56:ベリル、寝よう!
「あ、ベリルお嬢様、拓海様、お帰りなさいませ」
部屋の外には、カートではない別のいかついベアウルフが、警護についてくれていた。でも部屋の中では、双子のライカンスロープが、入浴の準備をして待ってくれている。両方とも同じライカンスロープの血が流れているのに。同じ種族とは思えない。
「拓海、疲れただろう。ゆっくり湯船につかり、休むといい」
相変わらずベリルは、俺に気を使い、優しい。
ベリルは髪も結い上げているし、ドレスを脱ぐのに時間がかかる。
だから有難く先に入浴させてもらう。
俺と入れ替えでベリルはバスルームに向かい、アレンはベリルのドレスなどを片付け、カレンは冷たい飲み物を用意してくれた。
「なあ、カレン。第六王子の次女の事件。ポリアース国の人間とライカンスロープは、やっぱり対立しているのか?」
炭酸水で喉を潤しながら尋ねると、カレンはアレンの片づけを手伝いながら答える。
「そうですね……。対立というか、ポリアース国の人間の皆さんからは、恨まれている気がします。うんと昔は、本当に人間を連れ去ることが、多かったみたいです。でも、今は法律でも禁じられていますから。恐らく、今回逮捕された新郎の元婚約者をさらったライカンスロープには、厳罰が下されると思います」
するとアレンも、こう捕捉する。
「今回の事件を受け、国王陛下は、ライカンスロープと人間の婚姻を、申請許可制にするかもしれません。つまり、国王陛下が許可しないと、人間との婚姻を認めない制度を、成立させるかもしれないです。当事者を呼び出し、個別に審理官が面談をして、最終的に国王陛下がジャッジする、みたいな。昔からこの案はあったのですが……」
そこで困ったようにアレンがため息をつく。
「特定の季節に、申請が集中するんですよね。つまり今、春。春は申請数がぐんとあがるので、さばききれないのではと見送られてきていたのですが。でもまさか王族の結婚式で、こんな事件が起きてしまうと……」
カレンとアレン、共に同時に腕組みをして、ため息をつく。
「国王陛下一人にやらせようとするから、大変なのだろう? 王族はあれだけいるのだから、王族のみんなで手分けしてやればいいんじゃないか?」
「!! 拓海様、斬新な案ですが、確かにそうですね」
アレンが目を丸くする。
「カート叔父さんに話してみましょう」
カレンは名案という顔で頷く。
そんな感じでしばらく話していたが。
片づけも終わり、双子のライカンスロープは今日の業務を終え、部屋を出て行く。入れ替わるようにベリルが入浴を終え、リビングルームに来た。
ベリルはラムネ菓子のような、淡い水色のネグリジェを着ている。その姿を見ると、途端にベリルに甘えたくなってしまう。
だから。
「ベリル、お水」
「ありがとう、拓海」
冷たい水をベリルに渡すと、ブラシを取りに行く。
ダイニングテーブルの椅子に腰かけ、水を飲んでいるベリルの髪をとかす。
「? どうしたのだ、拓海?」
「いつも寝る前に髪をとかすだろう。だからとかしている」
「……そうか。ありがとう」
ベリルのワイン色の髪は、まだ少し、しっとりしている。
その髪を優しくとかすと、ミントを思わせる、サッパリした香りがした。
艶があって、美しい髪だな。
掴んだ髪を持ち上げ、キスをすると。
「拓海は獣耳と尻尾といい、毛が好きなのか?」
「!? 毛!? 毛は別にどうでも……。俺が好きなのはベリルだよ」
「……そうか」
そう言って俺から視線を逸らしたベリルだが、その頬はうっすらとピンク色に染まっていた。
俺に好きって言われて喜んでいる……。
その事実に、どうしたって嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
鼻歌を歌いながらブラシをしまい、寝室の電気をつけ、ベリルが飲み終わったグラスを片付ける。
もうこれで寝る準備は整ったはずだ。
「ベリル、寝よう!」
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『甘えさせて、ベリル』
です。
甘えたい盛り。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






