第14話 対重装甲小銃
クオセルが島に来てから六週間がたった。
今日も鎧殻巨類の反応があったので、玖狼に乗って沿岸部へ向かう。
沿岸部を横歩きで移動していたのは、蟹型の鎧殻巨類・リキャンスであり、それも一体ではなく三体いる。
強固な錆色の鎧殻を持つこのリキャンスなら、新しく手に入れた対重装甲小銃の威力を試すにはもってこいだ。そう思い、玖狼の右手に対重装甲小銃を生成する。
土埃色のカラーリングで、銃身部分は黒い小銃をグアニスに向け、上空で構える。
まずはチャージせず、通常モードで撃つ。太めの青い閃光が銃口から発射された。片腕で扱えるが、なかなかの反動が玖狼の腕に伝わる。
閃光はまっすぐとリキャンスに向かって行き、その鎧殻を易々と貫く。
「うん、威力は申し分ないね」
そう思い、さらにエネルギーをチャージして、対重装甲小銃を両手で構える。銃口に青い球体状のエネルギーが集まる。そして、チャージが完了した所で、引き金を引く。
球体状のエネルギーは螺旋状の閃光に変わり、凄まじい速度で二体のリキャンスの身体を同時にバラバラにした。
「……たしかにこれなら鎧殻巨人も怖くないかもね……」
頼もしい新兵器を手にいれ、クオセルは上機嫌だった。
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屋敷の庭園にて、リーシャは地面に目を閉じて座り、魔力量を向上させるトレーニングをしていた。
感覚を研ぎ澄まし、大気中のマナを身体にとりこんでいく。マナを多く使えるようになれば、おのずと魔力量も上がってくるのだが、これがなかなか難しい。
それでも今日はすでに一時間以上、このトレーニングを続けていた。
すると、玖狼に乗ってクオセルが帰ってくる。
ルーシャは立ち上がり、クオセルの許に向かう。
「おつかれ、クオ」
「ただいま」
そう言うと、コックピットから浮遊の魔術を使い、地上に降りる。
「また魔力量を増やすトレーニングをしていたんだ」
「ええ、頑張ってるわ」
「たしかに、以前より魔力量が増しているね……」
「ほんと? 私もそうだと思ってたの!」
彼女は嬉しそうに言う。
「魔術師になれる日も近いかしらね……」
「……それは、どうだろうね」
「でも、魔術師になってはやく駆動巨人を手に入れなければ。クオにだけ戦いを任せてはおけないもの」
「やっぱり君はパイロットを目指しているの?」
「ええ、そうよ」
この前も彼女はそんなことを言っていた。
「どうしたの? 自分の生まれ故郷は自分で守りたいじゃない」
「危険だよ…… それに乗りこなすには訓練も必要だし」
「そこはクオが教えてくれればいいでしょ? クオも味方が増えたら嬉しいんじゃない?」
クオセルの心境は複雑だった。確かに他の駆動巨人のサポートは欲しいところだが、彼女を戦闘に巻き込むのは何故だか気が引ける。
「別に、俺を心配しなくてもいいよ。かえって足手まといが増えて、迷惑かもしれないし……」
「……もう! そんな言い方しなくても良いじゃない。クオの馬鹿!」
彼女はクオセルの言い方の腹が立ったのか、屋敷の方へ走っていった。
「……今のはいけませんねクオセル様」
庭園の木陰からメリサがひょいと姿を現す。
「……見てたのか」
「ええ、ばっちり」
彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「……たしかに、言いすぎたかもね。でも、彼女はパイロットにならない方がいいよ。どれだけ危険かわかっていないんだ」
「なるほど、心配なさっているのですね」
「……心配か。まあ、この家には色々お世話になっているしね」
「今日はやけに素直ですね。ただ、お嬢様は一度決めたことを簡単には曲げませんよ」
メリサはそのブルーの瞳で、クオセルをまっすぐ見つめる。
「それに、お嬢様なりに覚悟をもっているのだと思います。もう少し、言葉を選んだ方がよろしいですよ」
「メリサさんがが正しいね。でも、あんたは、ルーシャがパイロットになることを賛成なの?」
「私としてもお嬢様に危険なことはしてほしくありませんが、それがお嬢様の意思であれば、メイドの私ごときが口を挟めません」
「……そう、まあすべては彼女が魔術師になれてからの話だ」
クオセルはルーシャに少し言い過ぎたと反省しつつ、屋敷に戻るのだった。




