9:死ぬ寸前だったから?
俺は自分がいた世界が、地球が、どんなものであるかをスピネルに説明した。
俺の世界には196の国があり、約79億の人間が暮らしていると話すと、目を丸くして驚いた。逆にヴァンパイア、ライカンスロープ、魔法使いは、想像上の存在と考えられていること、死者の国は存在するのかしないのか確認できていないと話すと、信じられないと目をむいた。
どんな文明や文化があり、どんな暮らしをしているかを話すと、スピネルは真剣に耳を傾け、熱心にパソコンでメモをとった。さらに自らも沢山質問をした。
「すごいわ。拓海くん、沢山話してくれて、ありがとう」
スピネルは頬を上気させて喜んだ。
「あの、俺がいた世界……地球から、これまでこの世界に召喚された者っているんですか?」
「そうね、どうなのかしら? もし地球から召喚される人間が拓海くんと同じように特殊な血を持っていれば、それは絶対なんらかの形で記録として残されていると思うの。ベリル様から拓海くんのことを聞いて、すぐに調べたけど、どこにもその存在を示すようなものは見つからなかったわ。と言っても取り急ぎざっと検索しただけだから、改めて調べようと思うけど」
スピネルはパソコンを片付けながら答えた。
「そうなんですね……。あの、俺って元の世界に帰れるんでしょうか?」
「うーん。そもそもベリル様が使ったのは、供物召喚魔術という、食料を調達するための召喚魔術なの。魔獣や霊獣を召喚する異生物召喚魔術であれば、召喚して使役した後に元の場所に返す、帰還魔術を使うけど、供物は……。あとね、供物召喚魔術で召喚される人間って、そもそもその人間がいた場所から逃げたい、いっそ死んでしまいたい、もしくはまさに死ぬ寸前で召喚されることが多いの。つまり本人も死を厭わない状況で食料として召喚されるから、生への執着とか供物になることを拒むこともないのよ。ましてや元にいた場所に戻りたい……なんてことがないから……。あ、なんか食料という言い方で人間を表現してごめんなさいね」
パソコンをカバンに片付けたスピネルは申し訳なそうな顔をした。
「……まあ、俺も元の世界では殺されかけていたわけで、もしかすると死ぬ寸前だったのかもしれません。それに元の世界への未練は……両親にすまないぐらいしかないので、どうしても戻りたいわけではないんですが……。逆に俺はこの世界に存在していてもいいんでしょうか」
「この世界全体でどうかは分からないけど、少なくともこのブラッド国に、このレッド家にいることを、あのロードクロサイト様が認めた。そこは胸を堂々と張っていいことだと思うわ」
そう言うとスピネルは立ち上がった。
「あ、あの、俺はどうしたらいいのでしょうか。このままベッドにいればいいんですか? その、どこも怪我をしていないし、病気でもないんですけど」
スピネルは窓を指さした。
「もう夕暮れだし、これから出かけて何かするとかないと思うの。多分、夕食になると思うわ。とりあえず私がこの部屋を出たら、アレンかカレンが来るだろうから、彼らの指示に従ってあげて」
「……分かりました」
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『泡風呂で女子気分』
『両性の魅力を持った不思議な存在』
『真夜中の訪問者』
です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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