31:やたらけばけばしい
頭に鈍い痛みを感じ、目が覚めた。
目を開けると、周囲にはベッドカーテンが引かれている。でもそれは宮殿の寝室のものではない。こんなけばけばしい紅いベッドカーテンは、見たことがなかった。
だがしかし。
やけに寝心地がいいマットレスだ。
が。
ベッドカバーは光沢のある黒、枕は紅と、やはりけばけばしい。
まだぼーっとしている頭で、状況把握を始める。
なんというか、さらわれかけたり、さらわれたりも回数を重ねたので、動じなくなっていた。それに『誕生の証』があるから、ベリルに俺がいる場所は、すぐ分かるわけで。
ということで、状況確認を始めた。
口には粘着テープがつけられている。だがあの三騎士のように、体中にワイヤーを巻かれているわけではないから、ヴァンパイアだとは思われていないようだ。ということは魔法使いだと思われているのか?
両手は後ろ手で手錠をかけられているが、足は自由だ。
なるほど。
多分、ミランダをさらおうとしたライカンスロープの仲間に気絶させられ、さらわれたんだな。シナンは、ミランダを結婚式の会場から連れ出した六人のライカンスロープを倒した。バンからさらにライカンスロープが現れたが、シナンなら瞬殺できただろう。バンの中に、ライカンスロープが何人いようが、関係ない。
つまり、俺がこんな状態にならなければ、シナンはあの場を完全に制圧できたはずだ。
だが俺を人質にされ、シナンは動けなくなったと思う。
となると。
ミランダと俺がさらわれた可能性が高い。
そしてここは……ミランダと俺をさらったライカンスロープのアジト。
そう判断したが。
なんでこんなけばけばしいベッドに寝かされているんだ、俺?
それより、なんでミランダはさらわれたんだ?
ウルフ王国とブラッド国は友好国。
ライカンスロープは、ヴァンパイアと仲がいいはず。
とはいえ、ミランダは5つの有力ヴァンパイア、ジョンブリアン家の次期当主だ。
命を狙われる可能性は……ゼロではない。
そう思ったその時。
ドアが開く音がして、話し声が聞こえてくる。
これまで落ち着いていたが、さすがに複数人の話し声に、心臓がドキドキしてきた。
足音が聞こえ、ベッドカーテンがシャッと開け放たれる。
「間違いないな。あの女の婚約者の拓海という人間だ。魔術の効かない体質らしいが、我々は魔術を使わないから、関係ない」
俺を見下ろすこのライカンスロープは……バンから降りてきたスーツ姿のライカンスロープだ。
「なるほどね。あの女。ガキのくせにクソ生意気と思ったけど、供物の人間を婚約者にするなんて、ますますクレイジーだわ」
やけに肉感的な服装をしているこの女のライカンスロープには、怒りを覚える。
ベリルのことをクレイジーだと?
「いいわ。この男は、あたしの娘達のオモチャにするわ。発情期の最中だから、丁度いい。その様子を撮影して、あの女に見せてやりましょう。供物なのに婚約者にするぐらいだから、相当この人間に、あの女はゾッコンなのでしょう」
とんでもないことを、女のライカンスロープが言い出し、俺の顔面は蒼白になる。
「そうだな。なんならライブ中継にするか? こっちはこっちで、あの女を楽しませてもらうから」
「あは! それ面白いかも。なんならこっちにも、そっちの映像を見せちゃう?」
二人のライカンスロープは、楽しそうに笑いだす。
俺はというと、怒りで血管がブチ切れそうになりながらも、あることに気づく。
ベリルもさらわれた?
そんなわけはない。
ベリルは会場でダンスをしていたはずだ。
そうなると……。
こいつらは……。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『俺の初めては、ベリルに捧げる!!』
です。
孤立無援。どうする!?
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






