72:アオハルだな
「もう手遅れだって分かっている。だから気持ちの区切りをつけるために言わせて。私ね、拓海くんのこと、好きだったみたい」
「え……」
ノエルが俺のことを!?
嘘だろう……。
「好きとは言っても、異性の好きより、家族愛に近い気もするけど……。でもまあ、拓海くんから目を離せなかったし、好きと言う気持ちは事実だよ。それに気づけたのは奇しくもモールのおかげかな」
ベリル以外に告白なんて、されたことがない。
だから未だノエルの告白が現実とは思えないし、どう反応すればいいか分からない。
「あ、ごめん。困るよね、こんなこと言われたら。婚約者もいて、それどころかホリデーシーズンの初日に結婚することも決まっているのに。しかも婚儀へ招待してくれることになっているのに」
まったくもってその通りだ。
告白されること自体は、それは単純に嬉しい。
だって異性として魅力があると言われているわけだから。
でもそれ以上でもそれ以下でもない。
それ以上なんてあってはならない。
俺にはベリルがいるのだから。
「えーとね、何が言いたいのかというと。なんでモールが私に迫るような真似をしたのかは分からない。でも、私は今言った通り、もうこの気持ちは手遅れと分かっている。それに拓海くんには幸せになって欲しいと思っている。心から。嘘偽りなく。だから、もう、あんな風に迫るのはダメだって、モールにはよく言っておいて。何より私は癒しの聖女なのだから。恋愛なんてナシなんだから、ね」
なるほど。
理解できた。
「分かったよ、ノエル。モールにはよく言っておく。それと喧嘩ばかりしていたガキだった俺を、好きになってくれてありがとう」
「あ、言っておくけど、好きになったのは小学生の拓海くんじゃないからね。あの時は完全に弟だから。じゃないと犯罪だよ」
ということは再会してからの俺のことを……。
一瞬、喜びがわき上がるが、いかん、いかん。
俺にはベリルがいるのだから。
「うん。分かったよ。じゃあ、ノエル、先に戻って」
「オッケー。じゃあね、拓海くん。お幸せに」
力強く頷くと、ノエルは部屋へと戻っていった。
ワンテンポ遅れて廊下に戻ると、そこにシナンがいた。
「聞くつもりはなかったが、拓海様」
「まあ、聞こえるよな、そこにいたら」
「青春だな」
「そうだな」
シナンはゆっくり歩きながら、大袈裟に残念そうなポーズをとる。
「ノエル……すごくイイ女なのに、癒しの聖女様か。俺でよければなぐさめたいところだが、さすがに手を出せない」
「シナン」
「なんだ、拓海様」
シナンがこちらを見る。
「ノエルに何かしたらモールに頼んで……」
「拓海様、冗談だから、ホント」
そんなやりとりをしながら部屋に戻った。
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2話目は8時台に公開します。






