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5話

「カール・シュミット」はその名の通り鍛冶屋である

彼は今日も何時いつものように炭を作るべく材木片の束を抱え

薪割まきわりの台に近づいた、何やら風切りの音がする

ふと、空を見上げようとした、その時


何かが土塀の脇に落着した


「ズボボボボボボボボーーーーーんッ」


轟音ごうおん、土煙が上がる、その奥に何かが見える、足である

地面に人がぶっ刺さり、足が上に突き出しているのである


「わあーッ」


彼は驚愕のあまりに尻もちをついた

その時には既にして、その”人”は逆立ち歩きのていにして

両の手でって、ひょいっと穴から抜け出すと一回転

土塀の側に立つ


妙な格好の老人である、ぱたぱたと服を叩いて土を落とす

シュミットはようやくに忘我のていを脱し

どうにか立ち上がりて「あっあの」と抑揚の乱れた声を発しようとすると

先に老人がすらすらとしゃべり始めた


「いや、これは失敬、驚かせてしまいましたかな

実は城外にて竜巻に会ってしまいましてな

ここまで飛ばされてきた、と言う次第なのじゃ」


シュミットは「そんな阿保あほうな」と思いながらも

これは口に出さず、回らぬ頭をどうにか回して


「お、お怪我はありませぬか」

と言う


老人は

「いや、心配には及びませぬ

こう見えて、少々丈夫に出来ていましてな

では、これにて失礼」


こう並びたてると

何もかも得心のいかぬ顔にて立ち尽くすその中年を後にして

魔王はすたすたと街路に入っていった


広い通りである、建物は幾段いくだんもの層を成している

人間、ゴブリン、ブレムミュアエの行き交いはにぎわしく

家も店も何もかもが新しい

ここは美しい町である、これ程のものは、かつて見たことが無い

当世の町はみな、この様であるのか

魔王城に蟄居ちっきょしてよりいく千年、人の世は随分と様変わりしたのやもしれぬ


何といっても賛嘆の至りなるは”水車”というものである

これは幾条いくじょうもの木の板を中央の軸から外側へと並べ

水の流れにぐるぐる回すものであって

軸の回転の力を用いて小麦をき、その他、色々に用いるものである


昔日せきじつ、人は随分と苦闘して小麦を粉にしていたものだが

斯様かような工夫によって、それを克服しているのだ


「こいつは、すげぇもんですなぁ」

何時いつの間にやらかたわらには利吉がいる


魔王が言った

「魔王城では小麦は食しないが、これが有れば

色々助けになるに違いない、良いものを知ったものだ」


利吉が言った

「早速、魔王城に帰って、こいつの試作にかかりましょう」


魔王が言った

「この分であれば他にも色々と良いものが有るに違いない

諸国を(めぐ)り、見分を広げてから帰るのも遅くはない」


一行は街角から街角へと見て回る、そして日が暮れる

魔王にも利吉にも、夜もなければ休みもない

とは言え深閑と、町が静まる頃合いに、人の姿であっても

歩き回るのは目立つ


「利吉どん、かにに化けて、聞き耳を立てるのじゃ」


利吉が言った

「合点どす」


その姿が見る間に小さなかにへと変わり、横歩きにて

すいーっと建物へ上ってゆく


魔王はと言うと町の中央に流れる川へと歩いてゆき

石壁で固められた縁に来て、そのまま、すとんと落下した

無論、魔王には呼吸はいらぬ


水中や泥中に沈殿して待ち伏せる、と言うのは

昔日せきじつ、人と争った折に魔王がよく使っていた手でもある


深更しんこうには川底にあって、日中には町を探索する

これを続ける事、数日間、随分と町の事もわかってきた


何といっても、興趣をそそられるのは”冒険者ギルド”なる建物である

そこには終日、人の出入りの途切れる事がない

その多くは”冒険者”という者たちで

その恰好、風体と言うものが何処(どこ)となく

かつて魔王の争った”勇者”なる者たちに似ているのである


聞けば、この者たちは諸国をめぐり、色々と荒事を請け負って

生計を立てているのだという

そして、この”ギルド”というものは、彼らが依頼を融通しあい

入用な技能を持った者を探し出し、時には結束して

数をたのみに王やら貴族やらの大立者に要求を飲ませるものであるようだ


この中にまぎれ込むならば旅路のわずらいも随分と少なくなる事であろう


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