83:ただの供物に過ぎん
「全く、おぬしは次から次へとんでもないことをする。なぜそうまでしてわしらから逃げようとする? わしらはおぬしを殺すつもりはない。仲間へ迎えようとしているだけじゃ」
非常用ボタンを押した結果、トイレの外についていたランプが点灯。
すぐにジャマールが気づき、トイレのドアを壊す勢いで、開けようしているのが分かった。
俺は「流すボタンと間違えて押した、すまない」と言い、自らドアを開け、外へ出たが……。
ゼテクはすぐに見破った。俺の嘘を。
結局、車に乗せられ、振り出しに戻る。
つまり、再び両手と両足を縛られた。
ただ、口は自由だった。
どうせ魔術を使えないからだ。
でもかなり警戒されてしまったようで、レイラは助手席に座り、代わりにゼテクが俺のそばに座っていた。
「俺はお前たちの仲間になんかなるつもりはない。金をもらって誰かを殺す手伝いをする気はない。それに俺には既に仲間がいる」
睨むと、ゼテクはため息をついた。
「ベリル嬢がおぬしの仲間なのか? ヴァンパイアが仲間? おぬしの血を吸うだけじゃろうが。魔術が効かない体質であろうと、ヴァンパイアからしたら供物に過ぎん」
ゼテクは魔術が効かない体質(厳密には違うけど)とは知っているが、俺の血が特殊であることは知らないようだった。
しかしそんなこと、今はどうでもいい。
「確かにベリルは俺の血を吸う。でも俺はベリルの騎士だ」
「血を吸われておるなら、供物に違いはない」
なんなんだ、この偏屈じじい……。
「俺は供物なんかじゃない。俺は……俺はベリルを愛している。そしてベリルも俺を愛してくれている!」
ゼテクの表情が変わる。
「ベリル嬢がおぬしを愛しているだと? まさか。純血主義を謳うレッド家じゃぞ? 次期当主のベリル嬢が、供物を愛するだと? あり得ん」
「じゃあ聞くがゼテク、お前はどうなんだ? 純血主義だったくせに、どうして暗殺組織に属している?」
ゼテクが俺を、ジロリと見た。
「俺がただの供物だというなら、前回なぜベリルは俺を助けた?」
ゼテクは無言でこちらを見ている。
「ただの供物なら血を吸い切っておしまいのはずだ。魔術が効かない体質だろうと関係ないのだろう? ヴァンパイアからすると。それなのに俺は生きている」
畳みかけるように続けた。
「俺のシャツのボタンをはずし、首につけているものを見てみろ!」
ゼテクの隣に座るリマが、ゼテクを見る。
それでもゼテクは無言のままだった。
「ベリルが俺につけてくれたものが首にある。元々はベリルが身に着けていたものだ。だからきっと価値があるはずだ。供物に与えるようなものか、その目で確認してみるがいい」
「……師匠、確認してみる」
リマが動いたが、ゼテクはそれを止めない。
俺に近づくと、リマはシャツのボタンを三つ、はずした。
「君、重ね着しているの⁉」
「あ、うん。寒いから半袖の上に長袖を着た……」
「ホント、君、面倒!」
リマはキレ気味にそう言うと、半袖シャツのボタンも同じようにはずした。






