34:目的は?
「ジョージ、女、こいつを拘束しろ」
モールが指示をだす。
目の前を歩いていたタンクトップのライカンスロープ……ジョージが、スーツ姿のライカンスロープへ向かって行く。
女も持っていたドレスをその場に捨て、スーツ姿のライカンスロープへと向かう。
「ジョージ、バーバラ、やめろ!」
スーツ姿のライカンスロープが叫んでいる。
モールはそのまま部屋の中へと進み、ソファにミランダを横たえた。そして手首を結わくロープを解く。解いたロープをジョージへ投げる。スーツ姿のライカンスロープの手を、ジョージが結わく。
バーバラはテーブルの上に置かれていた粘着テープを手に取り、スーツ姿のライカンスロープの足首に巻き付ける。
拘束されたスーツ姿のライカンスロープは、床に転がされた。
「一旦、気絶させろ」
モールの言葉に、ジョージが反応し、嫌な音が響く。
「バーバラ、彼女にドレスを着せろ」
「ジョージ、部屋を出るぞ」
バーバラがミランダに駆け寄り、ジョージが廊下へ向かう。
「バーバラ、ドレスを着せたら、呼びにこい」
振り返ったバーバラが頷く。
モールは廊下へ出ると、リビングルームのドアを閉じた。
廊下に出たモールは壁に寄りかかり、直立不動のジョージに声をかける。
「この部屋の中にいたスーツ姿のライカンスロープ、名はなんと言う?」
「クラークです」
ジョージは直立不動のまま、まるで上官と会話する兵士のように、受け答えをしている。
「クラークか。ジョージ、そいつとお前の関係は?」
「ボスです」
「ボス……お前たちは、誘拐を生業としているのか?」
モールが首を回しながら尋ねる。
「オレ達はギャングと言われています。クラークはオレのボスですが、クラークの上にはシドニーというボスがいます。シドニーが組織のトップです」
「なるほど。なぜ我を……拓海を狙った?」
「目的は、ブラッド国の最高権力者の娘、レッド家のベリルという女ヴァンパイアです」
答えているジョージの額から、汗が噴き出していた。
本当は答えたくないことを、答えさせられ、内心ものすごく焦っていることが伝わってくる。
「ふん。拓海はおまけか。して、なぜベリルを狙った?」
「分かりません」
「理由を知らされていないと?」
「はい」
モールは腕を組み、冷ややかに尋ねる。
「ベリルをさらい、最終的にどうするつもりだったのだ?」
「オレが聞いていたのは、さらった女ヴァンパイアに屈辱を与えた後に殺害し、遺体を目立つ場所に放置するということだけです」
「ふざけたことを。拓海、あのヴァンパイアの着替えが終わったら、家ごと全員燃やすか?」
いや、そんな物騒なことはするな、モール。
とても許せることではないが、私刑にするわけにはいかない。
「生かしておく価値などないと思うが」
こいつらはシドニーの手先に過ぎない。
罰するべきはシドニーだ。
「ではそのシドニーとやらを潰しに行くか」
それは司法の手に委ねる。
「……拓海は甘いというか、優しすぎる」
モールはやり過ぎなんだよ。
そこでバーバラがリビングから出てきた。
そういえば。
バーバラもビデオカメラを持っていた。
そのことをモールに話すと……。
「バーバラ、お前のビデオカメラを今すぐ持ってこい」
バーバラが階段を駆け上がる。
リビングルームに入ると、シルクの黒いドレスを着せられたミランダが、ソファに横たわっていた。
モール、ミランダを起こせるか?
「起こせるが、まだだ」
そこにバーバラがカメラを手に戻って来る。
「拓海、このビデオカメラというのは何だ?」
説明すると長くなるが、簡潔に言うと、映像を記録できるものだ。
「……ほう。ならばコイツらの悪事を記録するか」
そう言ったモールは口笛を吹く。
これまでとは違う口笛の音に、この家の中にいるライカンスロープが全員集合した。
モールは全員を集合させると、バーバラに映像を記録するよう指示を出す。そしてジョージにクラークを起こさせる。
クラークの後ろには、この家にいたライカンスロープ全員が跪いていた。
その様子を見たクラークは……。
しばらくの間、様々な名前を呼び、指示を出す。
だが、誰も反応しない。
「クラーク、なぜベリルをさらったか吐け」
モールの言葉にクラークは、唾を吐いた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『ものすごく怒っている……。』
です。
怒って当然なわけで……。
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






