51:誰もがベリルの姿に釘付けに
驚いて顔を上げると、婚約者候補の6人が、一斉にプールの方を見た。
俺もその動きにつられ、視線をプールの方に向け……。
……!
心臓を鷲掴みにされた。
プールサイドに沿って、ベリルがヴァイオレットとバーミリオンを連れ、会場に向け歩いてきていた。
ベリルはシルクのイブニングドレスを着ている。
色は瞳と同じ、ルビーレッド。
袖はなく、白い肩が露出している。
大きく開いた胸元には輝く宝石をあしらったペンダント。ペンダントの黄金のチェーンは、大きく開いた背中まで長さがあり、動く度にキラキラした光を放った。
綺麗にカールされたワイン色の髪は左側でまとめられている。
メイクも完璧だった。
特にストロベリー色の唇は、グロスで艶やかになり、目を引く。
誰もがベリルの姿に釘付けになっている。
会場についたベリルは、乾杯と共に挨拶を行い、夜会がスタートした。
すると婚約者候補の6人が、一斉に立ち上がった。
最初にベリルに声をかけたのは、カイだった。堅物と聞いていたが熱心にベリルに話しかけ、そのままベリルをエスコートし、会場に用意されていた二人掛けのソファに腰掛けた。
カイは自身がベリルと同級生であったこと、クラスは違うがずっと知っていたことなどを話しているのだろうか。ベリルの目が驚きで見開かれた。でもすぐに笑顔になり、しきりに相槌を打った。そんなベリルの様子に自信を持ったのか、カイは話し続けた。
遅れをとった残りの5人はというと。
レオは次は俺の番とばかりに、二人が座るソファの一番近い位置に待機している。
そのレオのそばに佇むのはエクリュだった。最年少のエクリュだったが、ベリルを見つめる瞳に込められた熱は、誰よりも強く感じた。
エクリュから少し離れた場所でシャンパンを飲んでいるのは、ハンベルグだった。一応チャンスがあれば話すか、ぐらいの気軽さでそこにいるように見える。
あれ、クレメンスは……?
いた。
クレメンスは最初に座っていたソファに戻っていた。
他の候補者とは違い、クレメンスはゆったりしている。
なんだろう、自分の勝利を確信しているから焦っていないのか……?
そういえばクロノス家のシディアンの姿がない。
そう思ったら……。
いつの間にかベリルとカイが座るソファの背後に回っていて、ベリルに声をかけている。どうやらベリルが手にするグラスが空になっていることに気づき、何か飲み物をとってこようかと尋ねているようだった。
すると。
ベリルがソファから立ち上がった。
自分で飲み物を取りに行くことにしたようだ。するとすかさずシディアンがベリルに近づき、その手をとりエスコートしながら、ドリンクコーナーへ向かった。
ソファに残されたカイは、当然不満そうな顔だ。
ドリンクコーナーに移動したベリルは、新しい飲み物を手に、シディアンと話している。
だがそこにレオが近寄り、ベリルをダンスに誘った。
ベリルはダンスの誘いに応じ、楽団のそばまで移動し、二人はダンスを始めた。
レオはサッカー一筋のはずなのに、ダンスもとてもうまかった。ベリルは言うまでもない、完璧なダンスを披露している。ゆっくり回転をすると、背中の黄金のチェーンがキラキラと光った。
本当にベリルは美しかった。
不意にレオが、ベリルの耳元で何か囁いた。
気づいたら俺は、拳をぎゅっと握りしめていた。
二人の距離の近さに、なぜか気持ちが落ち着かない。
曲が終わり、二人が離れた。
その瞬間にエクリュがベリルに近づき、飲み物をベリルに渡した。ベリルは飲み物を受け取り、エクリュにエスコートされ、さっきとは違う二人がけのソファに座り、会話を始めた。
そのソファの近くに、カイ、レオ、シディアンが集結する。
クレメンスは相変わらずソファから動かず、一人ドリンクを飲み続けている。
一方のハンベルグは……。いつの間にか奥の会場に移動していた。そしてトレーニングルームで、俺がボクシングの指導をした時にもその場にいた、確か名前はイザークという騎士と立ち話をしている。
もしかするとイザークが、スピネルの言っていた彼の第一騎士……?
その前提で二人の姿を見ると、渋るハンベルグをイザークが説得しているように思えた。
「皆が見ているのですから、ベリル様に話しかけにいってください」
そんな風に言っているように感じた。
本日更新分を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『沸き上がる複雑な感情』
『まさかクレメンスが……』
『レオに抱かれているベリルの姿』です。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています‼






