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2話

まったく、私は今まで何を考えていたのか

こんな、こんまい城で暇を潰すことばかり頭にあった

なんといっても世界は広いのだ

冒険すれば、いいじゃないか


魔王が城を出ると言うと

側近の魔人が言った


「魔王様はこの城の主であらせられます」

「あなた様がいなくなったら一体誰がこの城を

守るのです、誰がこの城を切り盛りしていくのです?」


魔王が言った

「では聞くが、私が百年、二百年いなくなったとして

この城に何か不足が生じることが、あるだろうか?」

「ほんの少しでも、あるだろうか?」


「・・・・・・・・・・」

魔人は答えられなかった


さて、出立となれば先ずは戸締りである

魔王は部屋の諸々に封印をほどこすと

城の東の曲輪に来た


そこは草であった


壁も屋敷も何もかも草がおおいつくしている

山羊や羊といった怪物が寝そべっている

魔王はプチッと来るものを覚えた

「これでは迅速な移動のさまたげとなるではないか」


魔王はその絶対的な力をってして

草をってってりつくし

一つに丸めて城の隅に積み上げた


「うむ、これでよし」


さて、屋敷の中である、奥に白い物がある

ごく狭い押入れから、布団や枕があふれだしているのである

ここに住み着くアルパカやリャマといった怪物たちが

日の出と共に起き出した後、乱雑に投げ込んで農作業に行ったのに違いない


魔王は布団をたたみ始めた

一つを三つ折りにすると、もう一つを三つ折りに折りたたみて

部屋の隅に歩いて行き、置いた

そして、戻ってくると、先ほど折りたたんだ物を持って

部屋の隅に歩いて行き、置いた布団の上に置いた

もう一つの布団も折りたたみて部屋の隅に歩いていき

置いた布団の上に置いた

ある物は折りたたみ、ある物はくるくると丸めて

積み上げて、隙間に枕を押し込むと

たちまのうちにMinimumなCubeが出来上がった


「うむ、Compactだ」


触手を一閃いっせん、チョイッと押すと

それはするりんと押入れの中におさまった


「うむ、これでよし」


魔王は屋敷の前に、城に住み着く者たちを集めた


スズメの鳴く田んぼのあちらこちらに

牛や豚、山羊に羊、アルパカにリャマといった怪物たち

利吉やメドゥーサといった魔人たちが集まった


山羊はあくびをし、アルパカは体を伸ばしている


魔王が言った

「神も恐れおののく天下無双、絶対無敵

超最強の魔王の命じるところを心せよ!」


牛が人参をかじ

メドゥーサが焚火たきびの前でしいたけをあぶっている


魔王が続けた

「起きたら布団はたたみて片付け、また

天気の良い日は外に干せ

朝食の後、食器とカトラリーは清流をって洗い

常に清潔を保て

城内の草は定期的に食し、伸びすぎないようにせよ!」


「ぁーぃ」

了解の声が上がった


魔人と怪物たちは戻っていった


そういえば、東の曲輪くるわに来たのは宝物庫に寄るためでもあった

何か武器でも持っていこう


部屋の前に誰かがいる

警備の任にある★るしふぁー★である

扉の前で胡坐こざをかき

猪口ちょこ徳利とっくりを前にして

どぶろくを、ちびりちびりやっている


「へぇ、魔王どん、ずいぶん久々でっせなァ」


魔王が言った

「宝物庫を開けよ」


「へい」

★るしふぁー★は大儀そうに腰を上げると

その横に放られた小箱を開けて

中から黒いものを取り出し・・・・・


その黒いものが、ぼろぼろ崩れ落ちていくではないか

見ると、小箱もばらばらになって床に散らばっている

すっかり朽ちている


★るしふぁー★があわあわとしはじめた

「こ、これはですね、そのですね、それがですね」


魔王は扉の前に来て、ちょいっと押した

扉が奥に向かって、ばたりと倒れる

たちまちばらばらになって、その欠片かけら端々(はしばし)が崩れている

すっかり朽ちている


魔王はずいと足を踏み入れた

ここは宝物庫のひとつ前の部屋である

壁際に石の鎧がずらりとある

皆、頭を少し下げ、うつむきかげんである

その頭がキィといって、上がった

目のあたりが赤く光っている


そして魔王とみると、また頭が下がって

元のとおりとなった


魔王は扉の前に来て、ちょいと押した


「ぱたり」


まただ


さて、宝物庫の中である

金が光っている、銀も光っている、宝石も光っている

その他は黒である、ちりである、ぼろぼろぐずぐずとなり果てた

鉄やらミスリルやらアダマンタイトの成れの果てである


魔王は振り返った

魔王の肩がプルプル、プルプルとふるえている


★るしふぁー★がびくっとなった


魔王が言った

「これは何だ?」


★るしふぁー★が答えた

「ええと、これはですね、そのですね、ええと」

「大変、年月が経っているわけでありましてですね」

「鉄等は大変酸化しやすいもので、ありましてですね」


魔王が言った

「私の部屋の諸々は崩れていない」

「台所の包丁の中には太古から

使っていないものもあるが、新品同様だ」

「鉄だって、ちゃんと手入れしたら、万年持つものだ」


魔王が★るしふぁー★に指を突きつける

その先から何やら黒いものが、わぁっと噴出する


★るしふぁー★の後ろから

黒い人の形をしたもやが、その手が手に

その足が足に、張り付くようにして

★るしふぁー★に重なった

最強魔法、二人羽織の術である


魔王が命じた

「これから毎日、魔王城に来るスズメの世話をしろい!」


「ひゃあー」


黒い影がぱたぱたいって

それに、無理やり手足を動かされる格好で

★るしふぁー★がどこかに走っていった


さて、こうなっては仕方ない

利吉でも持っていくとしよう


”利吉”と言うのは魔王城に住み着く魔人の一体で

たいそう硬くて重く、また、その長さも魔王の腕には手頃なものである

棍棒代わりに良いだろう

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