95:健全な朝帰り
翌日の朝、淡い期待で目覚めたが、ベリルの姿はなく、いつの間にか上衣を着せられていた。
サイドテーブルの横に置かれたメモには、今日と明日の予定が書かれている。
◎本日
朝・クレメンス:
朝食デート(護衛・バーミリオン)
午前・エクリュ:
美術館デート(護衛・ヴァイオレット)
昼食:食堂
午後・ハンベルグ:
乗馬デート(護衛・キャノスと拓海)
夜:夜会
◎明日
朝食後、夜会を行ったホールにて婚約者発表
朝食デート?
ということは、もうとっくの昔に起きて、ベリルは部屋を出たのか……。
それにしても、詰め込んだ感が半端ない予定だ。
しかもハンベルグは明確に、ベリルではなく、元婚約者に気持ちがあることを明かしている。そのデートの護衛であれば、俺は嫌な思いをしなくて済む。
ベリルが俺のことを考えてくれたと分かり、自然と笑みがこぼれる。
ベリルがいたであろう場所に、体を横たえた。
……ベリル。
「拓海様、起きましたか?」
‼
驚いて起き上がると、アレンがいる。
「さすがにこの時間ですと、目を覚ましているゲストが多いですからね。着替えたら、スピネル様の部屋から、自室へ戻るようにしてください。自室の方へ朝食をお持ちしますから」
アレンはそう言うと、着替えをベッドに置いた。
「ア、アレン、その……」
「拓海様、何も言う必要ありませんよ」
「え……」
「ベリルお嬢様にお仕えして、みんな長いんです。ベリルお嬢様のお気持ちに、みんなとっくに気づいていますから」
「アレン……」
「拓海様、手は動かしてくださいね」
慌てて俺は着替えを始める。
「ご自宅で、毎晩のように拓海様のお部屋に、ベリルお嬢様は足を運んでいたんですよ。それを誰かの協力なしに、できると思いますか? ロードクロサイト様のいるあの家で。みんな、ベリルお嬢様に協力していたんです。拓海様の部屋に、ベリルお嬢様が足を運んでいると、バレないように」
「そうだったのか……」
シャツのボタンをとめながら、謎が氷解し、スッキリした気持ちになっていた。
箱入り娘のベリルが、いくら自分の騎士とはいえ、毎晩のように男子の部屋に行く。それがなぜ許されていたのか、ずっと気になっていた。
「我々は全員、ベリルお嬢様の気持ちに気づいている。それなのに当事者である拓海様が、まったく気づいていなかった。これは驚きですよ」
……。
「拓海様、着替えを続けてください」
「……はい」
ズボンを履き替える。
「まあ、でもぼくの予言通りになりましたね。別荘に来られた日、アンナ様に絡まれた拓海様に、ぼくは言いましたよね。あの時も拓海様は、なんのことかさっぱり分かっていなかったようですが」
確かにアレンはあの時、沢山ヒントをくれていた。
でもそれに気が付かず、アンナの情夫でもいいか、なんて、今思えばとんでもないことを考えて……。
「着替え、終わりましたね。では案内します」
アレンの案内で、スピネルの部屋に向かう。
スピネルの部屋とベリルの部屋の応接室は、扉一枚でつながっていた。
すんなりスピネルの部屋に入ると……。
スピネルはオーガンジー生地の黒いガウン姿で朝食をとりながら「あら、拓海くん、朝帰り?」とウィンクした。俺は「朝帰りですが、健全な朝帰りですから!」と強調する。ベリルの名誉のために。
部屋に戻るとすぐにカレンが来て、朝食をテーブルに並べてくれた。
いつもより30分ほど遅い朝食を終え、庭園に行くと、あのベンチにエクリュがいた。







