7:父上からの伝言
「女々しいぞ、拓海。いずれ見つかると分かっていたことだ。魔力を使ったことに後悔はない」
モールは……。
最初はとんでもない奴だと思ったけど。
ノエルに対しての行動とか、ベリルを侮辱するようなことも言ったけれど……。
憎めない。
――なあ、モール。明日は一日時間がある。デスヘルドルに行く前に食べたいものとか、やりたいことがあれば、それをやろう。
「う……ん。ならばあのヴァンパイアを抱きたいが」
――モール!
「冗談だ。だが急に言われてもな。この世界のこと、ようやく分かり始めたところだ。考えておく」
――そうか。
「まあ、すぐに思いつかないぐらい、なんだかんだで満足しているということだ。だから気にせず、寝ろ、拓海」
――分かった。
「では場を譲る。我のことは寝かせろ」
――分かったよ。
「でも、その前に」
――?
「ベリル、頼む! 眠れない!」
――な、モール! 何言っているんだよ!
瞬時にモールは退場し、そして扉がノックされ、ベリルが部屋に駆け込んできた。
「ベリル!」
白いネグリジェのベリルが俺に抱きつく。
「モールと話したのだな。大丈夫だ。ちゃんと私が眠れるようにしてやる」
そう言うなりベリルは俺を抱き上げる。
いつだってこれをされると恥ずかしくなってしまう。
だがすぐにベッドにおろされ、ベリルは俺の寝間着の上衣を脱がしていく。
ゆっくり明かりが落ち、その後は――。
濃厚な快楽と共に、深い眠りに落ちていった。
◇
「はーい、拓海様、起きてください」
「起きないと鼻からお水を流し込みますよ」
うん!? 水?
というかこの声は……。
「ヴァイオレット? リマ?」
というか。
なんで俺の部屋にみんないるんだ……?
部屋にいるのは、隊服姿のヴァイオレットとリマだけではない。
同じく隊服姿のキャノス、シナン。
さらには揃いの白シャツにピーコックグリーンのジレ(ベスト)、ジレと同色のキュロット姿のアレン、カレン、それにボールド色のドレスに白衣のスピネル。
このメンバーがいたら、必ずいるのは……。
そう。
ローズピンクのドレス姿のベリルもいた。
「おはよう、拓海」
ベリルを皮切りに、皆、口々に俺へ朝の挨拶をしてくれる。俺もそれに応え、そして――。
「拓海、父上からの伝言がある」
ベッドに起き上がった俺にアレンが紅茶を渡し、ベリルが俺のベッドのそばの椅子に腰をおろす。他のメンバーも壁によりかかったり、ソファの背にもたれたり、それぞれ話を聞く体勢になる。
「私達がいるティストラン大陸に、この世界の理から外れた存在がいる。生者でもなければ死者でもない。異質の存在。他の種族との接点を持たない存在。それがなんであるか、分かるか、拓海? ――そう、父上は問うている」
アレンから受け取った紅茶を手に、俺は固まる。
目覚めてすぐ問われる質問にしては難解過ぎた。
俺が困り顔でベリルを見ると。
「拓海様、これだよ、これ」
壁にもたれるシナンが自身のほくろを指差す。
「え、モール?」
「バカなんじゃない、拓海!」
即刻、リマに否定される。
えーと、そうなると、何だ!?
「拓海、シナンのほくろは特別ですよね?」
キャノスが助け船を出してくれる。
特別。
そうだよな。
女性をいちころにできるのだから。
「拓海、あのほくろをシナンは誰に授けられたか、覚えているか?」
ヴァイオレットにさらに尋ねられ、思い出す。
ブノワの自主制作映画にも登場した……。
「湖の乙女――だよな?」
「正解よ、拓海くん。湖の乙女は精霊と言われる存在、この世界の理とは別の次元で生きているの。だからこそ、シンナくんのほくろみたいな、特別な力を授けることもできる。しかも確かにそこに存在しているのに、彼女と結ばれようと思ったら、この世界の者だったら死ななければならない」
窓際のテーブルのそばの椅子に腰をおろしているスピネルはウィンクし、さらに続ける。
「つまり、死者に、魂という存在にならないと、彼女と愛し合うことはできない。では湖の乙女は死者であり、魂なのかというと――これまた違う。その存在はデスヘルドルの管理者ジェットやマグネス(死の使者)と同じ。特別で特殊な存在なのよ」
「それってつまり……」
スピネルに代わり、ベリルが答える。
「デスヘルドルを統べるジェットやマグネス(死の使者)に唯一、この世界で対抗できる存在、それが精霊であり、湖の乙女だ。彼女の行動にはジェットやマグネス(死の使者)は干渉できない」
「そ、そうなのか……!」
俺の問いに、その場にいる全員が頷く。
アレンやカレンさえ、頷いていた。
「昨晩。あの話し合いの後。皆、なんとも言えない気持ちを抱えることになった。……拓海の気持ちが分かるから、なんとかできないものかと考えた。それは……父上も同じだった。それぞれが書物を調べ、情報を検索し、そして辿り着いた。デスヘルドルと唯一肩を並べられる存在を見つけ出した」
ベリルのこの言葉には胸が熱くなる。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『魔王の姿』
モールの容姿が明らかになる!
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






