青空色の法則『パーチェス』
理はばけねこの少女である。
水色の短めのポニーテールで、服装はこの場になじみにくそうな浴衣だ。肩から茶色のかばんをひとつさげている。猫耳があって、身長はだいたい中学生くらい――ただし、ばけねこの魔法によって猫の姿から変身しているだけの仮の姿だ。
現在は、友達の科といっしょにゲームセンターにいる。
科の髪色は紺色。目は下半分が琥珀色、上半分が紺で、その境目は美しいグラデーションという少し変わった目である。よく似合った紺のジャケットを羽織っている。また身長は百センチちょっとで、理は実年齢を知らないがどう見ても小学生にしか見えない。童顔で、髪の一部がぴょこんと立っているのも小学生らしさを増す要因だ。
クレーンゲームの景品であるすずめのぬいぐるみを抱えた理が、科をゲームの前に引っ張った。
「さー、やるんだ!」
「ええー……?」
少々及び腰だった科だが、無言で見つめてくる理の圧に耐え切れずにコインを入れる。
レバーを動かし、景品のところで手を放す。クレーンはまっすぐ下に降りて行って……見事、小さな箱を景品取り出し口へ落とした。
「おおー! すごい! ちょうだい!」
「だめだよー。これはぼくが捕ったのー」
「どけち……」
ぶつぶつと恨み言を言う理を無視して箱を開ける。その中身はかわいらしいハリネズミのぬいぐるみだ。
次は自分だと科を押しのけてコインを入れた。するとその時、理の鞄の中からスマホのバイブレーションの音が鳴った。
「なんだろ……うわ……」
科がのぞき込むと、スマホの画面にはチャットの画面が映し出されていた。しかもどうやら詐欺らしい。
理は何か決意したように手を握り、頷いた。
「……よし。詐欺師をやっつけよう! でもその前に、今日はいっぱい遊ぶから!」
一週間後。
「うーん、何度来ても綺麗なオフィス!」
「ありがとー」
科は元は凶悪犯罪をそそのかして楽しむ極悪人だった。理からいろいろ言われたので今はやめているが、極悪人だったころにマンションの特に広い一室を購入して自分のオフィスにしていたのである。
また科は極悪人時代に個人情報データベースを持っていたので、それを活用してたぶん良い事をやっている。
「さあ、さっそくこの電話番号を調査して! よろしくね!」
理が見せた画面には、二十数ケタの数字の羅列があった。
「……これ、電話番号じゃなくてこのアプリのアカウント番号だよー。まあ、調べれるけど……うーむどれどれー」
プログラマーもびっくりのタイピング速度をもって、一瞬で数字を入力、科秘蔵の個人情報データベースに検索をかける。四、五秒すると結果が出た。
『名前:法 住所――』
「……ほう?」
「またぼく達みたいな名前だねー。んーと」科がコピーペーストで検索する。「うーむ? フランとか……?」
科が手元のボタンを押すと、コーヒーのコップがベルトコンベアに乗ってやって来た。それを手に取って飲む。
「住所も載ってるし、さっそく会いに行こうかー」
「ん、ちょっと待って!」理がスマホをいじりながら言う。「あと一分待って! あと二キルだから!」
「銃の調子よし!」
データベースに載っていたマンションのそば。
ここは賑やかな場所からかなり外れており、人気も少ない。それをいいことに理は、白昼堂々許可のない銃の点検をしていた。
片方は『パープル・ミックスF』。薄紫色にペイントされたその銃はだいぶ奇妙な形をしている。銃弾の入ったカートリッジを銃身の左右にスライドさせてはめるのだ。さながら鳥の翼のようである。
もう片方は『パープル・ドロップ』。『パープル・ミックスF』と同じように翼があるが、色はわずかに濃い。そして手元にトグルボタンがあり、『実弾』『ガス炸裂弾』『プラスチック弾』『空気砲』の四つのモードを切り替えられる。
「そっちは? ビューンって撃てるハンドキャノンは?」
「銃があれば十分だと思うんだけどなー……」
そういいつつも科も右腕をぶんと振る。ジャケットの袖がカチャカチャと音を立てながら手を覆い、小型の砲になった。これは超高温のレーザーをほぼ無限に撃てる化け物アイテムだ。動力源は太陽光。
空に向けて一発放つと、それで点検を終えて元に戻した。
「さて! じゃあ、えーい!」
インターホンを押す。ピーンポーンとだいぶ長めの音が鳴った。
