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第9話 キャノン

 鎧殻巨類は普段は海か地中に潜んでいると言われている。


 クオセルは共和国の首都セレイズの生まれだが、セレイズでは一回も鎧殻巨類を見たことがなかった。


 そもそも共和国の内陸部には鎧殻巨類がほとんど現れない。それは内陸部に到達する前に駆動巨人が殲滅するというのもあるのだが、大陸に現れる鎧殻巨類の数自体が少ないのだ。


 一方、セルド島は小さな島なので、四方を海に囲まれており、だから鎧殻巨類の襲来が多いと言う。しかし、それにしても出現率は異常である。


(この島はもとから地中に鎧殻巨類が多く潜んでいる土地なのか、駆動巨人が少ないから奴らが頻繁に襲いに来るのか……)


 そんなことを考えながら、玖狼に乗り、現場に向かう。クオセルは探知魔術を常時発動することで、鎧殻巨類の出現を知ることが出来る。今日も島の沿岸部の方に鎧殻巨類が現れたことを魔力で感じとった。


 この島の沿岸部は海からの鎧殻巨類の出現が多く、人はあまり住んでいないので戦いやすくはあった。


 今回の敵は錆色の蟹のような鎧殻巨類で、過去の記録によると名前はリキャンスらしい。

 クオセルはこの島に派遣される前に、共和国にかつて出現した鎧殻巨兵の名前と容姿、そして弱点などをすべて頭に叩き込んできた。面倒くさがりな彼ではあったが、そういう準備は入念にやるタイプだった。


「一体だけか…… なら、キャノンを使うか」


 リキャンスの鎧殻が強固なことは過去の資料からも明らかなので、最大火力をもつキャノンを生成する。


 これは、巨大な円柱状の抱え大砲で、先端の砲口から強力な粒子砲を放つことが出来るのだった。


 ただ、エネルギーチャージに時間がかかり、一度使用すると一週間は新たに生成できないという代物で、今まで使用は慎重にしてきた。また、空中では反動が大きくて使えず、地上でなければ使えないなど、色々と条件が多い。


 玖狼はキャノンを機体の右脇にかかえて、右手の指でボタンを押し、エネルギーをチャージする。そして、チャージが完了すると、地上に降り立つ。


 リキャンスは蟹のごとく横歩きでこちらに迫ってくるが、焦りはしない。


 機体の重力を操作するコアで、機体全体に重量をかけた後、リキャンスに狙えを定める。そして、十分に引き付けたところで、指をボタンから離した。


 すると、青色の粒子の奔流が砲口から放出され、リキャンスの強固な鎧殻の激突する。あまりの威力の前に、リキャンスの鎧殻は一瞬で蒸発し、跡形もなくなる。それだけではとどまらず、粒子の奔流は、はるか海目掛けて真っ直ぐに向かっていったのだった。


「威力は高いけど、場所は選ぶし、色々欠点があるんだよな……」


 そう思いながら、他に鎧殻巨類がいないか確認したあと、島の中央部に引き返す。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ねえクオ、この記述ってどういうこと?」


 最近、ルーシャはクオセルから魔術の勉強を教えてもらっている。教材は緑の駆動巨人のパイロットだったルード・フェインより、生前に譲り受けたものを使っている。


 クオセルは最初は面倒くさがっていたが、最近は仕方なく勉強に付き合ってくれるようになった。


「ようは、大気中のマナを効率的に身体にとりこめってこと」

「どうやって?」

「うーん、前も言ったけど、俺は感覚派だからね……」


 クオセルは言語化してそれを人に教えるというのが苦手なタチだった。

 

「まあ、マナをうまく感じ取って、それを身体と一体にさせるというか…… そんな感じ?」

「難しいわね……」

「でも初めて会った時より魔力が上がっているように感じるよ」

「ほんと!?」

「そうやって、少しずつ魔力をあげていけば、悪魔と通信出来るようになるよ……」

 

 悪魔と通信しコンタクトをとり、そこから契約の儀式するか、悪魔から『印』を貰えれば、共和国では魔術師と認められる。


「わかったわ。私、頑張るから……」


 彼女は俄然やる気が出てきているようだった。たしかにルーシャにはかなりの才能があるとクオセルは思っていた。ノイドの生まれながら、共和国本土の一般人をはるかに超える魔力量を有している。

 彼女なら、魔術師になれる可能性は十分にある。


「この島であんたみたいにノイドの生まれでありながら、魔力のある人間はいないの?」

「うーん、ルードは死んじゃったし…… 後は、ちょっとした治癒が出来る人ならいるわ。でも、彼女はあまり魔力は高くないみたい。他は…… 私が知らないだけでいるかもしれないけど、どうだろう?」

「まあ、ノイドから魔力を持つ者が生まれるのは珍しいからね……」


 ノイドでありながら、魔術を持つ者。それが先祖返りなのかなんなのか、クオセルにも詳しいことは分からなかった。


「あ、でもルード以前に魔術師になった人ならいるわよ。今から十年前にね。名前はレオナ・カーリスっていう人」

「レオナ・カーリス…… どっかで聞いたような、聞かなかったような……」

「どっちなのよ…… で、その人は共和国本土で駆動巨人のパイロットをやっているらしいわ。あなたの同僚じゃないの?」

「パイロットは大勢いるし、配置先も違うしね……」


 魔術師になり島から出た成功例がいるとなると、ルーシャがそれに憧れるのも無理ないなと、クオセルは思った。

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