女性は三十代半ばぐらいで、鼻筋の通った美人だとルーシャは思った。そして、彼女からは強い魔力を感じる。
「あの、あなたは?」
「私はユーネル・コードセン。しがない共和国の魔術師さ。君が魔術師になったと聞いて共和国から派遣されてきた」
「……ああ、なるほど。どうぞ、おあがりください」
「すまないね」
ルーシャはユーネルを応接間に案内する。彼女は椅子に座るなり、ため息をつく。
「いや、転移の魔術を使い共和国からこの島まで来たのだが、こう長距離を転移すると疲れる」
「共和国から転移を……凄い」
ルーシャも転移の魔術を使えるが、島の外まで転移できる自信はなかった。彼女は相当の魔力量と技術があるのだろう。
「なに、君も特訓すれば出来るようになるよ。魔術師になったんだ、許可をとって共和国まで転移するといい。ああそうだ、これは魔術師の証明書と魔術師承認のメダルだ。受けとってくれ」
「ありがとうございます」
ルーシャは証明書とメダルを受け取る。メダルは金で出来ており、ずっしりと重かった。
「まあ、悪魔から紋様を刻まれた時点で君はもう魔術師なんだが、一応共和国もこういうものをくれるんだ……売るんじゃないぞ?」
「……売りませんよ」
「そうか? 私は売ろうとして仲間に止められたもんだが……」
「……」
そんな話をしていると、クオセルが二階から駆け下りてくる。ユーネルの魔力を感じ取ったのかもしれない
「……まさか」
ユーネルの姿を見て、驚いたようにクオセルは呟く。
「あら、クオ。共和国から魔術師のお客様が来ているの」
「……」
「ふふ、久しいなクオセル」
ユーネルはクオセルの姿を見て楽しそうに笑う。一方のクオセルは渋い顔をする。
「……えーと、お知り合い?」
ルーシャの問いにクオセルは頷く。
「……ああ。俺の師匠だ」
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「師匠? ユーネルさんがあなたの魔術のお師匠様?」
ルーシャは驚く。話には聞いていたが、もう少し年配の男性をイメージしていた。
「そう。共和国は魔術師の使いを寄越してくるとは思ったけど、まさか師匠が来るとは……」
「なんだクオセル。私に会えて嬉しくはないのか?」
揶揄うようにユーネルは言う。
「別に……ビックリしただけだよ」
「私は嬉しいぞ。クオセルの弟子が魔術師になったと聞いて」
「ルーシャは俺の弟子じゃないよ」
「ふふ、そうなのか?」
「でも、私は彼から色々教えてもらったのは事実です」
実際、この短い期間でルーシャはクオセルから様々な魔術に関する知識を教えてもらった。師匠といっても良いかもしれない。
「ルーシャが魔術師になったのは彼女の実力だよ」
クオセルはそう言って、自分も応接間の席に座った。メリサもやってきて、三人分の紅茶を入れる。
「すまないね、メイドさん」
「いえ、お客様をおもてなしするのがメイドの務めですので」
そう言って、メリサは一礼し話の邪魔にならぬようメイド室に戻っていった。
「それで、師匠は共和国から何を言われて来たの?」
「ああ、そのことだが。ルーシャ、君は駆動巨人のパイロットになりたいとは思わないか?」
ユーネルはルーシャの方を向いてそう言った。




