表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編小説集

千の涙を越えて〜時を廻る聖女の卒業決戦〜

作者: 卯月 幾哉

 十年前の、唯一の心残りを解決するため、私は秘宝を使った。



    †



「――待っていたわ」

「ウル! なぜここに!」


 学園から森一つ(へだ)てた山奥。

 ここは今、私と彼の二人きりだ。


「今日は卒業式なのに、勝手に学園を抜け出して」

「……それは、君もだろう」


 学園――それは、勇者と聖女を育成する国の施設だ。


「帰ってくれ。君を巻き込みたくない」

「――魔王因子」

「なぜそれを!?」


 私が発した単語に、彼が顔色を変える。


貴方(あなた)から聞いたわ」

(うそ)だ! 僕は誰にも話してない」

「ええ。今回(・・)まだ(・・)

「?」


 かつて魔王が人類に埋め込んだ因子は、(およ)そ千人に一人の身に潜伏している。ほとんどは発現せずに一生を終えるが、(まれ)に彼のように傑出(けっしゅつ)した能力の者が現れる。

 彼は今日、勇者候補の首席として学園を卒業するはずだった。


「ウッ、駄目だ! これ以上は……」


 苦鳴(くめい)()らし、彼は腰に()いた剣を引き抜く。


 ――何度、ここで自死を許してきたことか。


 彼が勢いよく心臓を(つらぬ)こうとした切先(きっさき)は、寸前で停止した。


「これは……結界!? ウル、君がこれを?」

「ええ。自殺なんてさせないわ」

「いつの間にそんな力を……」


 防御結界は聖女の得意魔法の一つだ。

 だが、これほど精密な結界を瞬時に築けるのは、私ぐらいだろう。

 彼が驚くのも無理はない。本来、当時の私(・・・・)には絶対に無理な芸当だから。


「グアァッ! 抑えラれなイッ! ウル、逃ゲロ……」


 (さけ)ぶ彼の体が黒く変色し、ボコボコと肉が盛り上がって変形していく。

 因子の暴走。彼はこれから最悪の魔王に成り果てる。

 それがわかっていたから、彼はここで誰にも知られずに果てる道を選んだ。


 ――私がそれを知ったのは、五回目のやり直しのときだった。


 逃げろ? ――馬鹿を言うな。

 私はこのために十年の時を越えて帰って来たのだ。


 万年最下位の聖女候補だった私をいつも助けてくれた、貴方と共に学園を卒業するため。


 杖を振る――刹那(せつな)、山一つ(おお)う魔法陣が発動する。


 今回、徹夜で準備した大作だ。

 学園を卒業した後、救国の聖女として大成(たいせい)した私の全身全霊を注ぎ込んだ。


『グオオオォォォッッ!!』


 異形の魔獣と化した彼が咆哮(ほうこう)を上げる。

 ――この力、私が八年後に退(しりぞ)けたアイツよりも(はる)かに上!


 負けてたまるか。

 絶対に彼を――シファを取り戻すんだ。


「こなくそおぉーーーッッ!!」


 時廻(ときめぐ)りの秘宝の力で十年後の未来から帰って来た私は、この同じ一両日を千回繰り返した。


 そして――



    †



「ウル、卒業おめでとう」

「――ええ。シファもね」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