42:さすが百戦錬磨だな
その後は皆で宮殿に戻り、急遽呼ばれて国王陛下夫妻とも話し、そしてベリルは今回の一件を、ロードクロサイトに報告した。
ちなみにアジトには、カーネリアンやバーミリオンも向かおうとしたが、それはベリルが止めた。さすがに結婚式の最中だったし、カイも駆け付けるなら、十分だと固辞した。その結果、宮殿に戻った時。
無事を喜んだカーネリアンから、思いっきり抱きしめられた。
未来の義兄は、ベリルとイチャイチャしていると、途端に義父のようになる。だがそうではない時は……とても頼もしい。
そんなことをしているうちに夕食の時間となり、ただ今日は騒動もあったので、食事は食堂で各自自由にということになった。つまり夕食会はお休み。
食堂に行くと、そこにはクレメンスとアンナがいて、今回の騒動について話すことになった。
クレメンスはしみじみとこんなことを言う。
「本当に拓海はよくさらわれるな。もし僕がベリルの立場だったら、もう心配で、心配でたまらないな」
その言葉に俺は、今更ベリルの心労に気づくことになる。
確かに俺がさらわれる度に、ベリルは『誕生の証』を追って、俺を助けに来てくれた。それに俺も『誕生の証』があるからと、ベリルが助けに来てくれることを、当たり前のように思っている。
ベリルがどんな気持ちで『誕生の証』の魔力を検知しているか、考えたことがなかった。
でもその心中を思うと……。
……怪我をしていないか。痛い目にあっていないか。ちゃんと生きているか。
ものすごく心配しているはずだ。
ベリル……。
隣に座り、アンナと話しているベリルを見て心に誓う。
ベリルを当てにしてはいけない。
これからはさらわれないよう、もっと注意深くなろう。
そして。
助けてくれたベリルに、もっと感謝の気持ちを伝えよう。
そう心に誓い、夕食を終え、部屋に戻ろうとすると。
「拓海。ベリル様から、体についた傷を癒すように言われています。私とシナンの部屋に、来てもらえますか?」
そうキャノスに言われた。
……傷?
そう思ったら、シナンが自身の首や鎖骨を指差す。
!!
ライカンスロープ達がつけた、キスマークか!!
「拓海、私は先に部屋に戻り、入浴をしておくから」
ベリルはそう言うと、ヴァイオレットと共に、部屋へ向け歩き出す。
「分かったよ、ベリル」
シナンとキャノスと並んで俺は、歩き出す。
「なあ、キャノス」
「なんですか、拓海」
「ずっと気になっているのだけど」
「はい」
「ライカンスロープは、ヴァンパイアにはムラッとしないのか?」
素朴な疑問で聞いたつもりだが、キャノスはぷっと吹き出して笑った。
「え、俺、変な質問した!?」
「いえ、拓海がその質問をするのは、セーフですよ」
「!?」
キャノスは笑うのを止め、説明してくれた。
「元々ライカンスロープもヴァンパイアも、魔王の眷属であることは、拓海も知っていますよね?」
それはもちろん知っているので、こくりと頷く。
「魔王配下の時代のライカンスロープは、もっと野生よりだったのです。つまり狼に近い姿をしていました。その時代の名残があるからでしょうか。ライカンスロープ側もヴァンパイア側も、お互いに恋愛感情を持てないというか……」
するとシナンが、分かりやすく捕捉してくれた。
「つまりはアレだ、拓海様。飼い主と飼い犬みたいな感じだ。ヴァンパイアにとってライカンスロープは、飼い犬みたいな存在だった。魔王の時代に。人間と飼い犬は、いくら好きでも結婚しないだろう? その感覚を、ライカンスロープ、ヴァンパイアの双方が、今も本能的に持っている。だからどれだけムラッと期であろうと、ヴァンパイアを見てライカンスロープが反応することはないというわけだ。ミランダ様の時は、魔法薬を使い、悪さをしようとしていたと白状している」
「なるほど」
そう返事をしてから、シナンに尋ねてしまう。
「シナンはライカンスロープと……」
「もちろん。俺が抱いたことがない女は、ベアウルフのメスとデスヘルドルのゴーストぐらいだ。しかしゴーストは……抱けるのだろうか?」
シナン……。
さすが百戦錬磨だな。
そんなことを話していると、キャノスとシナンの部屋についた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『でも聞くなら今だよな!?』
です。
何を聞くのか!?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






