7:男でも感じちゃうのか……
「カレン、拓海の様子はどうだ?」
お辞儀していたカレンが顔を上げた。
「はい、ベリルお嬢様、報告いたします。拓海様は三十分ほど前に目覚めました。意識も良好、体調も問題ないようで、用意したお食事も全てお召し上がりになりました」
「そうか、それは良かった」
ホッとした顔のベリルは、初めて会った時に比べ、顔色がよくなっていた。
あの時は多くの血を失っていたからだろう。
肌は雪のように白かった。
今もその白さは変わらないが、頬に赤みが戻り、元気そうに見えた。
「ベリル、あれが供物として召喚した人間か?」
堂々とした態度の男性がベリルに尋ねた。
ベリルの服装は首元までしっかり隠れた赤い長袖のドレス姿だったが、この男性もヨーロッパの貴族を思わせる服を着ていた。黒のシャツに赤いジレ、その上に黒のジュストコール、ジレと同色のキュロットに、黒革のロングブーツという姿だ。
「はい、父上、あれが拓海です」
父上……つまり彼がレッド家の現当主、そしてこの国の最高権力者のロードクロサイト……。
「そなたの話を疑うわけではないが、確認をするぞ」
「ええ、勿論です」
ロードクロサイトがつかつかと俺に歩みを寄ってきた。
今、確認すると言っていた。
まさか……。
俺の血を吸うんですか?
そう尋ねたかったのだが……。
俺のすぐ横で歩みを止めたロードクロサイトは、圧倒的な存在感だった。
思わず息を飲み、言葉を発することができなかった。
ベリルと同じワイン色の髪、赤黒い瞳は鋭い光を放っている。
太ってはいないが、筋肉はしっかりついていると分かる体躯だった。
さらに驚いたのが、その見た目の若さだ。
髪と同じ色の鼻の下の髭がなければ、ベリルと変わらない年齢に思えた。
ロードクロサイトは俺の顎を掴むと、斜め上に向け、そして……。
首筋に激痛と同時に快感が走った。
マジか……。男のヴァンパイアに吸血されても快感が起きるのか……。
俺は夢見心地となり、ぽわ~とした気持ちで背中の枕に寄りかかった。
「これは……。なんということだ! まるで魔力がみなぎるようだ」
「父上、これで分かっていただけましたか?」
「そうだな。確かにこの人間はポリアース国の人間とは全然違う。……良かろう。この屋敷に置くことを許可する」
「ありがとうございます、父上」
ベリルとロードクロサイトのやりとりを眺めていた俺は、そのまま快感に身をまかせ、目を閉じた。
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