18:俺の脳裏に薔薇色の世界が広がる
――
「ベリル、そろそろ寝る時間だ」
「うん、そうだな。そろそろ私は部屋に戻ろう」
「待って、ベリル」
「なんだ、拓海?」
――
そう、そうだよ。
それで寝る前におでこにキスではなく、く、唇に、キ、キッスを……。
……。
……。
はぁ……。
想像してしまった。
ベリルとの唇のキスを。
これまで何度ともなく、ベリルにキスをしたくなっていた。
でもそれを全部、我慢してきた。
ものすごい精神力だと思う。
まあ、俺の精神力は、ベリルの吸血で超鍛えられているからな。
魔王でさえ、その制御下におけるぐらい。
だからキスを我慢するぐらい……。
どうってことはない。
なんてわけはなく!
超我慢してましたよ!!
どれだけ我慢したことか~~~。
しばらくはローソファで野垂れ回っていたが、我に返る。
とりあえず『魔王の笛』を、明日着る予定のスーツのポケットにしまうため、寝室へと向かう。
ベリルは明日、ローズピンクのドレスを着ることになっている。それに合わせて用意した俺のスーツは、ライトグレー。ポケットチーフは、ベリルのドレスとあわせたローズピンク。ドレスを着たベリルの隣に並ぶと、二人とも優しい印象になる色の組み合わせだ。
そのスーツのポケットに『魔王の笛』をしまう。
よし。これで問題なし。
「拓海」
「ベリル」
振りかえると、入浴を終えたベリルが、俺の方へゆっくり歩いてきた。苺ミルクのような色味の、可愛らしい長袖のネグリジェを着ている。
そして。
視線は自然とその唇へ向かってしまう。
お風呂上りで少し血色がよくなった、チェリーレッド色のベリルの唇。
艶があり、ふっくらして、柔らかそうだ。
「拓海、もう、寝るのか?」
「あ、いや、その笛を、『魔王の笛』を、明日着るスーツにしまうためにこの部屋に来ただけで」
「そうか。でもまあ、明日も早いし、少し寛いだら休むとしよう」
そう言うとベリルは、ワイン色の綺麗な髪を揺らし、リビングルームの方へと歩き出す。
あ……。
やっぱり寝ようと言えばよかったかな。
それでベッドに横になった時に、モールにキスをしても子供はできないと聞いたと話し、それでキスを……。
いや、待て。
わざわざそんな話をして、キスをするのは、その、いかにも過ぎないか?
それにベリルにとっても、俺にとっても、ファーストキスであることに違いはない。
ファーストキス。
それは人生で一度しか経験できないものだ。
しかもお互いにとってファーストキスという確率は、どれぐらいあるのだろう?
それは……とても貴重なことに思える。
そうなると、俺のキスしたい願望だけで、大切なファーストキスをしてしまうのは……。
ファーストキスは、きっとこの後も何度も思い出すことになるだろう。多分。
ファーストキスを思い出した時。
ウルフ王国に来た初日の夜に、モールからキスをしても子供はできないと聞いたから、早速それをベリルに話し、夜寝る前にキスをした……では味気なさ過ぎる。
思い出した時、ドラマチックと感じるファーストキスにしたい。
例えば……。
そうだ!
俺は6月が誕生日。
そうだよ、それだよ!
俺の誕生日に、ベリルにキスしてもらう。
これだったら毎年、誕生日を迎える度に、ファーストキスのことを思い出し、幸せな気分になれる。
よし。そうしよう。
ということでこの日は、明日の結婚式の出席に備え、少しだけイチャイチャした。
最後はいつも通り、おでこのキスで眠りについた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回更新タイトルは
『拓海くん、久しぶりだな』
です。
いよいよ明日、結婚式のはしご!
それでは今日もお仕事、勉強、頑張りましょう。
明日のご来訪もお待ちしています!!






