3話
こうして魔王は魔王城の外に出た
そこは全く緑である、鬱蒼とした山林が何処までも続く
岩には苔が生している、こうなって随分長いようである
利吉を持って、とてとて歩いていると
正面の木々の隙間に何かが見えた
みっしりと毛に覆われた暗緑色の巨体である
横一文字の大きな口から黄白色の牙が鋭く伸びている
あれはキュクロップスと言うものだ
どしどしと地響きが四周を圧し、木々の枝が大きくしなり
葉や虫やらを舞い散らせる
その奥から咆哮と共に、それがゴゥと踊り出した
その顔の中央の一つの大きな目が魔王を捉えると
それは一瞬、キュッと縮み、静止した
数舜の間、両者は相対した
そして、突如、それは反対方向に体を捩ると一目散に遁走したのである
さて、この密林には竜やら巨人やら、いろいろ怪物が住み着いているようであるが
皆、魔王を認めると一様に狂乱の態となり、逃げ散るばかりである
これは全く暖簾に腕押しと言うもので、張り合いがない事、夥しい
「ううむ、どうも面白くないぞ」
いったいに魔王と言うものは他者をぶち殺す事をこそ何よりの楽しみに出来ている
しかして、この怪物が顕現してより幾億年
その恐ろしさは此の地の尽くに知れ渡り
その姿を見て逃げ出さぬ者は今となっては皆無である
「そうだ、人畜無害の術を使おう」
”人畜無害の術”と言うのは魔王の繰る恐るべき魔術の一つであって
対象の外見を人畜無害なその辺の人に変えてしまうものである
曩時、魔王はしばしば此の術を用いて勇者一行や討伐隊に
紛れ込むことを趣味としていた、その結果は諸兄のお察しの通り
疑心暗鬼の種を撒き散らして相争う惨劇を出来し
その凄惨さたるや涙無くしては見られぬ様相を呈したのであるが
かの魔王は、その様を見て呵々大笑していたのだから
その稟性の程が知れようと言うものだ
とあれ魔王が自身に此の術をかけると
その姿がビヨンと縮みて人の形を成し、その上にペッタンと人の皮がへばり付く
そこに立っているのは何処の村の風景にも溶け込みそうな老人なのである
そして、傍らには何かが聳え立っている
利吉である
この魔人、”利吉”と言うのは
外見が細長いネズミである、その長い事、長い事、長細い事はまるで
妖術でもって物干しの棒を繰り伸ばして繰り伸ばして
天空を突かんばかりと言った所である
「ううむ、これでは目立ちすぎる」
そこで利吉にも前述の術を掛けると
そこには丁度、今の魔王と同じくらいの背丈の
ネズミのような顔の男が立っている
かくして、袴姿の老人と丹前を着こんだ中年と化した、この一行は
森を抜け山を抜け・・・・・・・・
やけに草木の少ない帯状の空間に出くわした
利吉が言った
「魔王どん、こりゃあ人の開いた道に違いありゃあしませんぜ」
「そのようじゃ、この先には人がいるに違いない」
そのまま”道”を進んでいくと、その先に
壁があり、塔があり、門と思しきものがある
あれぞ人境であろう