67:どんなに想っても叶わない
ランチパーティーは、気づけば終わっていた。
婚約者候補達の動きも、ただ眺めているだけで、頭には全然入ってきていない。
しかも、焼きそばもお好み焼きもたこ焼きも、しっかり食べていたようなのだが……。
それを食べていたこともほとんど記憶になかった。
「拓海、どうしました? ランチパーティーからずっと、心ここにあらずです。その状態でボクシングの練習ができるのですか?」
ボクシングジムもといトレーニングルームへ向かい歩きながら、キャノスが心配そうに尋ねる。
「……ちょっと考え事をしていて……」
「なるほど。その考え事は、私には話せないことですか? 相談相手として、私は役不足ですか?」
思いがけない言葉に俺は立ち止まる。
「そんな……、役不足なんて……。むしろ、こんなこと相談していいのかと思っていただけで……」
「どんな相談だろうと、私は聞きますよ」
キャノスが優しく微笑んだ。
イケメンなのに性格もいい。
微笑みだけでも説得力がある。
キャノスになら話しても……。
真摯に聞いてくれるはずだ。
俺はエクリュが言っていたこと、そして俺自身もベリルを見て感じたこと、ベリルが気持ちを押し殺していると知ってから、俺自身も苦しくなっていることを、打ち明けた。
「……そうでしたか。拓海も気づいてしまったんですね」
キャノスが穏やかな笑みを浮かべる。
「……! キャノスも気づいていたのか⁉」
驚く俺に、キャノスは静かに頷いた。
「はい。私だけではありません。ヴァイオレットもバーミリオンも、スピネルも。もしかしたら、アレンやカレンも気が付いているかもしれないです」
衝撃的な一言だった。
「……そうなのか。俺だけが気が付かなかったのか……」
「肩を落とさないでください、拓海。我々とベリル様との付き合いはとても長いのですから。そして我々はベリル様の変化にいつも気を配っています。むしろ、気づくことができなれば三騎士は務まりませんからね。
スピネルに至っては、執事でありベリル様の専属医ですから。我々以上にベリル様の変化には敏感です。体調の変化を見逃すことはできないのですから」
顔をあげ、俺はキャノスを見る。
「じゃあ、みんな知っているのか、ベリルが本当は誰を想っているのかを」
「それは……。予想はついていますが、誰一人としてその件については話していません。ベリル様の秘めた想いを、私達が口に出す必要はないのですから」
「それはつまり静観すると?」
思わず声音が険しくなってしまった。
「そうですね」
キャノスは気にせず答える。
「ベリルが苦しんでいるのに、助けないのか?」
「助けることをベリル様が望んでいるなら、いくらでも助けたいと思います。でもベリル様は、それを望んでいらっしゃらないのです」
「えっ……」
「それだけ難しいことなのでしょう。つまりどんなに想っていても、その想いはどうにもできない、と、お分かりなのでしょう」
……。
人生は思い通りにならないことが多い。
自分がどんなに願って、努力して頑張っても、叶わないことはいくらだってある。
それは分かっているが……。
「私達ではどうにもできないですが、もしかしたら拓海なら……。異世界から来た拓海なら、変えられるかもしれません」
「キャノス……」
「とりあえず気持ちを切り替えて、運動をしてスッキリしましょう、拓海。そしてその後で、ベリル様に会いに行って、話してみては? 拓海になら、ベリル様も考えを変え、打ち明けてくれるかもしれないですよ」
「……そうだな。うん。そうしてみるよ」
キャノスの言葉は魔法だった。
実際、キャノスは魔法使いでもあるのだけど……。
でも俺に魔法は効かないし……いや、少しは効く。
もしかしたら魔法の力なのか?
とにかくキャノスと話を終えた直後から、俺の中のモヤモヤした気持ちは収まった。
さらに運動をすることで、沢山汗をかき、気分もスッキリしている。
俺は気持ちを万全に整え、この日の夜、初めてベリルの部屋を訪ねた。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます‼
本日もゆるりとお楽しみください。






