40:俺、どうなっていた!?
「拓海、大丈夫か?」
「ベ、ベリル……」
なんだか頭がボーっとする。
「俺……」
どうして寝ているんだっけ?
純白のベリルを見て、自分がどんな状況にあったのかを思い出し、ガバッと起き上がる。
「ベリル、俺、どうなっていた!?」
婚儀の夜の儀式の一つ、血の交換のため、俺は……ベリルの手首から吸血したはずだ。ベリルの手首には、白い包帯が巻かれている。
「痛かったか? ベリル……」
ヴァンパイアの吸血であれば、吸血と同時に魔力が送り込まれるから、痛みはない。むしろ気持ち良くなる。でも俺は人間で吸血したから……魔力を送ることもなかった。
「痛かったよな。ごめん、ベリル」
その細い手首を手に取ると、ベリルは「問題ない」と言い、包帯をするりと外してしまう。左手首にはうっすらと血の跡が見えるが、怪我はない。
「キャノスの治癒魔法が発動するようになっていたから。もう傷も癒えた」
そうだ。
そう言っていた。この包帯は魔法発生装置だと。
ベリルは外した包帯をサイドテーブルに置くと、水の入ったグラスを俺に渡してくれた。
吸血したはずなのに、口の中に血の味とか……感じないな。
「拓海は私の手首から吸血してしばらくすると、そのまま意識を失った」
「……! そ、そうなのか。それで?」
「しばらく体が痙攣し、何かに耐えているようで……。ひとまず様子を見ることにした」
全然覚えていない。
でもネフライトに意識は失うだろうと聞いていたから、驚きはなかった。
そこでグラスの水を飲もうとして「……ベリル、牙が」と俺は叫ぶ。
「ああ。痙攣が落ち着いた後、呼吸も落ち着き、まるで寝ているような状態になった。そこで渡されていた丸薬を飲ませた。その時、犬歯が牙になっていることも確認している」
自分がヴァンパイアになったのか、まだ実感は何もないが、牙が生えている。
その事実に、自分がヴァンパイアになったのだと、じわじわと認識することになった。
「どこか具合が悪いところはないか? 体もそうだが、気分も問題はないか?」
ベリルに尋ねられ、自分の体調や気分を確認するが、気になるところはない。それは丸薬のおかげかもしれないが、ともかく大丈夫だった。それを伝えると、ベリルは安心した表情になる。
「では本当に拓海がヴァンパイアになったのか、確認しないとな」
「そうだな。……って、どうすればいい?」
「まずは力だ」
ベリルはそう言うと俺を押し倒し、馬乗りになる。
「私を排除できるか?」
「!!」
ベリルはヴァンパイアで怪力だから、俺の力では……。
いや、違う。俺もヴァンパイアになったのだから!
俺の肩を押さえつけるベリルの腕を掴む。
いつもならびくともしないが。
「!」
掴んだ腕は簡単に持ちあがる。
そのまま肩を押さえる両腕を掴み……。
ベリルをベッドに押し倒し、俺が馬乗りになることに成功していた。
「ベリル、俺、怪力になっているんだよな!?」
「そうだ。間違いない」
一気に自分がヴァンパイアになったのだと、実感することになる。
「では、次は魔術だ」
「!」
怪力になったはずなのに!
ベリルは簡単に俺から逃れ、ベッドの横に立っている。
「魔力を魔術として行使するには、呪文の詠唱が必要だが、その際、使う魔術をイメージしたりと、一筋縄ではいかない。よって今後、拓海は魔術を使うため、学習する必要がある。だが呪文を詠唱するだけでも、魔力があれば反応が出る。それで拓海に魔力が巡っているかを確認できる」
「そうか。……じゃあ今から呪文を詠唱するのか、俺?」
ベリルが頷いた。
これにはもう、なんだかテンションが上がってしまう。
だってそれこそ、ゲームやアニメで見た世界じゃないか!
呪文の詠唱。
ベッドから降り、ベリルの横に立つ。
「ベリル、呪文を教えて!」
頷いたベリルは、蛍の森で、『ザイド』のメンバーに襲われた時に使っていた呪文を、俺に伝える。
そうだった。呪文の詠唱、英語なんだよな。
英語か……。あまり得意科目ではなかった。
でもともかくだ。
プレイしていたゲームの主人公を思い出しながら、俺はベッドのそばでポーズを決める。
「Wall of Fire, Prevent Enemy Attacks.(炎よ、壁となり攻撃を防げ)」
ベリルのように、炎の壁は現れないが。
なんだろう、全身がぶわっと急激に熱くなった。
熱くなって……。
なんだか宙に線香花火のような火花が一瞬、いくつかパチパチと爆ぜた。
「うん。合格だ、拓海」
ベリルは満面の笑みだが、俺は「えええええっ」とそのしょぼさに驚愕する。ベリルが呪文を詠唱した時の炎のスケールを覚えているだけに、この結果にはトホホなのだが。
「問題ない。魔力は体内を巡っている。練習を積めばちゃんと魔術を使えるようになるから」
ベリルはそう言ってくれるが……。
「拓海。すべきことを進めよう。今度は私が拓海に吸血する」
そうだった。
血の交換だから、今度はベリルが俺の……。
ベリルが俺をお姫様抱っこすると、ベッドにおろした。
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次回更新タイトルは
『つ、遂にだ!』
いよいよその時です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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