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第17話 紋様

 屋敷に帰った後、今日の出来事をルーシャは父フルドに説明する。


「本当に魔術師になるつもりなのか……」


 フルドは心配そうに言った。


「ええ、あの悪魔、ゼルナスは私を魔術師にしてくれるって言ったわ」

「悪魔に騙されているとかはないんだな……」

「ま、悪魔は狡猾ではあるけど、嘘はつかないよ。とくに契約に関してはね」

「……」


 魔術師として悪魔と関りを持ってきたクオセルの言葉に、フルドは押し黙る。


「私も魔術師になって駆動巨人を操縦したい。この島のために戦いたいの……」

「それはお前がやらなければならない事なのか? クオセル様もいることだし」

「クオにだけ危険なことを押し付けたくはない。ノイドである私たちもこの島を守らなきゃ」


 ルーシャの決意は固かった。


「うーん、駆動巨人を手に入れるには高い対価がいるわけだし、それについては後で考えればいい。この家が裕福と言っても、駆動巨人を手に入れるには共和国の協力が必要不可欠だろうしね。個人で決められる話でもない」

「……そこは話をつけなければならないわね」

「だから、今は魔術師になるかどうかだけ考えよう。魔術師になるだけなら、対価は別にいらないしね」


 魔術師となるには悪魔に認められさえすればよい。認められ、身体にその証となる『紋様』が刻まれれば、魔術陣を通して悪魔の世界に出入り出来るようになる。


「クオセル様、魔術師になるデメリットはないのですか?」

「そうだな。魔術師になるってのは魔力が高い優秀な人材というわけだから、共和国に目をつけられて色々面倒ではあるかもね。特に駆動巨人のパイロットになることを強く勧められるかもしれない。まあ、断ることは出来るけど、勧誘はしつこいかも」

「共和国本土に呼ばれたりなどは?」

「ノイド出身者は島に残るか共和国本土に行くか選べるはずだよ。ルーシャの意思次第。仮に本土に行っても、許可さえとれば島に戻ってくることも出来たんじゃないかな」


 ノイドはセルド島から出れないが、魔術師になればそれは別だった。


「そこら辺も魔術師になってから総督府に行って交渉してみましょう。とりあえず、魔術師になるのは確定でいいわよね?」

「まあ、ルーシャは魔術師になりたがっていたわけだから、それに関しては私も許可したい。ただし、駆動巨人のパイロットになることは少し待ってくれ……」

「分かった。そのことは後で考えましょう」


 父の言葉にルーシャは嬉しそうに微笑む。


「それで、ゼルナスって悪魔についてはクオは何か知っている?」

「いや、知らないな。悪魔もいっぱいいるしね…… 俺を魔術師にしたのは別の悪魔」

「そうなんだ……」


 それからルーシャは父と色々話し合った結果、魔術師になることは承認されたのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その翌日、ルーシャがクオセルと屋敷の外に出ると、庭に青い仮面に青いフード付きのローブを纏った小柄な人物が立っていた。


「やあ、魔術師になる決心はついた?」


 その人物は少年のような口調と声色で言う。


「……その声。あなた、ゼルナスね」

「そうだよ。で、どうする?」

「ええ、魔術師になるわ。あなたが紋様を刻んでくれれば、私は魔術師になれるのよね?」


 ルーシャの問いにゼルナスは頷き、ゆっくりとこちらに近づいてきた。


「うん。君は魔術師の証である紋様を身体のどこにいれたい?」

「そう言えば、どこに紋様を入れるか決めてなかったわね…… クオはどこに入れた?」

「背中」

「どうして?」

「あんまり目立つところに入れたくなかったんだよね…… ジロジロ見られるの面倒だし」

「……そういうもん?」


 ルーシャは考えたすえ、右肩に文様を刻んでもらうことにした。


「なんで右肩?」

「タトゥーみたいでおしゃれじゃない?」

「……そうかな?」


 クオセルにはいまいちピンとこなかった。


「じゃあ、入れるよ」

「ちょっと待って…… 心の準備が……」

「待たせても悪いし、早くしたら?」

「……そうね」


 クオセルに言われて、ルーシャは服の腕の部位をめくる。


「じゃあ、いくよ ……あ、色はどうする?」

「……色、決められるのね…… なら、青でお願い」

「了解」


 ゼルナスは右手をルーシャの右肩に近づける。すると、右肩が熱くなるのを感じ、しばらくすると青い丸枠の五芒星の紋様が刻まれる。


「はい、これで君は魔術師だよ……」

「あら、ずいぶん簡単なのね……」

「うん。これで君は悪魔の世界に行くことも出来るし、悪魔と契約することも出来る」


 ルーシャは自分の身体に新しく刻まれた五芒星の紋様を見つめる。この紋様からも魔力のような底知れない力が感じられた。


「じゃあ、僕はこれで帰るよ」

「せっかく来たんだしお茶でも飲まない?」

「……僕たちは食べたり飲んだりしないんだ」

「……そうなのね…… お礼したかったんだけど」

「別にいいよ。魔術師になった君がどんな運命をたどるか、それを見るのが僕の楽しみだしね」


 そう言うと、ゼルナスは姿を消した。


「運命、か…… なんか不吉なこと言ってない?」

「別に。魔術師だってわざわざ危険な事に首を突っ込まなければ平凡な人生を送れるさ。長生きした魔術師だって大勢いるし」

「……そうね」


 ただ、ルーシャの興味は駆動巨人とそのパイロットになることに向いていた。


 

 

 

  


 


 

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