少しすると、部屋の中から足音が聞こえてきて、一人の若い男の人が出てきた。
「なんだ、ガキは学校行ってる時間だろ」
身長は百八十ほど。艶のある黒髪に、切れ長の目。顔はとても美形で、アイドルグループのメンバーとしてテレビに出ていてもおかしくない。というか二人が知らないだけで出ているかもしれない。服装は無地のシンプルなシャツにトラウザーズだ。
食ってかかる理。
「自分はガキじゃないよっ!」
科はそれをまあまあとなだめつつ、要件を告げる。
「お名前、法律の法って漢字一文字? 読み方はー?」
「そうだ。読み方は『さだめ』――ちょっと待ってろ」
法は部屋の奥へ行った。ごそごそと何かをあさる音と、小動物か何かの軽い足音が聞こえる。すぐにザーッという音が聞こえ、法は戻ってきた。
「詐欺師だよね?」
「違う」
即否定された。理の野生の勘でも、嘘をついている様子は全く感じ取れない。理はマンションでのんびりと生活しているため、あんまりあてにならないが。
「それじゃあ電話かけるバイトを持ってたりするのー?」
「違う。俺は忙しいんだ――」
科が胸ポケットからペンと紙のようなものを取り出し、すらすらと書き込んだ。それを法に渡す。それは小切手で、三千万と記されていた。
法がにやりと笑う。
「おもしれえ。いいぜ、上がれ」
法の家の中はごちゃごちゃしていた。整理整頓はされているが、機械のようなものが大量に置いてある。そしてうさぎがいっぱいいた。科はうさぎたちをなでなでしながら尋ねる。
「詐欺師と何か関係を持ってる?」
「ああ」ご丁寧に法はコーヒーの缶をひとつずつ持ってきてくれた。「俺は暗号化サーバを貸し出す仕事でな。世界各地にある俺のサーバを通して絶対に辿れないようにするのさ」
アナログ人間の理は首をかしげたが、科はなるほどと頷いた。
「いくつかの詐欺グループが俺のサーバを借りてる。メッセージを見ればどれか教えてやるが?」
「じゃあよろしくー」
科に促されてスマホの画面を表示させる。
「これは『アクト・レインティアー』だ。住所も教えてやるが……なんで探してるんだ?」
「ふたりで一緒に遊んでたら詐欺メールが来て。雰囲気をぶち壊されたからやっつけてやろうと」
「ふーん。つまりはデートだったのか」
一気に赤面する二人。
「ちっ……違うよ! そう! 科は友達! 恋人じゃない!」
科も首が取れそうなほど何度も頷く。
「まあどっちでもいいが。ああ、お前ら人外だろ」
「えっ、そっちって人じゃないの?」
理は猫耳がぴこぴこしているからわかりやすかったので科は知っていたが、理は科を人間だと思っていた。
「あれ? 言ってなかったー?」顔が赤いまま、それを紛らわそうとコーヒーを一気にあおる科。「幽霊だよー、幽霊」
そして二人の視線は法へと向かう。
「秘密だ」
「けちー!」
「けちでいいから、気をつけろよ。相手が人間でも自分を過信するのはよくねえぜ」
翌日。
住所は海外だったので、飛行機を科が予約しておいてくれた。もちろん魔法で飛んでいけばいいのだが、せっかくだし楽しもうということだ。
「お待たせ!」
「待ったよー」
あははと笑いながらとても自然に、科と肩を組む。科はツンデレなので形だけ手をのけようとするが、まんざらでもなさそうな顔でそのまま飛行機に乗り込む。これではりっぱなカップルだ。
科はエコノミークラスの席を予約していた。もともと二人は小柄なので、エコノミークラスでも十分である。
飛行機から降りると、理はスマホで地図を開いた。
「歩いて一時間半だね」
入国審査とか面倒だということで、魔法で気配を消しながらささっと街へ出る。
街は国際空港のすぐそばだからだろう、当然賑わっていた。順序が逆かもしれないが。ほかにも、今日が休日だというのもあるかもしれない。
「どうせだし歩いていこうかー」
「うん!」
理がかばんの中からアイスクリームを取り出し、つつみを破る。不思議なことに全くとけていなかった。
科もそれを見て食欲が刺激されたのか、どこからか三色団子を取り出して食べた。きっと幽霊パワーで収納していたのだろう。
気温はおよそ三十五度。理の魔法で周囲は二十度くらいになっているが、科は町行く人の服装と明るい太陽を見るだけで暑い気がしてきた。
「屋台でなんか買っていこうかなー」
