50:私刑は許されないとは思うが
11時からの結婚式は、第六王子の次女が新婦で、新郎はなんとポリアース国の人間だ。
なんでも新婦が旅行でポリアース国に行った時に、二人は出会い、そこで恋に落ちたという。ポリアース国では、ヴァンパイア同様、ライカンスロープを嫌う人間も多い。だから恋愛で誕生したカップルは、珍しい部類にはいる。
というのもライカンスロープと人間の結婚は、毎年のように行われているが、それは打算的なものがほとんど。つまり、ゴールドを算出するウルフ王国は、ポリアース国より国力がある。ゆえに金目当てでライカンスロープとの結婚を選ぶ人間が、圧倒的に多いという。
よって王族のライカンスロープと人間が、恋愛を経て結ばれることは珍しい――ということだ。
そんな二人の結婚式は……。
これまでの結婚式と少し違う。
もちろん基本はダンス・ダンス・ダンスなのだが。
ダンスの合間に突然、歌手が登場したり、寸劇があったり、それはまるで……。
俺がいた世界の、披露宴や結婚式の二次会みたいだ。
これまでとは一味違う結婚式を楽しんでいた俺は、手品が終わったタイミングで、トイレに行くことにした。
合図を送ったわけではないが、廊下に出ると、シナンも会場から出てきた。護衛についてくれたシナンに声をかける。
「なあ、シナン。ポリアース国の結婚式って、こんな感じなのか? こんな感じって言うのは、そのさっきみたいに手品があったり、寸劇があったりするのか?」
「拓海様、俺は結婚式を挙げたことがない。それに『ザイド』での結婚なんて、祝いの宴程度のことしかしない。だからまあ、あくまで任務での経験になるが……。新婦の暗殺を依頼されたことがある」
とんでもない質問をしてしまったと、絶句する。
だがシナンは、しれっと話し続けた。
「ポリアース国には、知っての通り、宗教が存在している。だから神の前で、愛の誓いを行う。まず教会で挙式というものをして、その後、披露宴というものを行う。披露宴はまあ、飲み食いして新郎新婦を祝う宴だ。さすがに挙式での暗殺は、難しいからな。暗殺は披露宴でするのだが。その披露宴では確かに今のように、歌ったり、劇をしたり、ショーをしたりというのは、確かにあった」
「そ、そうか」
なんとなく、そういうのを普及させたのは、ノエルなのではとチラリと思う一方で。
新婦を披露宴で暗殺って……。
依頼した奴は、どういう神経をしているのだ!?
「ちなみにな、拓海様。その時のターゲットになった新婦は、マフィアの娘。依頼したのは、マフィアに子供を殺された親たちだ。そのマフィアは、百名近い子供達が乗る船を沈めた」
「な……」
私刑は許されないとは思うが。
子供を失った親御さんの気持ちを思うと…ん…。
なんというか『ザイド』が請け負う暗殺って、いろいろな意味で重い。
その時だった。
こちらに向かい、巨大なケーキを運ぶ給仕の姿が見えた。
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次回更新タイトルは
『思わずゾクッとする目つき』
です。
誰のこと!?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
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