69:熱烈なアプローチにベリルは……
「スピネル、なんでベリルは……」
ワインを一口飲むと、スピネルはため息をつく。
「今日のディナーは、湖のほとりで行われたそうよ。満点の星空の下で、楽団の生演奏を聞きながら。それはそれは素敵なディナーだったみたい」
「それなのにベリルが泣くようなことが?」
「あまりにもロマンティックな雰囲気だったから、ディナーの後の散歩では、婚約者候補達はみんなベリル様と手をつなごうとしたり、腕を組もうとしたり、肩を抱き寄せたり、キスをしようとしたり、これまた熱烈なアプローチがあったみたい」
「……」
「ベリル様はなんとか全部受け流したけど、そこで気づいたらしいの」
スピネルはワインを飲んだ。
「カーネリアン様が魔女に連れ去られ、自分が次期ブラッド家の当主になると分かった日から、ベリル様は覚悟を決めていた。だから、もし出会わなければ。もし恋する気持ちを知らなければ。決められた婚約者とすんなり結婚していた。
でも好きな人ができてしまった。ベリル様は、不安になってしまったのね。気持ちを押し殺して、婚約者と……恐らくこのままでいけばクレメンスよね。クレメンスと手をつないだり、腕を組んだり、肩を抱き寄せられたり、抱きしめられたり、キスをしたり、その先のことをできるか、自信がなくなちゃったのね」
スピネルの言葉に、俺は想像してしまった。
ベリルとクレメンスが、スピネルの言ったようなことをしている姿を。
それはまさに美男美女の二人なら、お似合いに思えたが……。
ベリルの心は別にある。
だったらそれは、とても辛いことに思えた。
「ベリルは俺に、『私も拓海のいた世界のように、自由な恋愛をしてみたかった』って言っていました。どうにもできないんですか? ベリルは気持ちを押し殺し、クレメンスと結ばれるしかないんですか?」
スピネルはワインを一口飲むと考え込んだ。
「……方法がないわけではないわ。想い人と駆け落ちしちゃうとか、勘当覚悟で既成事実を作ってしまうとか……」
「もっと穏便な方法はないんですか?」
そう言った瞬間、俺は思いついた。
「ベリルのお兄さんのカーネリアンは、生きているんですか?」
「それは……分からないわ。でも、そもそも暗殺が目的だったら、リスクを負ってまで連れ去らないと思うの。推測だけど、カーネリアン様はベリル様と同じぐらい美しい方だった。それは魔女の心を捉えるぐらいの美しさだった。だから自分のそばにはべらせ、愛でようとでも考えたのかしらねぇ。
まあ、そう考えると、どこかで生きている……恐らくは魔法使い達が暮らすテルギア魔法国で、生きているのではないかと思うけど……。でもロードクロサイト様も手を尽くして探しているのに、未だに見つからないし、本当にどこでどうしているのかしらね……」
「ロードクロサイトは、まだカーネリアンを探しているんですね……」
「当然よ。さらわれてからまだ3年。一人息子だったし、次期当主として、期待して育てられていたから……」
「じゃあカーネリアンを見つけ出せば、ベリルは自由に恋愛できますよね?」
カーネリアンが次期当主になれば、ベリルの結婚相手は、ある程度自由に選べるはず。
「⁉ 拓海くん、すごいことを思いつくわね」
「ロードクロサイトと奥様に、もっと頑張ってもらって息子を……とも思ったのですが、他力本願過ぎるので諦めました」
「私の想像のさらに上をいっていたのね、拓海くん……。というか他力本願過ぎるということは、まさか」
「俺がカーネリアンを見つけ出します」
「⁉」
「俺は魔術が効きにくい体質だから、カーネリアンをさらった魔女のところに辿りつけると思うんです」
「……でも一人じゃ無理よ」
「そうですね。旅の仲間を集めないと」
「本気なの?」
「本気です。ベリルにもこのことを話してみようと思います。本当は、ベリルが気持ちを押し殺していることを知ってしまって、俺もすごく苦しくなったんです。だからその気持ちを押し殺さないで済む方法がないのか、ベリルと話そうと思っていたんです。
でも方法がないから、ベリルは苦しんでいるわけで。俺がなんで、どうしてと詰め寄っても、結局は解決しなかった。けど、俺がカーネリアンを見つけ出すという方法を提案できれば……。この問題は一気に解決に向け、動き出すと思うんです」
スピネルはワイングラスを手にしたまま固まっていたが、大きく息をはくと笑顔になる。
「拓海くんって本当に……。ベリル様の気持ちがよ~く分かったわ。いいんじゃない。ベリル様にそのこと、提案してみたら」
俺は深く頷いた。
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次回更新タイトルは
『心からの笑顔で幸せになって欲しい』
『本当に好きなのは……』他1話です。
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