14: この結末は
「拓海! もうよいぞ!」
湖の乙女とモールの姿がようやく見えた。
ベリルと二人、窪みから出る。
すぐにヴァイオレット、ゼテク、キャノスが駆け寄る。
お互いの無事を確認しあい、湖畔へと向かう。
「みんな無事だったかしら? ちゃんとモールが護ったわよね?」
湖の乙女は落ち着いた様子で俺達に話しかけた。
「はい。こちらは無事です。一体何が起きていたのですか?」
俺が尋ねると、湖の乙女は「もう、ウンザリしてしまうわ」という感じで肩をすくめた。
「マグネス(死の使者)はね、全部で十二体いるのよ。その全員がいきなり攻撃をしてくるから。でもね、魔王サナトス。あなたを私のものにした後でよかったわ。期待通り。私の力を得たあなたはとても強くて素敵よ」
湖の乙女はそう言ってモールに抱きつくが、その二人の姿はまるで……。
もう、ベッドで抱き合っているようにしか見えない!
「十二体ものマグネス(死の使者)を二人で撃退したわけですね。それはすごいと思います。確かにあなたの加護で私達は助かった。……この先、再びマグネス(死の使者)が襲ってくることはあるのでしょうか?」
ベリルは……あんなに濃厚に二人が抱き合っていたのに、一切動じる様子がない。冷静に湖の乙女に話しかけている。
「ええ。半分は再起不能レベル、残りの半分も相当なダメージよ。この次、仕掛けてきたら、もう容赦はしないから。そうなると、本来の彷徨う死者の魂の回収ができなくなってしまうわ。さすがにね。ジェットもそれは困るでしょうから。私達からは手を引くと思うわ」
そう言った湖の乙女は、ついにモールにキスをしている!
再び直視できなくなるが、ベリルは落ち着いて話しかけていた。
「それは素晴らしい。さすが湖の乙女ですね。あなたの言葉を私は信じます。ただ万一があった場合、窮地をあなたに知らせる方法はありますか?」
「そうね。ではこれを差し上げるわ。この鈴は普通の状態では鳴らない。あなたが心底死の危機を意識した時にだけ、鳴る。その鈴の音は必ず私の処へ届くわ。その鈴が鳴った時。そこがどんな場所であろうと。例えデスヘルドルだとしても、私は駆け付け、あなた達を助けるわ」
そう言った湖の乙女の手には銀色の丸い鈴が見える。それは俺がよく知る鈴とは違い、前世で言うところのガムランボールのように見えた。
ベリルと俺は湖畔の方へ数歩近づく。
俺がベリルの体を支え、ベリルは腕を伸ばし、湖の乙女からその鈴を受け取った。
「まあ、その鈴がなくても。ここに来たら、いつでも顔を出してあげるわ。だからね。もういいかしら? 私はもう我慢できないの。せっかく彼を手に入れたのだから」
またもや湖の乙女がモールに絡まるように抱きついている。
この姿を見せられる度、俺の心臓は爆発しそうになっていた。
「ええ、もう邪魔はしません。ありがとうございます。お幸せに」
「ふふ。あなたもね。美しいヴァンパイア。その人間は見た目ではなく、本当に綺麗な心を持っているわ。とても素敵な輝き。滅多にない。大切にするといいわ」
この言葉にベリルは輝くような笑顔になる。
俺は今のって俺のことか!?と軽くパニック。
そうしているうちにも、湖の乙女とモールの姿は煙が消えていくように薄くなり、ついにその姿は見えなくなってしまう。
「終わったようじゃのう」
ゼテクの言葉を合図に、皆、ベリルと俺のそばに集合した。
「あの様子を見る限り、モールは湖の乙女と結ばれること、まんざらではないように思えましたよ」
キャノスがそう言うとヴァイオレットも即同意を示す。
「あんなに情熱的に抱き合っていたんだ。相思相愛に違いない。きっとモールは幸せになる」
「そうじゃな。あの湖の乙女であれば、モールは飽きることはないじゃろう。何より、モールにとっても宿願が叶ったわけだから」
「ゼテク、それはどういうことだ?」
俺の問いにゼテクは、持論を披露する。
「モールは……魔王サナトスは、ティストラン大陸の覇者になりたいと願っていた。それはこの大陸で絶対的に強いのは自分になる――ということじゃろう。奇しくも湖の乙女と結ばれることになった魔王サナトスは、この世界の理を超えた力を手に入れた。ついでに美しい女も。もはやこの世界を超えた覇者も同然じゃ。奴にしてみればこれ以上ない結果じゃろう」
なるほど。
そういうことか。
言われてみれば……その通りだ。
「だから拓海。この結末は間違っていない。モールがいなくなり、寂しいかもしれないが。モールは幸せになるのだから。悲しむ必要はない」
ベリルの言葉にヴァイオレット、ゼテク、キャノスが頷き、俺を見た。
みんな、モールがいなくなり、俺が悲しむと思い、励ましてくれているんだ……!
モールがいなくなったことより、みんなの優しさに涙が出そうになる。でもそれを堪え、俺は笑顔で告げる。
「これで一件落着だな。……帰ろうか」
気付けば空が茜色に染まり、夕陽が静かに沈むところだった。
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次回更新タイトルは
『わが心の友よ!』
意外な人物がやってきて……。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