ダッシュで科が向かった先は、串刺しにした肉の屋台だった。焼き鳥のようなものだが、日本のそれとは大きさが段違いである。
いつの間に両替していたのか、現地のコインを五枚払う。
理の分も科は買ってくれた。ちょっとかじってみると、とても辛いタレの味がした。
「これと比べたら日本の焼き鳥とか味無いね」
「だねー」
塩分の過剰摂取になりそうな気もするほど味が濃かったが、しかしとてもおいしかったので串一本をあっという間に食べ終わる。串はそのあたりにあったゴミ箱へ捨てた。
「あ、次はあそこの食べよう!」
「ええ……ちょっとぼく、もうお腹いっぱいだよー……」
大量に買い食いをしたため二時間半も経過し、ようやくスマホの道案内が終わりを告げた。
「……ここかー。えーと、四〇七号室だよね」
今度は建物の陰に隠れてから、二丁の銃の点検をする。
「うん、調子最高! 突撃だーっ!」
「……あれれ?」
部屋の中はがらんとしていた。確かに人が生活していたような痕跡があるが……
科がタブレットのように畳んだノートパソコンを操作しながら言う。
「……どうやら、『アクト・レインティアー』は数日前に逮捕されたらしいねー……。メンバーの一人が当局に密告……リーダーは消息不明」
「そんなー……せっかく来たのに……」
肩をがっくりと落とす理。ふたりは、部屋の中から監視カメラがその姿を捕らえていたことに気付かなかった。
* * *
「……」
碧樹サンはディスプレイを見てため息をついた。
黒い天然パーマの髪だが、一部だけ茶色くなっている。
やけに高そうな服を着て、これまた高級そうなゲーミングチェアにどっしりと座っている。目の前にある大きなディスプレイは、これまで『アクト・レインティアー』という詐欺グループの拠点としていたマンションの一室に置いてきた監視カメラの映像を映し出している。
すぐそばにいた幼稚園生ほどの少女――碧樹リラが心配そうな顔を向ける。
「パパ……」
「ああ、リラ……心配ないさ。なんで子供二人がアジトを知っているのかは分からないけど……ここまで辿り着けるわけがない」
サンは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
本当は、サンも不安だ。だが、絶対に警察に捕まるわけにはいかない。
自分がいなくなっても、リラが安定して生活できるまでに成長するまでは――。
* * *
「うーっ」
「頼むから帰ってくれ……」
理は法の家の床に寝転がっている。うさぎたちがその近くにやってきて、理の顔を興味津々な様子で見つめた。
「んー、うさちゃんはかわいいねえ」
茶色いうさぎの背中を優しくなでると、気持ちよさそうに目を細める。まことにかわいらしい。
「いいのか? 詐欺グループのリーダーはまだ捕まってないんだぞ?」
「……よし、こてんぱんにしてやろう!」
理の心の中で消えかかっていた炎が再び勢いを取り戻した。
そのままドアからダッシュで出ていく。
「単純なやつだな……」
「リーダー! やっつけちゃおう!」
「ぼくもう疲れたよー……?」
理が科のオフィスに突撃すると、科はパソコンの画面をさっと切り替えた。
「何か隠した?」
「いっ……いやー、隠してないってー……」
「見たから! 自分、ちゃんと画面が変わるの見たからね! さあ吐け、何をやってたんだっ!」
ビシッと効果音が付きそうなほどきれいに指をさす理。
「ほんとに何もしてない! そう! 次に大金を渡して犯罪を唆す人を探したりしてない!」
「なーるほどー、探してたんだ?」
ぎくっと呟いて硬直する科。
理はその隙にパソコンを調査し、個人情報データベースを所得の低い順に並べているのを発見した。
「……」
無言で『パープル・ミックスF』を取り出し、パソコンに向ける。
「そ、それがなかったらリーダーの居場所も分かんないよー……? ねえ、撃たないよね? ねー?」
「もうしない?」
「しない!」
とたんに笑顔になって、銃をかばんにしまう。そのまま右手の小指を差し出すと、科はまだ震える指でゆびきりげんまんをした。
「じゃ、リーダー調べて!」
「はいはい……飲み物はー……」ボタンが並んだ操作パネルを眺め、もっともお子様に適当だと思ったものを押す。「みかんジュースでいいね」
