93:ベリルの持つある優れた力
「ああ。その時が来たら必ず」
ベリルは胸にキスを落とした。
その瞬間、力が抜け、意識も緩み、快感の波に飲み込まれる。
ベリルは胸にキスを落とし続けているが、それを感知できなくなっていた。
懸命に快感を抑え込む。
話がそれて、ベリルはまだ質問に答えてくれていない。
「なあ、ベリル、はぐらかさずに教えてくれよ」
「うん……どうしようかな」
ベリルが首に顔を近づけた。
また吸血されてしまう……。
そう思ったが首筋にキスをされただけだった。
キスをされただけ、で、あったが、それはとんでもない興奮をもたらす。
自分でも信じられないような甘い吐息を漏らしていた。
ベリルはその吐息に気づき、目を細めている。
「ヴァンパイアは優れた聴力を持つんだよ、拓海」
「え」
そう思った瞬間に吸血されていた。
快感に貫かれている俺に、ベリルは話し続ける。
「私の聴力は特に優れていて、一度聴いた声を忘れなかったし、その声を追跡することができた」
返事をしたいが、快感を抑えるので精一杯だった。
「ただ、追跡できる範囲はそう広くはなかった。だが私は魔力を使い、その範囲を広げた。使う魔力量によるが、最大でこの国全体をカバーできるまでになった」
ベリルの唇が首筋に触れる。
反射的に次の吸血がくると思い、必死に今荒れ狂っている快感の波を沈めようとした。
だが吸血はなく、代わりに肌を思いっきり吸われただけだった。
物理的に肌が感じた刺激で意識が緩み、快感の波に一気に飲み込まれる。
「私はあの日、リスのようなくりっとした瞳でグリーンのニカブを纏っていた小柄な少女と、黒い瞳で濃紺のニカブを纏った女性の声を覚えた。もちろん、ゼテクの声も。そして可能な限りの範囲で、追跡した。
するとブラッド国内で検知することができた。国外へ逃れず、国内に留まっていることが分かった。拓海をさらうための次の機会を待っていることも判明した。だからその声を定期的に追跡し、何をするつもりなのか様子を見ることにした」
快感に飲まれつつある俺の耳には、ベリルの声だけが聞こえている。
「名前や家族関係などすぐに分かった。まさか私に聞かれているなんて思わないからな。彼らはペラペラとなんでも話してくれた」
ベリルが再び首筋にキスを落とした。
でも快感に飲まれ、キスの感触を認識できない。
「私がホリデーシーズンを別荘で過ごし、そこにキッチンカーを招いて料理を招待客にふるまうという情報を、ゼテク達は知った。街ではどの店がキッチンカーを出すかで大賑わいになっていたからな。この情報を知るのは簡単なことだった。そしてチャンスとばかりにゼテク達がキッチンカーで乗り込んでくることを、私は知ることになった」
「……そうだったのか」
何とか快感の波から浮上して答えた。
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次回更新タイトルは
『拗ねた顔も可愛いな』他2話です。
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