85:つけいる隙があるはず
「そうさのう。ただ言えることは、ベリル嬢はレッド家の次期当主のはずじゃ。純血主義のレッド家が、次期当主の結婚相手に、純血種以外を選ぶとは考えにくい。ということは何かあるのではないかと思うとる。そこにつけいる隙があるはずじゃ」
ゼテクは鋭い……。
そう思った時だった。
天井にドン、ドン、ドン、ドンと立て続けに音がした。
「え、何……」
リマが窓の外を見て固まった。
俺も首を伸ばし、窓の外を見た。
暗くなってきた空の下、沢山の騎士の姿が見える。
さらに金属が軋むような音がした。
ひと際大きな音と共に、後ろのドアが突然開いた。
開いたというより、ドアは強引にこじ開けられ、バン本体から外れかかっている。
「拓海!」
「ベリル」
俺に近づこうとしたベリルのルビー色の瞳が、ゼテクとリマの姿を捉え、怒りで燃えあがっている。
「くそっ」
いつの間にかリマは、シャムシールという曲刀を手にしており、立ち上がりかけた。
だがゼテクがそれを制する。
「やめるのじゃ、リマ。もう囲まれている」
「でも師匠の魔法と私とジャマールの魔術が効かない体質、レイラの暗殺術があれば……」
「リマ。『ザイド』は暗殺集団じゃ。少人数相手の隠密行動において、その力を発揮する。でも今、ここは表舞台。戦場じゃ。そして我々は少数。このような大人数相手では、圧倒的に不利じゃ」
唇を噛み、しばし黙り込んだリマは、遂にシャムシールから手を離す。
「座るのじゃ、リマ」
ゼテクの言葉に従い、リマはゼテクの横に移動し、静かに腰をおろした。
「キャノス」
「はい、ベリル様」
「ゼテクの口を封じろ」
「かしこまりました」
キャノスが手を伸ばし呪文を唱えると、ゼテクは布を口に噛まされていた。
「お分かりと思いますが、無理に口を動かそうとする、皮膚が裂けます」
キャノスが静かに告げると、ゼテクは頷く。そして自らの手で、肩に立てかけていた杖をキャノスに渡す。
リマはキャノスの言葉に、床に落としたシャムシールに手を伸ばしかけた。でもゼテクがリマの手を掴み、それを止める。
「ゼテク、こちらへ」
キャノスと共に、ゼテクはバンから降りる。
その後は一斉に騎士たちが動いた。
リマはヴァイオレットに、レイラはバーミリオンによって拘束された。ジャマールはキャノスによって取り押さえられている。その間にベリルは、俺を縛る縄を魔術で焼き切ってくれた。そしてハンカチを裂いて、手首と足首の傷に巻いてくれた。
「拓海、無事で良かった」
バンの中で二人きりになると、ベリルが俺を抱きしめる。
ベリルの体は氷のように冷たい。
今さら気づいたのだが、ベリルは昼間のサマードレスのままだった。
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