4話
一行が道の脇の山林に姿を隠し”門”の様子を伺うと
4、5人ばかりが前にある、いずれも両の手に棒のようなものを持っている
あれは守衛であろう
何時の間にやら往来にも人があり、何人かが守衛に何かを見せ
何かを話しては門の内へ消えてゆく
利吉がその”マジ耳聡い”の術を以って、聞き取った所によると
”証”なるものが必要であるらしい
「これは困ったぞ」
この頃には魔王は”人畜無害の術”を以って、人間界を逍遥し
いろいろ知見を深めようとの心持になっていた
かつての趣味の味を思い出したのである
しかし、それも一瞬の事であったようである
「こうなっては仕方ない、皆殺しにしよう」
魔王が何やら奇怪な術を用いると、虚空より何かが出現した
それは黄色くてピヨピヨ言っている、鶏である
この”鶏”と言うのは魔王城に住み着く恐るべき怪物であって
右に菜箸、左には油で満たされたる鍋を持ち
人を唐揚げにして回ると言う恐ろしい怪物である
魔王城では鶏が人を唐揚げにするのである
”鶏”がピヨピヨしながら言った
「オオオ恨めしきかな人間ども、今度は私が貴公を
こんがり揚げてくれようぞ」
しかししかし、魔王が門に目を戻すと、馬車がある
いや、馬車である、魔王の知っている馬車とは随分と趣が異なるが
馬車には違いないであろう、馬がそれを牽いている
その馬の随分と大きな事も気にはなるが問題は車輪である
先ず軸があり、そこから放射状に棒が伸びている
それが輪っかを支えている
魔王の知っている”車輪”と言うものは
半円形の板を二枚つなぎ合わせた物であった、そして
あの”車輪”は、それより軽量であるに違いない
そして恐らくは強度もより高いと思われる
「ふむ、あれは興味深い」
ここで魔王は利吉が”蟹さんスイスイー”なる術を
用いる事を思い出す、この術は小さな蟹に変化する術である
魔王が言った
「利吉どん、蟹に化けてあの中を、いろいろ見てくるのじゃ」
利吉が言った
「そげなこたァ必要あーしません
そこいらに大きな木がいっぱい、ございますでしょう
これで石弾きをこさえるだす」
魔王が言った
「なるほど、その手があった」
こうして、魔王は”鶏”をUn召喚すると
利吉にかけた”人畜無害”の術を上半分だけ解除した
下半身が人で上半身が巨大なネズミの頭部と言う、実に胡乱な姿となった
この怪物は、その上体を真横にして大木を次々に齧り倒していく
そして魔王も、その辺の老人然とした風貌に似合わぬ異様なる剛力でもって
木を引き裂き蔓をずりずりと巻き取っていく
たちまち、一基の石弾きが出来上がった
利吉が真上に伸びたアームを横倒しに引き絞る
「よっこらせっと」
魔王がアームの先端に乗っかった
「バンッ」
城壁の上を何かがぴゅーっと横切っていった