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第16話 市場での戦闘

 角の生えた鎧殻巨人との戦闘から二週間が経った。


 ルーシャの魔術修業は順調で、魔力だけならもはやクオセルに匹敵する。


「ねえ、クオ。私はいつになったら魔術師になれるかしら?」


 ルーシャはクオセルに魔術を教わりながら、そう聞いてみた。魔力は高まっていても、悪魔からの声はいまだかからない。


「どうだろうね…… 魔力量も重要だけど、悪魔が何を人間に求めているかというのは、よく分からないんだよね。まあ、魔力を高めつつ、色々な魔術を学んでいくしかないんじゃない?」

「……はぁ。焦ってはダメということね」

「そう言う事。俺も鎧殻巨人の正体について焦らず探っていくさ」


 ルーシャはクオセルの所有する魔術書を手に取り、それを眺めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日の昼過ぎ、ルーシャはメイドのメリサとともに、セルド島の市場に買い物に来ていた。


「目にするもの全部の値段が高くなった気がするわね……」


 市場に並ぶ品々を見つめてため息をついた。


「ええ、ですから無駄遣いはせずに帰りましょう」

「……そうね。節約は大事よね……」


 そんな会話をしている時だった。ルーシャとメリサの前方、二百バーザ(約六百メートル)程先の地面にいきなり亀裂が走る。その場にいた人々は悲鳴を上げながら、その亀裂に飲み込まれていく。


「お嬢様!」

「何っ!? 地震!?」


 ルーシャが呆気にとられていると、亀裂から青い鎧殻を纏った巨人が姿を現す。体形は人型なれど、両手がはさみの形状になっていた。顔には小さな目と裂けた口があり、後頭部にはサソリの尾を思わせる部位が伸びている。

 

「あれが……鎧殻巨人。逃げましょうメリサ!」

「私のことは構わず、お一人でお逃げください」

「そうはいかないわよ!」


 一人なら転移の魔術を使えるが、メリサを置いてはいけなかった。 


「お嬢様、このままでは追いつかれます! どうか!」

「嫌よ。あなたを絶対見捨てない!」

 

 サソリのような鎧殻巨人は、逃げ惑う人々を睥睨すると、鋏から液体を飛ばした。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「助け……」


 それは溶解液らしく、浴びた人間は煙をあげて一瞬にして溶けていく。


(なんてことを……許せない!)


 ルーシャはメリサと共に逃げながら、恐怖よりも怒りの感情が湧き上がっていた。

 

 鎧殻巨人は浮遊し、さらに逃げ行く人々を襲う。


(私達はこの島に見捨てられて、こんな無残な殺され方をする…… こんなの間違っている)


 不条理に対する怒りと憎しみ。そして、何もできない自分への不甲斐なさがルーシャの心を支配する。


《……ふーん、その怒りと憎しみ、良いじゃん》


 ふと、ルーシャの頭のなかに声が響く。


「あなたは…… 何者」


 戸惑いながらも、ルーシャは声の主に問いかける。


《僕はゼルナス。冥府の悪魔が一柱。君を気に入った…… 魔術師として認めてもいいよ》


「……お嬢様、誰とお話に?」


 ルーシャが一人で喋っているのを見て、メリサは不審がる。


 その時だった、上空に玖狼が姿を現す。そして、鎧殻巨人目掛けて小銃から光弾を放つ。鎧殻巨人は浮遊し、光弾を避ける。


「クオセル様です! あの方が来てくれました!」

「クオ……」


《……まあいいや。後でまた連絡する。じゃあね》


「ちょっと。あなた……」


 しかし、悪魔の声は聞こえなくなった。

 

  空中で玖狼と鎧殻巨人は激しい戦闘を繰り広げていた。鎧殻巨人は溶解液を飛ばすが、玖狼は軽々避けると光弾をさらに放つ。


 青い閃光が左の鋏に直撃し、鋏が吹き飛ぶ。


『おのれ、駆動巨人…… 我の狩りを邪魔するな!』


 鎧殻巨人はそう叫ぶと頭部のサソリの尾からも毒液を放つ。玖狼はそれも回避すると、小銃からの閃光で頭を吹き飛ばす。


「やった!」


 地上からその様子を見ていたルーシャが叫ぶ。


 しかし、頭部を失っても鎧殻巨人は動きを止めず、攻撃を加えてきた。


「嘘でしょ……」


 ルーシャは驚く。顔を失っても玖狼の位置を把握しているようで、玖狼を追いながら、溶解液を放出する。


 玖狼は冷静に鎧殻巨人と距離をとると、胸に狙いを定める。そして、チャージで威力を高めた閃光がその胸を撃ち抜いた。


 さすがに胸に風穴が空いた鎧殻巨人は動きを停止し、次の瞬間には身体から炎があがる。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その後、クオセル達は怪我人の救助などを行い、それがすべて終わったころには日が暮れていた。


「クオ、お疲れ様」

「まさか…… あんた達が来ているとは思わなかったよ」

「こんな島の中心部に近い所にも敵は現れるのね……」


 今回の襲撃で大勢の死傷者が出た。ルーシャはそれが悔しくてたまらない。


「今まではわりと海沿いだったからね…… これからは島のどこに現れてもおかしくないかも」

「……ねえ、クオ。私、ゼルナスって悪魔から声をかけられたの。魔術師として認めてもいいと」

「……何だって?」


 クオセルは驚く。


「私、魔術師になりたい。そして、クオから足手まといと言われても、駆動巨人のパイロットとして、殺された人たちの仇を討ちたいの……」

「……」

「だから、私は悪魔と契約をする」


 ルーシャは決意を改めて強く固める。


「……声が聞こえたなら、後はあんた次第だ。俺に止める権利はない。ただ、親父さんとはよく相談しな」

「分かってるわ。父にも納得してもらう」


 そう言って、彼らは帰路についた。

 

 





 


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