38:嬉しいんだけど、緊張する!
ウェディング舞踏会は、未明まで続く。
ウルフ王国の面々は、国王陛下夫妻をのぞき、間違いなく、踊り続けるだろう。
後のみんなはどうだ?
ポリアース国のメンバーは……グレゴウス教皇は高齢だし、付き添う形のノエルも早々に休むだろう。
テルギア魔法国の魔法使い達は……回復の魔法だって使えるから、時間はあまり気にせず、楽しみたいだけ楽しむ……そんな風に思えた。
一方のヴァンパイア達はもうみんなノリノリだ。
ウルフ王国の王族達とダンスしてワインを楽しんでいるし、こちらもそのまま夜を明かす気がする。
「拓海様、そろそろお支度しましょうか」
アレンとカレンに声をかけられた。
見るとベリルは、スピネルと二人のメイドに囲まれ、ホールを出て行くところだった。
「う、うん。そうだな。支度。そう、支度、しよう」
俺が返事をすると、アレンとカレンが俺を先導するように歩き出す。その後ろを俺がついてき、シナンも数歩遅れでついてきている。
あ~、いよいよか。
嬉しいんだけど、緊張する!
この瞬間からもう、心臓がバクバクしている。
いよいよだと、緊張で体の中心は熱いのに、手はなんだか冷たく感じていた。
「拓海様、緊張されています?」
チラリとこちらを振り返ったアレンが、いつも通りの声音で尋ねる。
「そ、それは……緊張するよな!?」
「ええ、当然です。ここで余裕しゃくしゃくでしたら、腹立たしいです」
アレンがそう言うとカレンまで「もし余裕ぶっこいたら、、めっちゃプレッシャーかけますよ」と、とんでもないことを言う。
「迷いますよね。緊張しているならリラックスできる入浴剤……ラベンダー一択でしょうが、『入浴してすっかり落ち着きました!』ではその後、困りますからね」
アレンがそう言うとカレンは。
「ならばもう逆に、その緊張を爽快感にまで高める、ペパーミントの入浴剤がいいのでは?」
二人はしばらく、入浴剤を何にするか持論を展開し、最終的に「ベルガモットの香りの入浴剤を使う」ことで落ち着いていた。リラックスすると同時に、気持ちを高める効果もあるらしい。
というか、入浴剤の香りにさえ気を使い、俺を応援しようとしているのだと思う。アレンとカレンは。そう思うと、本当にこの双子のライカンスロープの召使いはイイ奴だ。
部屋に到着すると、シナンは廊下で待機。
今晩は特別に、このまま廊下で寝ずの番になるという。
アレンとカレンは、手際よく入浴の準備を進めてくれたので、あっという間にバスタブにつかることができた。
湯船につかった瞬間、もう盛大に「しみる~」と声が出てしまう。
もう早朝からずっと、緊張の連続だった。こうやって温かい湯船につかると力が抜け、筋肉のこわばりも解けていくように感じる。
やばい……。
このまま眠りそうだ。
「拓海様!」
アレンの声に、閉じかけていた目をこじ開ける。
「ちゃんと体も洗ってください。入浴が終わったら、キャノス様が回復の魔法をかけてくださりますから」
「そ、そうか。それは良かった!」
「人間には厳しいスケジュールだったと思いますから。でもこれからが拓海様が待ち望んだ時間ですよね。頑張りましょう」
そう言われるとなんだか、猛烈に恥ずかしい。
確かに待ち望んだけど、それだけではないからな。
「大丈夫です。分かっていますから」
アレンはまるで俺の心を読めるかのようで、驚いてしまう。
でもともかく準備は進めないと。
ということで髪を洗い、体も洗い、すっかりさっぱりして、バスローブを着て髪を乾かす。その後は、アレンが用意してくれていた寝間着に着替えた。
バスルームを出ると、ソファにキャノスが座り、俺を待っていてくれた。
テーブルには水も用意されている。
「拓海、こちらへどうぞ」
キャノスに言われ、ソファに腰をおろすと、キャノスは早速回復の魔法をかけてくれて、アレンはグラスに水を注いでくれる。なんだかもう、その時に向け、至れり尽くせりだ。
「これでもう、大丈夫ですよ。体の疲れは勿論、眠気もとれたはずです」
「本当だ。わりと立っている時間も多かったから、ふくらはぎが張っていたけど、それも収まった。眠気も……ないな」
「良かったです。私はこの後、シナンと二人で寝ずの番に入りますから。安心して過ごしてください」
キャノスはニッコリ笑い、アレンは「片付けが終わったら、僕とカレンは下がらせていただきます。拓海様はどうぞ、あちらから夫婦の寝室へ」と笑顔だ。
俺はチラリと、そこに存在しながら、一度しか開けたことのない扉を見る。
夫婦の寝室。
俺とベリルの間に存在する、夫婦となった俺とベリルが寝るためだけに存在している部屋だ。ムーディな雰囲気満点で、絨毯もカーテンもボルドー一色で統一されている。天蓋に使われている布も、少し明るいボルドーに黒のフリルとなんだかもう……エロティック。
俺が夫婦の寝室に思いを馳せている間に、キャノスは部屋を出て行き、アレンとカレンはバスルームだ。
つまり、後はもうベリルと二人でどうぞ、ということ。
ここから先は、俺一人で向き合うしかない。
ドキドキしながら、夫婦の寝室につながる扉のドアノブを掴んだ。
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次回更新タイトルは
『お前を自分の眷属にする!』
いきなりどうした!?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