理はありがとうと言ってコップを受け取ると、いっきに全部飲んで携帯ゲーム機を取り出した。
「神奈川県のー……うーん、まあ比較的田舎なところかなー。そこに、リーダーである碧樹サンはいる」
「よっしゃ! 突撃っ!」
「というわけでやってきました神奈川です!」
「誰に言ってるのー……?」
サンの家は、立派な三階建ての豪邸だった。庭も広く美しい花々が咲き乱れているが、あたりには家が少ないからだろうか、ふたりはどこか寂しさを感じた。
「さ、銃の準備オッケー! とっつげきぃ!」
二丁の銃を取り出すと、理は猛ダッシュで豪邸に突っ込んでいった。
科が慌てて後を追う。
「! きみは……」
ドアを開けて少しると、つらそうな表情の男――碧樹サンが出てきた。
黒い髪がくるくるしており、茶色のメッシュもある。外国の高級ブランドか何かのロゴが入ったきれいなパーカーを着ていた。頭は覆っていない。
「さーあ観念するんだ詐欺師め! 成敗してやるっ!」
理が殴りかかる。
しかしサンは人間離れした反応速度でそれをかわすと、どこかから取り出した灰色の銃を突きつけた。
「……出て行ってくれないかい?」
「やだね」
サンが引き金を引いたが、その弾丸は理にあたる前に爆ぜた。
「なんて威力の銃をー……!」
「よくわかったね……頼むから、出て行ってほしいんだよ」
一発殴ってこてんぱんにしないと気が済まない理は、それを無視して銃に蹴りを放った。
やはりサンは化け物じみた速度――理よりも速いかもしれない――でよけ、銃身を理の額に思いっきりぶつけた。
「いてっ」
理は衝撃を逃がすために自分から吹き飛び、ついでにサンの腹を蹴る。
「大丈夫ー?」
「うん! ぜんぜん大丈夫!」
銃を構えなおす理。
ふと、ドアが開いた。
「パパ……!」
「リラ! 出てきちゃダメだって言っただろう……」
髪と目は薄紫色。ひらひらのついた服を着ている。
リラはサンをかばうように立った。
「パパをいじめるな!」
「……お子さん?」
「……こ、この子は……っ、はやく逃げるんだ!」
科と理は背筋が凍るような感覚がした。科は腕を振ってレーザーキャノンを出現させ、空中に向けてぶっ放す。
地割れのような轟音、そして目も開けていられないくらいの眩い光が場を白く染める。
理が魔法で明るさを制御すると、リラの目が血のように赤く染まり、それをサンが必死に押しとどめているのが見えた。
「だめだ……だめだリラ! 言うことを聞いてくれ……!」
リラはそれには答えず、腕を振る。
「ちょっ、なんでちびっこが魔法を!?」
「リラは異世界からの『転生者』なんだ! 二人とも、はやく逃げ――」
「っあ!?」
リラが魔法で放った赤黒い槍が、科の胸に突き刺さる。
「やっ!」
痛みで回避行動をとれない科を理が抱え、ついでにリラに向けて三発の実弾を発射する。当然のように魔法の障壁で阻まれたが。
そのまま『パープル・ドロップ』のトグルボタンを操作して『空気砲』モードに切り替え、かばんから『えん幕』と書かれた灰色の小瓶を取り出して銃口に当てる。
発射した小瓶が地面にぶつかり、甲高い音を立てる。それはもくもくと煙を出して視界を遮った。
その隙に、靴に仕込まれたジェットエンジンを稼働させて逃げようとするが――
「うわああ……」
リラが前もって展開していた障壁によって理たちは阻まれ、逃げられない。
「大丈夫!?」
「あ……ぼくは大丈夫ー……体が重いし痛いけどー、命は……」
理はこくんと頷いて見せると、科を床に降ろしてリラに向き直った。
* * *
法は、見つけた中で一番高い建物の屋上に、自分のヘリをおろした。
「面倒なことになってやがるな……」ヘリの中から真っ黒の大きな銃を取り出し、建物のフェンスに固定した。「まあ、あいつらはいい金づるだからな。生きてもらわなきゃ困るってもんだ」
その銃の名は『アクシスflat-S002』。とある銃製造者が技術力の誇示のために五丁だけ作った銃である。
当たれば鉄筋コンクリートのビルだろうが何だろうが粉砕できるほどの威力を持つが、当然一般人では撃った反動で死亡してしまう。
しかし人間ではない法なら、反動を完全になくすことができるのだ。
「あんな豪邸をぶっ壊すのは気が進まねえが……ま、いいだろ」
ゆっくりと引き金を引く。
