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第11話 思惑

 戦闘が終わった後、クオセルは今日の戦闘の報告書をセルド島総督府に提出し、翌日には実際に総督府に足を運んだ。もちろん、鎧殻巨人という未知の生命体について話をするためである。


 応接間で散々待たされた後、総督室に呼ばれた。総督室にはこの島に来た初日に訪れたことがあるが、相変わらず豪華な建物だった。


「いや、待たせてすまないねクオセル殿」


セルド総督は五十代ぐらいの禿頭とくとうの男性で、ちょび髭が印象的である。


「別に。それより昨日提出した報告書に書いた通り、鎧殻巨人のことについてですが……」

「ああ、報告を読んで驚いたよ。我々としても鎧殻巨人なる存在は聞いたことがない。ウーシェオ帝国の駆動巨人を見間違えたとか、そんなことはないのかね?」


 ウーシェオの駆動巨人は確かに共和国の駆動巨人と異なるデザインをしているが、昨日戦った鎧殻巨人程生物的ではない。


「玖狼に戦闘データが残ってますが、明らかに人型の鎧殻巨類という感じでした。まあ、あれが鎧殻巨類をもとにして製造された、ウーシェオの新型生物兵器ではないとは言い切れませんけど…… そんな情報はないでしょう?」

「うーむ、たしかにな。この件は昨日、すぐに共和国本土に報告したんだが、本国も何も知らんと言う。ただ、引き続き、君に調査をお願いしたいとの事だ」

「鎧殻巨人は強敵です。昨日の報告書でも、もう少し駆動巨人とパイロットを送ってくれと要請しましたが、それはどうなりました?」


 駆動巨人は玖狼に乗ったクオセルに匹敵する戦闘力を有していた。もし複数体で来られたら、それこそ厄介だ。


「残念ながら、共和国も貴重な駆動巨人と魔術師をこの島に割く余裕が無いらしい。当分は君一人で何とかしてくれということだ……」


 その言葉にクオセルは呆れる。確かに駆動巨人やそれを扱える魔術師は特殊な存在とはいえ、数機ぐらい派遣する余裕はさすがにあるだろう。


「いくら貴重とはいえ、もう一機くらいは派遣してくれても良いでしょう…… 共和国としても、島に人死にが出れば、税収だって減るでしょうに……」

「ウーシェオとの緊張関係が解消されない以上、これ以上の戦力を送れないというのが上の考えだ」

「それも、戦争が始まれば島から呼び戻せば良いだけでは? 貴重な駆動巨人をセルド島で失うことの方が損失が大きい。この前のルード・フェインなんて、見殺しにさせたようなものだ……」


 クオセルの前任としてこの島を守っていたルード・フェインは、魔術師としての技量は消して高くなかったようで、その緑の駆動巨人のスペックも低かった。それなのに共和国は彼一人に島の防衛を任せ、彼が死ぬまで戦力の増強を行わなかった。


「私も今まで何度も駆動巨人の増強を要請したのだが、こればかりはどうにもならん…… 上は我々には隠しているようだが、何か思惑があるようだ……」

「思惑?」

「私にも詳しい事は分からんし、これ以上は何も言えん。ただ、共和国本土がこうも頑なな以上、今は君だけが頼りだ…… どうかここは堪えてくれ」


 そう言って、総督は頭を下げる。


「はぁ…… 俺も共和国に逆らえる立場じゃないから仕方ないですが…… でも納得はできません」

「私も引き続き増援を要請してみる。だから、今日の所はこれで帰ってくれないか……」

「……分かりました。あなた方に言ってもどうにもならないようですし……」


 不満はあったが、クオセルは総督府を後にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ノイドに対する差別意識で駆動巨人を送らないのか…… しかしそれでも……」


 クオセルは自室のベッドに横になりながら呟く。共和国にはわざわざノイドを島に送らずとも、ウーシェオ帝国のように生まれてすぐ殺してしまえと言う過激派もいる。

 また、この島の人口が増え、こっそり海を渡ってノイドが共和国本土に逃げることを懸念する勢力も存在した。

 

(共和国はノイドの数を減らしたくて、俺以外に魔術師を派遣しないのだろうか……)


 それはさすがに考えすぎだと思ったが、共和国の思惑が何なのか、クオセルは気になっていた。


 そんなことを考えていると、部屋の戸をノックして、ルーシャが入ってきた。


「あら、何か思いつめた顔してるけど、考え事?」

「ま、そんなとこ」

「悩みがあったら聞くわよ?」

「悪いけど、あんたに言ってもしかたないことだよ……」


 こんな内容を彼女に言えるはずもなかった。


「もう…… まあいいわ。魔術に関して質問があるんだけど」

「何? 聞くよ」

「……今日は嫌がらないのね…… 意外」

「……別に、気まぐれだよ」


 共和国が頼りにならない以上、この島は彼女のような魔術を使える島民が魔術師となり、自ら駆動巨人に乗って守っていくしかないだろう。クオセルは一瞬そう考えた。しかし、彼女を駆動巨人のパイロットとして戦いに巻き込むのはどうなのかという思いも浮かぶ。


「難しいな……」

「うん? 何が?」

「何でもないよ……」


 クオセルの心は複雑だった。


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