41:切り札投入
カイが俺とミランダがさらわれた後の結婚式の状況について教えてくれた。
「ええ、第十五王女の結婚式は、ひとまず無事終わりました。シドニーは今日中にも逮捕すると国王陛下が息巻いていますし、今回怪我人もなく済んだので、明日の二件の結婚式はそのまま開催するそうですよ。二件の結婚式は、共に宮殿内で行われますし、セキュリティも強化されたそうです。シドニーの捜索にも、明日の結婚式の警備にも、ベアウルフが動員されたそうですし」
「ベアウルフを!?」
その場にいた俺以外の全員が、震撼としている。
置いてきぼりの俺は、ベリルを見た。
「拓海。ライカンスロープは、天敵がいないと言われている。だが野生の狼だった時代の名残で、熊との相性は悪い。でもその熊を克服しようと、ライカンスロープと熊の交配が行われた。その結果、誕生したのがベアウルフだ」
ベアウルフ!? よく考えると、まんまの名前! 熊と狼!
「体格は熊そのもので、その性能は通常のライカンスロープを倍以上にしたもの。嗅覚や聴覚は格段に向上し、スタミナもある。ベアウルフに追われたら、普通のライカンスロープは逃げきれない。その爪で殴られたら、並みのライカンスロープなら即死だ」
怖すぎるっ!
「ゆえにベアウルフは、通常は有事の際に動かされる。そして今回国王陛下は……相当お怒りなのだろうな。ベアウルフを動員したぐらいだから。ベアウルフが動員されたという情報が公開されれば、シドニーは戦意喪失し、国王陛下が言う通り、今日中の逮捕も現実味を帯びるだろう」
ベリルの説明を聞いただけでも。
ベアウルフがなんだかとても怖そうであることが、伝わってくる。
それにしてもライカンスロープは、人間と交わったり、熊と交配したりと、進化に関して実にアグレッシブだ。
「ベアウルフの相手は、ヴァンパイアであっても面倒だ。ただ魔術がある。特にレッド家は、動物全般が嫌う火系統の魔術を扱うからな。対処はできるが……シナン、リマ、『ザイド』では、ベアウルフの相手をすることもあるのか?」
ベリルに振られたシナンとリマは……。
「俺は女性専門だからな。無論、ベアウルフにメスもいるだろうが、お相手したことはないな。……俺に魅了されるかは……試したいような試したくないような」
シナンの言葉にみんなが笑う。一方のリマは。
「過去に依頼がありましたが、正直、面倒ですね。ベアウルフなんて、人間からすると、ただただハイスペックな熊に過ぎませんから。熊相手の近接戦なんて、誰も好んでしませんからね。もう、そんな時は毒です」
「毒!?」
驚く俺に、リマは呆れ顔になる。
「当然でしょ。ハイスペックな熊に、正面から挑むなんて自殺行為。毒入りの食べ物で、毒殺で解決よ。暗殺術に、『正々堂々、正面勝負』なんて関係がないのだから」
言われてみればその通りだが、なるほどだ。
そんなことを話していると、デザートが運ばれてきた。
たっぷりホイップクリームがのったアイスクリームを食べ、遅い昼食は終了した。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『さすが百戦錬磨だな』
です。
? 何の話!?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