地球の終わりかと錯覚するような爆音が響き渡り、銃口から大きな銀の弾丸が飛び出す。それはまっすぐサンの豪邸へ突き進み……家の半分を木っ端みじんに砕いた。
「それじゃあな」
ゆっくりとヘリに乗り込む法の背には、漆黒の翼があった。
その『堕天使』は、最強なのだ。
* * *
「わあ!?」
理はびっくりして爆薬の瓶を地面に投げつけた。
その爆発でうまいこと瓦礫や砂埃が吹き飛び、視界がクリアになる。
「――!?」
リラも驚いた表情をしていた。
その隙に、『パープル・ドロップ』を『プラスチック弾』にして発射する。
はずが。
「だめだ――ああっ!」
間違えて『実弾』モードのまま発砲してしまい、とっさにリラをかばったサンの背に四発の弾丸が食い込んだ。
「あは、は……もう、いいんだよ……リラ……」
「パパ……?」
リラの目の色がすーっと切り替わり、元の紫色に戻った。
理はびっくりして固まっていたが、すぐにサンに魔法をかける。
「回復しない……!?」
「……すまない、ね……げふっ、もう、これじゃあ……助から、ないよ……」
「っ、自分は手術もできるんだからね! この子を悲しませたくないでしょ! さあ寝る!」
かばんから手術の道具を一式取り出し、サンに麻酔を注射する。
「おねーちゃん……」
リラが心配そうに理を見る。
「大丈夫。そっちのパパさんは絶対死なないから!」
そしてそのまま、途轍もないスピードで手を動かし始めた。
「ふう、これでよし!」
理が大きく伸びをする。その足元には、四発の銃弾が並べてあった。
「う……ん……」
「パパぁ!」
泣くのをじっとこらえていたリラだが、もう耐えるのも限界だったようで、意識を取り戻したサンに抱き着いてわんわん泣き始めた。
サンは横になったまま、リラの頭をなでる。そして理に礼を言った。
「はは……ありがとう……」
「どういたしまして」理はサンと目を合わせずに、道具をしまいながら言った。「ついでに、肺がんも切除しておいたから」
苦笑するサン。何から何までお世話になっちゃったなあ、と頭をかいた。
玄関口から声がする。
「ねー」すっかり忘れ去られていた科だ。「この槍、抜いてくれないかなー?」
「あ、ごめんごめん!」
野菜を収穫する時のような感じで思いっきり引っこ抜くと、科はさっそく動き出して魔法を行使した。
みるみるうちに家が元通りになる。
「じゃじゃーん、時間戻し魔法!」
理とリラがぱちぱちと拍手をする。
「あ、そうだ……リラ、ちゃんと謝りなさい?」
「ん。ごめんなさい」
ぺこっと九十度より深く礼をするリラ。理は笑顔でその頭をぽんぽんとなでた。
後日。
「……え? あ、うん。いいけど」
法の部屋で寝転がっていた理は、サンからの電話を聞いて驚いた顔をした。
「どうしたのー?」
「いや……あのひと、出頭するんだって。だから家とリラを預かってくれないか、だってさ」
作業していた法がこれまた驚いた顔をする。
「……お前とちびっ子が一緒にいると悪影響しかないだろ?」
「失礼な! ちゃんと子育てくらいできるよ! やったことないけど!」
「どこからその自信が……?」
少しすると、サンが家にやって来た。
「はは。きみなら安心してリラを任せられそうだよ」
「おねーちゃん!」
ぎゅっと理に抱き着くリラ。
科がその頭をなでようとしたが、敵意むき出しで威嚇された。
「リラはちょっと人見知りなんだ。一緒に遊んであげれば……仲良くなってくれるんじゃない、かな……? うーんどうだろ?」
「そこは断言しようよー。親なんでしょ」
「いやあ……」
サンはリラを預けた後、すがすがしい表情で警察署へ向かっていった。
ほとんどの人は初めまして、それ以外の人はいるかわかりませんがこんにちは、館翔輝と申します。
ちなみにこれを投稿する時点でストックが三作あります。すごいでしょ。それほど僕は暇なのです。
楽しんでいただけたでしょうか。よろしければ、コメントや評価をよろしくお願いします。
またリクエストなどもある程度受け付けていますので、登場人物の設定などのリクエストは遠慮せずじゃんじゃんお願いします!
最後までお読みいただきありがとうございました! これからもよろしくお願いします!
2023年7月15日 館翔輝
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